パキスタン政府と二国間協定締結
―労働力不足への緊急対応策としてパキスタン人労働者10万人の受入れに合意

カテゴリー:外国人労働者

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  • 国別労働トピック:2005年4月

アズミ・カリド内務相は3月17日、インドネシア人不法就労者に対するアムネスティ実施後の深刻な労働力不足に対応するため、パキスタン人外国人労働者(男性のみ)10万人の受入れに合意する旨のパキスタン政府との二国間協定に調印した。同協定は、バダウィ首相が2月にイスラマバードを訪問した際のパキスタン政府との合意を踏まえたもの。同首相は、パキスタンを今後のマレーシアにおける労働力受け入れ主要国のひとつに位置づける考えも明らかにしている。

労働力不足への緊急措置としてパキスタン人労働者の受け入れを決めた背景には、アムネスティ実施により一旦大量本国送還したインドネシア人不法就労者のうち、期待通り本国での合法化手続きを経てマレーシアに再入国した者がごく僅かに過ぎなかった現実がある。アムネスティにより本国送還の対象となったインドネシア不法就労者は、約40万人に及び、企業側の痛手は深刻だ。3月24日の政府発表によれば、製造業で20万人、建設業で15万人、プランテーションで5万人、サービス業で2万人もの労働力不足が生じていることが明らかになっている。

マレーシアへの再入国がスムーズに進まないのは、労働者個人の選択ではなくインドネシア政府の合法化手続きが非常に非効率で時間がかかるためであるとマレーシア政府はみている。さらに、今回のアムネスティでマレーシアへの再入国対象となっている労働者に対し、インドネシア政府は、新たな手数料も課している。負担しきれない対象者は、当然ながら、インドネシアに留まらざるを得ない。マレーシア政府は、依然としてインドネシアを優先的な中心的な受入国と位置づけるものの、経済への深刻な影響に鑑みれば、政府側・使用者側ともに再入国予定のインドネシア人を無期限に待つ余裕はないのは明らかだ。

パキスタン政府との今回の二国間協定では、1)パキスタン人10万人の就労を労働力不足が生じている全業種で認める、、2)採用手続を簡素化・迅速化する(事前研修を免除し、健康診断のみ義務化)――など緊急事態に対応するための若干の柔軟性を盛り込んでいる。採用プロセスの詳細は、パキスタンの高等弁務官事務所と調整の上、近日中に発表される予定。詳細手続きが決まり次第パキスタン側は、第一陣を1ヶ月程度で送り出す見込みだ。パキスタン側で本件を担当するのは海外雇用社(OEC)。OECは、募集・採用手続きをスピードアップすることでビザの発給を迅速化するほか、採用候補者に対する試験・面接などに関する使用者へのバックアップ、内定者に対する渡航手続支援も行う。アズミ・カリド内務相は、労働力の送り出し経験が長いパキスタン側の迅速な対応に期待すると同時に、「外国人労働者の補充が必要な使用者は、今後パキスタンを主要な労働力送り出し国として認識して欲しい」などと理解を求めている。

だが、こうしたマレーシア政府の性急な動き対しては、1)10万人ものパキスタン人労働者とマレーシアの使用者側ニーズのマッチングは容易ではない、2)インドネシアと異なり渡航コストが膨大、3)慢性的労働力不足の緩和には一国に依存せず、複数国からバランスのよい受入が必要、4)一度に大量の労働者を受け入れると国内雇用へのマイナス影響が生じる可能性がある――といった声もあがっている。ナジブ副首相は24日、「インドネシア人をまず優先したいが、手続きがこれ以上遅れては、パキスタンのみならず、ベトナム、スリランカ、バングラデッシュ、中国、インド、カンボジアなどからの受入も検討せざるを得ない」と述べている。また、フォン・チャオン人的資源省は、「電子産業では既に輸出受注をキャンセルするにまで至っている。早急な対応策を講じないとマレーシア経済に及ぼす影響は計り知れないことを理解して欲しい」と訴えた。

同協定によりこれまでインドネシア人が大半を占めていた業種にパキスタン人が流入すると、インドネシア経済や雇用にも多大なるマイナス影響を及ぼす可能性がある。また、マレーシア国内の外国人構成にも変化が生じるであろう。マレーシア政府としては、今回の協定締結をきっかけに、インドネシア政府が重い腰をあげ、マレーシアへのインドネシア人労働者の早期再入国に向けた取り組みを急ぐことを期待している。

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