地域雇用開発、分権化、ガバナンスと政府の役割

カテゴリー:地域雇用

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  • 国別労働トピック:2005年3月

「地方の開発」が近年注目を集めている。労働市場政策と経済開発をうまく連携させることで地域社会の利益は生み出される。その相乗効果は、国の競争力の源泉となる。数多くの地域プロジェクトや戦略が打ち出されている中、中央政府の役割はどのように変化していくのであろうか。政府以外が果たす役割は何なのか。OECDでは、世界各地の取り組みの失敗事例や成功事例を学び、各国の制度枠組みにあった地域開発の課題解決のあり方を検討する目的で国際協調の必要性を探っている。 (注1)

ガバナンス概念による分析手法

地域での経済開発、雇用開発の推進のためには、地域に密着した政策を策定し、柔軟な対応によって政策そのものと政策目標値を調整することで相乗効果を生み出さらなければならない。その問題の所在や解決策の発見については地域の現場に期待されるところが大きい。

地域は、新しい手法や行動様式、組織等を生み出す力がある。これは、新事業を推進するという意味だけではなく、地域開発の制度や活動のための戦略に努力を傾けるということである。地域政策や事業管理に柔軟性を持たせることで地域レベルの活動の可能性を現実化し経済社会開発の機会をとらえることができる。これらは「ガバナンス」という用語に説明される。OECDはガバナンスを、「市民社会や産業界とのパートナーシップの中での地域ニーズにあった形での政策を調整する方法」と定義している。

政府や産業界、市民社会が総合的なアプローチで地域開発を推進して成果をあえることができるかを決定する要因は、関係機関のよりよい協力関係の構築であり、異なる政策分野で実施される事業間の対立を減少させることが、政策の長期的な成果を向上させる要因であるという認識は高い。

地域ガバナンスの雇用への影響

各政策分野における産業界など各界や市民社会の代表者との協議を通じて、経済開発戦略や社会参加事業を連携させ、地域の状況に応じた調整を行うことは、全体の相乗効果を増す。

例えば、労働政策が地域的特色を把握し、地域の労働市場のニーズにマッチすることを可能にする。経済団体、労働組合、地方公共団体も職業訓練、職業紹介、再雇用支援等の公共職業安定事業を補足するサービスを提供している。両者の補完性を最大化し、サービスの重複を避けるための共同運営が必要である。職業紹介事業を完全に達成するために、既存のインフラやその不足する部分について、公共交通、地方自治体が提供するサービス等も考慮に入れて実施する必要がある。さらに、急速に変化する企業のニーズにかなう人材の育成のための雇用、職業訓練制度の実施とそのための地域投資の調整を行うことで、労働市場の効率性を高めることが重要である。これにより、OECD諸国が現在重要課題と認識している低技能労働者の技能向上をはかることが可能になる。

以上のように、地域ガバナンスと労働市場の政策効果には一定の関係があることから、近年雇用問題の解決にパートナーシップを取り入れたより総合的な手法が採用されるようになっている。

ガバナンスをより有効にするために

1.パートナーシップによるガバナンス向上のための戦略

そもそも労働市場政策は、潜在的に経済開発を進めるための強力な手段となりえることが指摘されている。実際の労働市場政策が果たす役割としては、政策手段の柔軟性、地域雇用行政の行動様式、職業紹介事業の立案、導入における他機関(経済開発機関、地方自治体、経営者団体、地域市民団体等)の関係を決定するため、雇用労働当局の政策遂行能力に影響を及ぼす。そして、地域特有の問題解決のためには、25年前からパートナーシップが注目され、北米、英国、アイルランドなどで具体的成功例を経て、99年半ば以降は、欧州連合(EU)が地域間格差を縮小する手段としてパートナーシップを雇用および開発のためのプロジェクトとして採用した。これは「地域雇用協定」がパートナーシップモデルとして予算化され、EU諸国のいくつかの国々が採用している。

OECDが1999年から2003年までに行った調査によると、地域パートナーシップは、1)地域で認識されている優先課題に応じた公的政策の導入がすべて調査対象国で促進されている、2)パートナーシップは公共政策と地域の取り組みを融合させることで地域の取り組みを推進する、3)パートナーシップは公的政策の目的をより地域ニーズに合ったものとするのに効果的であるーーなどの数多くの事例が示されている。

現実には、サービスの供給や事業実施へのパートナーシップの関与が少ないことは問題である。パートナーシップの位置づけは、サービスの開発に関して協調において効果を発揮する反面、サービス供給にかかる利害対立を防ぐ意味では、サービスの実際的運用は政府および公共職業安定所などの分権化された機関が担うことが適当である。

