SMI(職業間最低賃金)の改定をめぐる問題

カテゴリー:労使関係、労働条件・就業環境

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  • 国別労働トピック:2005年2月

スペインでは、実際のインフレ率が予想インフレ率を超えた場合、賃金上昇率をこれにあわせて上方修正するために見直すという方式が、集団交渉における賃金上昇率決定に際して適用されており、集団協約の中に「(賃金)見直し条項」として加えられている。この方式を、SMIにも適用するか否かをめぐって、政・労・使間の交渉が続けられてきたが、 2004年12月28日、「見直し条項」適用を含むSMI改定の合意が全当事者の間で成立し、30日の閣議でも承認された。

しかし、閣議で承認されながらも、ソルベス経済大蔵大臣は、「見直し条項はインフレ傾向に拍車をかけるもの」という見解を表明。今回の合意において、SMIに「見直し条項」を適用するために、SMIについて規定した労働者憲章第27条の改正が含まれている点に強い懸念を示した。同大臣は、SMIの改定をインフレ率と連動させて自動的に行う方式を、労働者憲章改正という形で恒久的に導入してしまうことを危惧しており、さらに、この改定が公務員の賃金や、集団交渉の場での賃金交渉にも悪影響を与える恐れがあると主張した。そこには、労組と雇用者団体との間で現在交渉中の、2005年の集団交渉の大筋を設定する基本合意(ANC)交渉からSMI問題を遠ざけようとする同大臣の意図があるとされる。

さらに、CEOE(スペイン経団連)が、1月10日に予定されていた労組との会合を一方的に突然延期。SMIへの「見直し条項」適用について再度検討するため、12日に執行部会合を緊急に開催し、最終的に、SMIに関する政府・労組との合意にサインしないことを決定した。政府に対しては、雇用者側の同意がなく労組の支持しか取り付けられない状況で、しかもソルベス大臣がはっきりと懸念を表明している「合意」をこのまま推進するのかどうか、決断を迫った。また、クエバス会長は、社会対話を潤滑に進める条件作りのため、サパテロ首相との間でのハイレベル会談の実現を求めた。労組に対しては、ANC更新のために交渉を再開するが、賃金見直し条項は受け入れられず、賃金上昇率の決定にあたっては生産性の基準を導入すべきであり、またEU平均なみの賃金上昇率しか認められないという姿勢を示した。

これを受けて、二大労組のUGT(労働者総同盟)とCC.OO.(労働者委員会)は、緊急に共同コミュニケを発表した。その主な内容は以下の通り。

  • 政府は2004年12月30日の閣議において、SMIに関して労組・雇用者団体・政府の間で取り交わされた合意文書を承認した。政府はそれを適用しなければならない。
  • 実際にSMIを受け取っている労働者の数は限られており、また彼らはもともと集団協約でカバーされていない労働者でもある。従って、今回のSMI改訂が経済全般に与える影 響についてのCEOEの「恐れ」は大袈裟すぎる。
  • 今回のSMI改定に伴う 労働者憲章第27条の修正では、SMI額の決定に際して生産性、競争力、経済状況、消費者物価指数、平均賃金の動向等を考慮に入れるべきと考えている。従って、CEOEが言うようにSMIの自動的な物価指数との連動化が起こるという見方は正しくない。
  • UGTとCC.OO.は、2004年6月8日の社会対話宣言に署名した全当事者が、責任をもってその実現にあたるべきものであると考える。
  • 賃金をめぐる労組側の姿勢は、2001年に初めてANCが結ばれて以来変わっていない。 ANCは労働者、企業、経済全体に安定を約束し、不要な紛争を避ける上で大きな貢献を果たした。これを放棄すれば、不安定要因が増すだけである。 CC.OO.とUGTはANC更新の交渉をできるだけ早く始め、社会対話を維持すべきと考える。

過去数年間にわたって、スペイン経済が他のEU加盟諸国を上回る経済成長を達成してきたことは事実である。しかしスペインのインフレ率は他のEU諸国を大幅に上回っており、経済競争力に深刻な影響を与えかねず、まさに経済のアキレス腱となっている。しかもEU統合過程の中で、スペインという一加盟国政府が自国の経済状況にあわせて金利政策を独自に行うことはできなくなっている。こうしたなか、労組、雇用者団体、政府の三者が、賃金をめぐる政策合意を、いかに求めていくのかが大きな課題となる。

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