2005年社会政策大臣会合コミュニケ発表される
―積極的社会政策は、どのような便益を私たちに提供できるのか

カテゴリー:雇用・失業問題高齢者雇用

OECDの記事一覧

  • 国別労働トピック:2005年4月

経済協力開発機構(OECD)は、2005年3月31日と4月1日の両日、社会政策に関する大臣会合を開催した。今回の会合は、「拡大する機会:積極的社会政策はどのような便益を私たちに提供できるのか?」をテーマとするもので、具体的には、貧困が子供にあたえる影響、壮年期の仕事からの排除、老人の孤独と満足の限界などの問題に各国政府は、どのように取り組むべきであるかについて検討した。また、産業経済諮問委員会(BIAC)、労働組合諮問委員会(TUAC)の代表の参加を得て「社会的保護は政府しか実施できないのか」と題するフォーラムも同時に開催された。以下、OECD諸国が抱える課題のポイントと大臣会合での結論の概要を紹介したい。

議題:積極的社会政策の実施にむけOECD加盟国が抱える諸課題

積極的社会政策については、経済成長と社会保障制度によってOECD加盟諸国の社会状況が飛躍的に改善されるなか、国内就労と資産所得配分に不平等が拡大している現状を認識する必要がある。格差と不平等の拡大は、1970年代半ばから1990年代半ばの20年間に大きなものとなっている。そういった背景から格差への認識、市場経済の配分結果についての関心を持つことは重要であり、貧困と不平等が今だに存在することは、人的資源、機会、人生のチャンスを活用できていない非効率的社会の現れである。貧困層の子供は豊かな親を持つ子供より人生において成功する機会が少なく、この事実は、将来的に所得格差、機会不平等格差が拡大していく要因となる。現在何百万もの家族や子供が直面している貧困への対処を怠ると今後の経済成長を持続させることが困難なものとなることを認識する必要がある。

従来の社会政策は格差解消のため推進されてきたが、富裕層へ課税を行い貧困層の救済にあてるという対策は長期的に見ると解決策とはならない。税率の上昇により投資意欲や労働意欲がそがれ資金の再配分を受けることが困難となることがその理由である。また、公共社会支出の増額は、高齢化人口を刺さるためにすでに労働者の重い負担となっている。

図1

(出所)OECD東京センター「報告書:機会拡大(日本語訳)」より

積極的な社会政策の実現のため優先すべき課題としては、下記の側面が指摘される。

まず、第一には、児童を貧困から救済することが最重要課題であるということ。すなわち、子供が人生の最良のスタートを切れるようにいかに支援できるかということが重要である。また、家庭状況が不安定であり、ケアが不十分であると人生のチャンスが損なわれる可能性が高くなる。税制や公共支出制度の改善に加え、育児支援や共働き両親が仕事と家庭の責任をバランスよく両立できるように支援することが重要である。

第二には、「福祉から就労へ」政策を通じて壮年期の人々が質の高い職業につくことを支援するということ。すなわち、失業者に就職機会を提供し、壮年期の就業者がさらに高賃金の職につけるように技術修得の機会を与えるための政策支援を行う。また、職における福祉の考え方を浸透、実施していくことで、シングルペアレントや障害者に対して支援策を講じる。一方で、福祉に高度に依存することがないように促し、賃金労働以外の社会参加の機会を提供することの重要性も確認される。

図2

(出所)OECD東京センター「報告書:機会拡大(日本語訳)」より

第三には、高齢者の経済、社会生活への参加を拡大していくことが重要であるということ。すなわち、高齢化に伴う年金負担増や政府の財政難、若者が社会投資をしなくなるなどの悪影響を回避しながらも、高齢者の福祉の改善を図り、老齢年金のレベルが下がらないよう、公的年金制度改革を踏まえ、解決策を検討していくことが重要である。高齢者の貧困問題も深刻であると指摘される現状から、年金制度を持続可能とする基盤整備に務める必要がある。また、介護を必要とする高齢者や障害者に対して、効果的で質の高い介護を長期的に提供できるように公的介護と私的介護を組み合わせた政策をとるなど検討すべきである。

第四には、以上の目標を達成するため、社会的目標と経済的目標の双方を兼ね備えた積極的社会政策が期待されているということ。すなわち、社会保障が経済成長に及ぼす負荷を軽減しながらも、雇用のレベルと質を向上させ、さらに給付金への依存も低下させつつ所得配分格差を是正するというような「公共利益」を達成するための政策が期待される。これにより社会からの孤立、疎外などの状況を回避し、人々が目指す目標を達成することが可能になると考えられる。同時に老後の生活の安定を確保することも可能となる。

また、私的年金制度や長期介護における民間サービスに代表されるように政府の活動を補完する民間活力の活用が実際に行われている。非政府組織は、公的組織では手の届かない資源や意欲を活用することができる、一方で、サービスの範囲と公平性に対して問題を残す。期待される効率向上とコスト削減を実現するためには、政府は保障の直接提供者という役割をあくまでも担いつつ、新たにより複雑なガバナンス機能を果たすことが求められている。

大臣会合での結論

積極的社会政策は、経済成長を助け、同時に効果的な経済政策はさらなる機会の拡大と資産の流動化を促し、効果的な社会政策を補足する。社会政策は、時代を先取りし、人々の可能性と潜在性に力を与えるものでなければならない。その合意のもと、大臣会合では下記の結論がまとめられた。

  1. 社会政策、家族政策は、子供や若者が彼らの生活をより良い条件でスタートさせ、子供から大人になるまでの成長を助けるものでなければならない。家族に焦点をあて少子化がいわれる中、子供をもうけることの出来る環境、財政的、時間的視点について検討することが必要である。子を持つ両親はよく仕事と生活のバランスをとる事ができ、女性も経済的利益を生み出せる環境をつくるなどファミリーフレンドリー政策を積極的にとりいれていくことが良い。また、託児所や教育への支援ができるよう財政を整える努力をすべきである。
  2. 年金制度の社会的、財政的改革が必要である。OECD加盟国は公的年金、私的年金双方の統合と分配を分析すべきである。また、長い間働いても年金を享受することのできないセクターがあるが、その退職者に対しても適度の収入が得られようにすべきである。社会政策は、高齢者の活力ある生活を推進するものであり、高齢者がその生活水準を維持でき、貧困が無くなるように努力を継続する必要がある。
  3. 社会的支援があるなかでも家族の世話や病気、失業などで長期間仕事につけない状態のものがいる。社会政策は、雇用や個人の満足への障害を減らし、働きたくても働くことの出来ない人々への支援を提供するものでなければならない。シングルペアレント、高齢労働者、障害者などへの積極的支援を行うことが重要である。OECD雇用戦略は、労働市場から排除されたこういった人々を支援する政策をとるべきである。
  4. 社会政策は、社会目標にあった経済ダイナミズムとの協調性を確保したものであり、経営者、従業員、関係代表組織、各レベルの政府、個人、コミュニティ、NPOなどが責任を分担すべきものである。社会政策へのアプローチの仕方、責任、質の改善等については、ダイアログを行うことでプログラムの目的を明らかにしておくことが重要である。パートナーシップの効果を最大限発揮し、サービス供給のための責任と役割をそれぞれ明確にすることで、持続的で受け入れ可能な適切なサービスを供給できる。企業が率先して広めていくことも重要である。

関連情報