女性と労働

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  • 国別労働トピック:2005年2月

1. はじめに

最近のイタリアでは、ビアジ改革(労働市場改革)で導入された労働参入契約を女性にも適用するという省令案が議論の的となっている(www.csmb.unimo.itで参照可能)。専門家は、この措置を、すべての女性を法的・経済的に差別することを奨励する粗野で危険なものとみている(2004年12月8日付Repubblica, L.Gallino, Donne precarie、2004年11月19日付Unita’, D.Gottardi, Donne precarie a vita、2004年11月19日付Manifesto, G.Del Vecchio, Lavoratorici, discriminate per legge)。政府は、この省令によって生じた非難や激しい論争のために、措置を中断しようとはしていない。同省令案は、官報掲載のため、現在会計院の検査を受けている。

少なくとも同省令案の付属報告書には、女性労働を職業コースや契約類型に応じて安定化させるための労働市場措置が考慮されているが、実際には、政策実施の時期に関する問題があるために、ここに現れた措置の指針が放棄される可能性もあるだろう。しかしながら、問題の措置の意義および射程を検討するのは無駄なことではないと思われる。むしろ、省令案の意義および文言を分析することにより、女性(より一般的には、弱い立場に置かれた集団)を労働市場に組み込むための支援策が基礎にしている価値について議論を発展させ、機会均等という、熱望されてはいるがいまだ実現からは遠い目的に到達するための措置と、文字通りの差別との間の繋がりがいかに弱いかを示すことができるだろう。女性労働者に対する促進措置と狭義の差別撤廃措置との間にあるグレーゾーンに関わる措置の具体的なインパクトを実践的に評価するには、ある一方の政治勢力や労働組合側からのイデオロギー的で先入観に満ちた評価ではなく、ビアジ法が提唱したように、慎重かつ精確な検討を行い、試験的な規制を実施して確実に行うのが適切であろう。

2. 労働参入契約

民間部門に関して訓練労働契約に代わり導入された参入契約は、いわゆる不利な立場に置かれた集団(若年者、長期失業者、労働ポストを欠く50歳以上の労働者、労働活動への復帰を望みながらも2年以上就労していない労働者、身体的・精神的に重大なハンディキャップを負うと現行法上認められる者)を、労働者の職業能力に応じた個人プログラムを通じて、9カ月以上18カ月以下の期間で労働市場に参入または再参入させる契約である。さらに、ビアジ法の実施令は、女性就業率が男性就業率よりも20%以上低いか、女性失業率が男性失業率よりも10%より高い地域に居住することを条件に、女性についても労働参入契約の適用を認めている(女性の年齢は問わない)。この就業率および失業率の判断基準を定めるのは、労働社会政策省が奨励し、経済省が同意した省庁間令である。下記にみるように、この問題については、政策決定者と労働組合、そして労働政策の専門家との間で、活発な議論が交わされている。

参入契約の中心的な要素は、いわゆる職業参入計画である。参入契約を利用して労働者を採用するには、労働者の職業能力の適正化を保護することを目的とした参入個人プログラムを契約締結当事者が作成する必要がある。ただ、参入契約の前身である訓練労働契約の規制に内容に倣って、この参入個人プログラムの利用には、過去18カ月以内に参入契約が終了した労働者の60%以上を使用者が雇用し続けていることが要件となっている。また、参入契約の利用を促進するために、規制面および経済面の両方からのインセンティブが用意されている。

全国レベルで比較的代表的な使用者組織および労働者組織によって全国レベルまたは地方レベルで締結された労働協約と、事業所組合代表または統一組合代表によって締結された事業所協約により、継続的訓練に関する職業間基金なども利用した参入個人プログラムの決定方法(とくにプログラムの実施方法)を定める。2004年2月には、CGIL(イタリア労働総同盟)、CISL(イタリア労働者組合同盟)およびUIL(イタリア労働連合)ならびに全使用者組織は、同盟間協定を締結し、イタリア全国で参入契約を直ちに始動させるための規定を定めた。

参入契約は、有期労働契約と同じ扱いがされている。有期労働契約と異なるのは、参入契約には、参入プログラムが存在し、労働市場において弱い立場に置かれる労働者の職業能力を適正化するということである。

現在、イタリアでは就業促進制度の改正中であるため、従来の制度が完全に維持されるのは、見習労働に対する金銭的インセンティブのみである。一方、参入契約の場合は、訓練労働契約について定められた金銭措置(イタリア全国共通に保険料を25%免除。さらに、特定の地域および産業部門について付加的に免除を行う)が適用されるが、これまでのように若年者だけを対象とするのではなく、弱い立場にある労働者全体のために措置が実施される。さらに、法的規制に関するインセンティブ措置にも重要なものがいくつかある。参入契約で採用された労働者は、特定の規制や制度の適用について法律や労働協約によって定められた労働者算定の基準から除外される。また、労働協約の適用上、ある資格をもつ労働者は、当該資格に対応する一定の職務や任務に従事することを予定した労働者カテゴリーに位置づけられるのであるが、労働者の参入プログラムにおいて取得が予定されている資格に関しては、こうした労働協約上の労働者カテゴリーよりも、2段階低いカテゴリーに労働者を位置づけることができる(つまり、報酬はその分低くてよい)。