ここで、効果的なパートナーシップを阻害する要因としては、1)国家と地域の政策目標の乖離、2)地域の経済開発、雇用開発に関する公的政策の柔軟性の欠如、3)パートナーシップ参加組織、地域社会、議員、有権者との説明責任の欠如、4)パートナーシップ参加組織、団体が存続のみのため経過主義をとってしまうことーーなどが分析指摘されている。

OECDは「パートナーシップによるガバナンス向上のための戦略」として、1)中央レベルで政策目標に一貫性を持たせること、2)パートナーシップの戦略的枠組みを関係組織、団体のニーズに対応させること、3)パートナーシップの説明責任を強化すること、4)公的政策の運用により柔軟性を持たせることーーの4点を提唱している。

2.労働市場政策の分権化

分権化は政策運用の柔軟性を高めるといわれている。分権化改革の評価は、サービス供給の効率性を維持し、意思決定における説明責任を果たす一方で、分権化によって政策運用における柔軟性が増したかという基準で判断される。分権化で政策運用の柔軟性をたかめることで、中央集権的な職業紹介事業だけでなく解決の難しい低技能者、低収入労働者、片親世帯等の複雑な問題や障壁を抱える人々の問題にも対応可能になることが期待されている。しかし、分権化は、柔軟性と説明責任という点に課題を残している。この問題を解決するために、米国やカナダのような移譲型分権化とフランス、スウェーデン、英国に代表される総合型分権化の2つのタイプを検討することが重要である。OECD調査によると柔軟性に関しては、移譲型分権化は、移譲された責任と資源との間でミスマッチが生じやすいこと、移譲された責任に対して地域レベルの人材で対応しきれないなどの問題も存在する一方で、統合型分権化では、公共職業紹介事業においては、総合的分権化は、最終権限を中央レベルに留保しつつ、地方が政策運用の柔軟性を高める可能性をもっていることが指摘されている。

また、説明責任の問題については、移譲型分権化の場合、政府内の異なる層で政治的に受け入れられる説明責任の枠組みに合意を得ることが極めて困難といえる。たとえばカナダのように、連邦政府の雇用保険(EI)と州の社会扶助が共に財源を提供している場合、州政府は、州財源削減を目的に社会扶助受給者を雇用保険への資格のある積極的労働市場プログラムに移行させよう(財政転移効果)というインセンティブが働くことになる。スウェーデンでは国の目標値と地方の目標値に格差があり、国も地方も運用に力をいれることで仲介機関の数は増え、責任体系が曖昧となる危険があると報告されている。

柔軟性と説明責任を両立させることはきわめて難しいという結論にたどり着くが、各政府は、柔軟性と説明責任がトレードオフの関係にあることを認識して、先述のパートナーシップを生かしつつ、独自のモデルを開発することが要求される。

3.サービス供給体制の再構築

政策実施にあたり、サービス供給をいかに行うかに各国政府の関心は高い。近年は、効率性の向上とコスト削減などの見地から、職業紹介事業の民営化、社会的プログラムの供給におけるNGOへの外部委託など公共部門以外の組織、団体が関与している場合が多い。

その例としては、オランダはすでに1990年代に公共職業紹介事業全体を民営化しており、具体的には、公共職業紹介事業は、職業紹介、給付金請求処理などの職業安定業務を行う公的機関と、再雇用支援事業契約をとるために民間サービス企業と同じ扱いをうける民営化企業に分割されている。ベルギー、デンマークでも職業紹介と訓練事業の一部が民間部門に移管されているほか、オーストラリアでは、「ジョブネットワーク」という民間と地域社会パートナーシップで構成する組織が政府と契約を締結し積極的労働市場を実現している。

サービス体制の再構築の課題は、供給体制の再構築が地域ガバナンスに及ぼす影響が明らかになっていない点である。持続性と民営化への依存はサービス供給の効率化につながる可能性をもつが、一方で協力よりも競争が重視され、常に分裂の危機を孕むことになる。しかし、オーストラリアでも、フランス、英国、米国においても、近年は、地域支援ネットワークが政府機関と連携し、「ワンストップセンター」などに代表される社会的一体性をもった取り組みが注目され、その解決を助けている。さまざまな組織のスタッフが連携し、サービス供給を行うことで支援策が調整され、利用者との関係が強化され、ガバナンスも強化される。

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