スマトラ沖大地震被災復興対策
―失業問題など

カテゴリー:雇用・失業問題

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  • 国別労働トピック:2005年2月

2004年12月26日に起きたスマトラ沖大地震および大津波は、アジア11カ国で約30万人の犠牲者を生み、未だ数万人の所在が確認できていない。タイでは南部の大観光地であるプーケット周辺で大きな被害があり、犠牲者が約6000人、負傷者が約9000人、行方不明者も3000人以上に上っている。今回の津波被害により、プーケット県、クラビー県、パンガー県の3件では、ホテルの客室稼働率が10%程度まで低下している。2月以降の予約キャンセルも多いため、更なる稼働率の低下が見込まれている。

ホテルなど観光関連産業で大規模失業の恐れ

タイに最も多くの観光客を送り出している日本では、大手旅行会社のタイ行きツアーを8割の参加者がキャンセルし、グアムやハワイなどに行き先を変更しているという。タイ・ホテル協会(THA)のチャニン会長によると、現在被災地のホテル経営者は、従業員の給与支払いに頭を悩ませており、政府の支援が官僚的で煩雑な手続きのため、各所に行き届いていないと言う。同会長によると、このままの客室稼働率であると仮定すると、約50万人とも言われるホテル・関連業界の従業員が失業する恐れがあるとコメントを発表している。

タイ観光公団(TAT)の予想によると、プーケットなど観光3県の年間減収は400億バーツに上るのではないかと見られている(パンガー県カオラック150億バーツ、プーケット県208億バーツ、クラビー県ピーピー島37億バーツ)。一方TATは、プーケットのビーチは1年以内に再建可能であると見ており、今回の再建を機に、従来風俗店などが立ち並ぶ町並みを、自然災害を想定した安全で美しい街に一新していく方針であることを明らかにした。

被災した労働者に対する補償は

政府の南部6県の災害問題解決・援助実行本部によると、災害復興のため、2005年度中央予算から52億バーツを支給することが決定した。また、世界各国からの義援金はすでに6億バーツを超えているという。また、スワット副首相は、犠牲者への直接支援としてタイ人犠牲者遺族に1人当たり3万バーツを支給(犠牲者が家長の場合は6万バーツ)することを明らかにしており、行方不明家族には捜索費がタイ観光公団(TAT)から支給される。タイ南部は海洋資源の豊富さから、漁業を営む人も多い。特に投資が必要とされる養殖業や遠洋漁業者は、今回の津波被害により失った漁船や養殖場に対して、合計20億バーツ以上が支給されることも決定している。

また、労働省は災害で職場が被害を受けた労働者2万2000人を1カ月雇用し(予算1億1600万バーツ)、更に1万人以上を対象とする職業訓練に4500万バーツを割り当てると発表した。観光業では、約3000人のビーチ行商人やマッサージ師に対して1人当たり2万バーツを支給するとのことである。同省は、復興支援策としても645億バーツの低利融資、及び年利2%のソフトローンを375億バーツの規模で実施することを報告している。

また、観光業においてはイメージの回復が非常に重要であるとの認識から、タイ観光評議会やタイ航空などが中心となって、2億バーツの資金をもとに南部復興キャンペーンを開始する予定になっている。具体的には被災地に会議を誘致して、観光客の増加を目指す。また、格安航空会社においてもバンコクープーケット間のチケットを格安で提供し、観光客数の回復に協力する。

経済成長率への影響

今回の被災地はタイ最大の観光地であり、また年末・年始の観光シーズンのピークであったために、その収益減退は大きい。また、ホテルやビーチ、道路などのインフラへの損害も大きく、2005年第4半期の観光業収益は大幅なマイナス成長が予想される。また、漁業の損害も多く、さらに関連産業である水産物加工業などに悪影響が及ぶと予想されている。

しかしながら国家経済社会開発委員会(NESDB)は、大津波によってタイは甚大な被害を受けたが、経済成長全体に対しての悪影響はそれほど大きくないと試算している。南部6県の経済規模は国内総生産(GDP)の約3%弱であるため、今回の津波の被害が国全体の経済から見るとそれほど大きな影響を与えるとは考えにくい。中央銀行の発表によると、津波災害のGDPへの影響は1カ月あたり0.1%、財務省は0.3%との概算値を出している。2005年の経済成長率は、財務省が6.1%、NESDBが5.5~6%、JPモルガンは4.6%、モルガンスタンレーは5.7%、米リーマンブラザーズは6%と推計している。

タイに入国する観光客数と平均滞在日数及び支出、観光収入

図1

出典:タイ観光公団(Tourism Authority of Thailand:TAT新しいウィンドウ)

タイに入国する観光者の国別入国者数

図2

出典:タイ観光公団(Tourism Authority of Thailand:TAT新しいウィンドウ)より筆者作成

参考

  • Bangkok Post, 2004年12月27日~2005年1月15日
  • 週刊タイ経済、2005年1月10、17日、24日号

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