3.新規制への批判

政府による制度の適用対象者の範囲の公表は、すぐに反発や不和を招いた。2004年10月22日に労働社会政策大臣によって署名されたこの省庁間令は、女性就業率が男性就業率よりも20%以上低いか、女性失業率が男性失業率よりも10%より高い地域とはどこかを明らかにするためのものである。国の就業支援に関するEU法の基準を適用して、同令は、女性就業を促進するための参入契約の締結が可能な地域を、イタリアのすべての州について明確にした。同令は、ISTAT(国立統計局)の失業率および就業率に関する公式データと「労働力、2003年平均」で公表されたデータを採用している。

この結果、下記のように意外なデータが明らかになった。つまり、2003年には、女性就業率が増加したものの、女性に対する参入契約の利用可能性の基準という点からすれば、すべての州がそれを満たしたのである。ビアジ法の指標によると、シチリア州やカラーブリア州で女性のうち約25%しか正規就業についていなかっただけでなく、ロンバルディーア州やラツィオ州でも、女性就業率と男性就業率には20ポイント以上の開きがあった。

2003年9月10日委任立法54条1項e)の定めによる地域の算定
  15歳-64歳の就業率 失業率 C.1 C.2 C.3
男性 女性 男性 女性
ピエモンテ 71.9 51.6 61.8 3.5 7.3 5.1 1 1 1
ヴァッレ・ダオスタ 75.6 56.2 66.1 2.3 5.5 3.6 1 1 1
ロンバルディーア 74.2 51.8 63.1 2.5 5.6 3.8 1 1 1
ボルツァーノ 80.3 59.3 70.0 1.5 2.4 1.9 1 1 1
トレント 74.6 50.2 62.5 2.0 5.3 3.4 1 1 1
ヴェーネト 75.0 50.7 63.0 2.2 5.2 3.4 1 1 1
フリウーリ=ヴェネツィア・ジューリア 71.8 51.7 61.8 2.3 5.6 3.7 1 1 1
リグーリア 69.5 46.8 58.1 4.7 8.7 6.4 1 1 1
エミーリア・ロマーニャ 75.7 58.9 67.4 2.3 4.6 3.3 1 1 1
トスカーナ 72.2 50.6 61.4 3.0 7.4 4.8 1 1 1
ウンブリア 69.8 47.8 58.8 3.4 8.9 5.7 1 1 1
マルケ 72.3 52.7 62.5 3.0 6.4 4.4 1 1 1
ラツィオ 68.9 41.1 54.8 6.5 11.9 8.6 1 1 1
アブルッツォ 69.8 41.1 55.4 3.8 10.0 6.2 1 1 1
モリーゼ 66.5 36.8 51.7 8.8 18.8 12.6 1 1 1
カンパーニャ 59.9 24.1 41.9 16.5 30.6 21.1 1 1 1
プッリャ 63.2 27.5 45.2 10.7 20.6 14.0 1 1 1
バジリカータ 62.5 29.4 45.9 10.7 20.6 14.0 1 1 1
カラーブリア 57.3 26.4 41.8 18.1 35.7 24.6 1 1 1
シチリア 59.8 24.2 41.8 16.0 28.4 20.1 1 1 1
サルデーニャ 61.9 31.2 46.6 13.8 26.4 18.5 1 1 1
  • C.1:女性就業率が男性就業率の80%より小さければ「1」。
  • C.2:女性失業率が男性失業率の110%を超えていれば「1」。
  • C.1.2:C.1とC.2のうち少なくとも1つが「1」ならば「1」。
  • 出典:ISTAT「労働力報告書」のデータより作成

労働社会政策省と経済省は地域を州レベルで選択したのであるが、他の基準を採用してもおそらく同様の結論が導かれたことであろう。たとえば、県レベルで地域を選択したとすれば、110の県のうち措置の対象から除外されるのは、わずか25県だけである。すなわち、トリーノ、ヴェルチェッリ、ノヴァーラ、ビエッラ(以上、ピエモンテ州)、アオスタ(ヴァッレ・ダオスタ州)、ミラノ、マントヴァ(以上、ロンバルディーア州)、ベッルーノ(ヴェーネト州)、ゴリッツィア、トリエステ(フリウーリ=ヴェネツィア・ジューリア州)、ピアチェンツァ、パルマ、レッジョ・エミーリア、モデナ、ボローニャ、フェッラーラ、ラヴェンナ、フォルリー(以上、エミーリア・ロマーニャ州)、フィレンツェ、ピサ(以上、トスカーナ州)、ペルージャ(ウンブリア州)、アンコーナ、マチェラータ、アスコリ・ピチェーノ(以上、マルケ州)である。

参入契約がイタリアのすべての州に住む女性に適用されうるということは、イタリアでは、女性全体が弱い立場に置かれているということであり、また結果として、すべての女性をより低い報酬カテゴリーへ位置付けうることになるため、この制度に対する激しい反発が生じたのは避けられないことであった。

上記の省庁間令は、女性自体を弱者とは考えているわけではなく、労働市場において客観的に差別される限りにおいて女性が弱い立場に置かれるとみているにすぎない。そして、前掲のとおり、男性と女性の正規就業率の格差は、中北部の州で20%から25%、南部の州で30%から35%と、イタリア全体について非常に大きな開きがある。こうした状況はさまざまな逆説や批判を生じさせた。イタリアのすべての女性が、労働市場において不利な立場にあると考えることはできないから、参入や安定化に関する促進措置やインセンティブの付与を避けるべきであろうか?だがそれでは、政策的には正しいとしても、イタリアの労働市場に現存する差別や分離を克服するためのショック療法の適用が認められず、就業の格差を増幅するような形式主義が通用してしまうようなリスクが伴うことにならないか?しかしまた他方で、すべての企業が、今後この規制に基づいて法的・経済的に男性よりも劣る待遇で女性を雇用することが適切だとしても、就業格差が短期間に埋まってしまえば、この省令の規定、したがって下位カテゴリーへの位置付けもまた、無意味になるのではないか?

平等取扱の原則を政策的には正しいが形式主義だとの解釈をとる者によれば、平等取扱原則は、多くの場合、労働市場において優先的な地位を占める労働者、すなわち男性のために不平等を温存するような仕組みになりかねないのである。信頼に足る公的な統計データに照らせば、女性が、労働者の中でも弱い立場に置かれていることは否定できない。このように弱い立場に置かれた者がいるのならば、今回の新参入契約のように、市場でのその地位を改善するための特別な支援策を用いることが要求されるのは基本的に認められよう。さらに、先の省庁間令に対する否定的な反応に対する部分的な反駁として、参入個人プログラムのような特別な保護制度や企業内で労働者に指導員を付けるなどして、ビアジ法が、参入契約で採用された労働者の地位を保護していることを思い出さなければならない。また、参入契約を契機に開始された労働契約を安定させるために、参入契約による採用には一定の限界が設けられている。つまり、参入契約による新規採用を行うためには、それまでの18カ月間に期限の切れた参入契約で雇われた労働者のうちの60%以上が、依然として使用者により雇用され続けていることが必要なのである。

全国雇用計画(2004年10月28日に閣議で承認)やCNEL(経済労働国民会議)の年労働市場に関する2003年報告書(2004年11月に発表)のデータによると、主としてパートタイム労働契約の増加により、女性就業者が増えていることが明らかになっている。女性が締結した契約の中で、パートタイム契約は全体の17.3%に上っているが、他方でフルタイム契約は減少しており、さらに、フルタイム契約の中でも有期契約が多数を占めている。増加を続ける保護された女性就業者を労働時間の運用方法を工夫することで取り込み、また、全体としても労働の弾力性を志向する労働市場においては、さまざまな理由で市場から遠ざかっている(遠ざかってきた)これらの主体を、企業や労働市場における援助を確保した上で労働へ組み込み、その職業能力を守るという契約類型がさらに増えることは、有用であると思われる。

最後に、機会均等の促進に関して、政府は、女性の労働参入を促進する契約類型を定めるだけでなく、1991年4月10日法律125号〔労働における男女の均等の実現に関するポジティブ・アクション〕で明示された他の目的に合致した、機会均等促進に関するポジティブ・アクションへの財政支援も行っている。

女性の労働市場への正規参入を促進する新たな契約類型は、先に述べた形式的平等のような、女性失業率や非正規労働率の高さを示すデータを重視しないという立場をとらないという点で、機会均等に対する好意的な姿勢と一貫しているように思われる。筆者の意見では、女性は、法律の規定上、「社会的に不利な立場にあるカテゴリー」になったのではなく、事実上、そして全国的な統計に照らしてすでに、社会的疎外の危険があり、失業や闇労働に陥りやすい主体であったのである。そして、イタリアで政策決定者と労使とが直面しているディレンマとは、法律上平等な権利を保障し、現実には明らかな女性差別現象に変わってしまうような単純な形式主義を適用するか、イタリアの女性就業を他のEU諸国の水準まで引き上げるような実験的規定やショック療法を思い切って採用するかなのだといえよう。

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