国際自由労連(ICFTU)世界大会
―連帯のグローバル化

カテゴリー:労働法・働くルール労使関係

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  • 国別労働トピック:2005年2月

国際自由労連(ICFTU、シャラン・バロウ会長、組合員数1億4800万人)は、2004年12月5日~10日、宮崎市において、「連帯のグローバル化~未来に向けてのグローバル・ユニオン運動の構築~」をテーマに、第18回世界大会を開催した。大会は、経済のグローバル化と超自由主義的な経済政策の否定的影響に苦しむ人々のために、労働者の基本的権利を遵守させる闘いを強化していくことを宣言した。その一環として、2006年に国際労連(WCL)と統合して新たな国際労働運動組織を結成することを決議した。また、ICFTUと国際産業別組織(GUF)、OECD労働組合諮問会議(OECD-TUAC)がグローバル・ユニオン評議会を創設し、3組織が一丸となって、世界貿易機関(WTO)、国際通貨基金(IMF)、世界銀行に対し、ディーセントな雇用、労働者の権利、男女平等、持続可能な発展の推進を強く働きかけていく方針を採択した。宮崎大会の概要について報告する。

1.グローバル化と国際労働運動の現状

ICFTUが宮崎大会前に発表した報告書「労働組合のためのグローバリゼーション・ガイド」によると、国際貿易は、1980年代及び90年代には、国内総生産の2倍の速度で増大した。また、海外直接投資(FDI)は、80年代は国際貿易の2倍、90年代は1.5倍の速度で増大した。これは、経済のグローバル化の進展と世界経済における多国籍企業の巨大な影響力を示すものである。他方、世界中で貧富の格差が拡大し、国連貿易開発会議(UNCTAD)によると、1960年に富裕層20%と貧困層20%の収入格差が30対1であったのが、20世紀の終わりには75対1に拡大した。

ICFTUは、第16回世界大会(1996年)で「グローバルな市場――労働組合運動に対する最大の挑戦」、第17回世界大会(2000年)で「グローバル経済の民主化――21世紀における労働組合と社会正義」をメインテーマとして取り上げ、グローバル化に対する取り組みを進めてきた。その背景として宮崎大会のテーマ文書は、冷戦終結後の新自由主義の進展により、「雇用や労働者の権利などの社会的側面を無視する形で、貿易や投資規制の緩和が性急に推し進められた結果、しばしば労働者の利益が損なわれてきた」と厳しい認識を示している。さらに近年ICFTUは、「雇用の移転は、弱体化した生産部門から外部委託サービスへと拡大し、付加価値チェーン全体に浸透しはじめている」「ディーセントな労働は、保護もなく、労働組合もない他の国での搾取的な労働条件によって、しばしば脅かされている」「搾取の重荷は、輸出加工区やインフォーマル経済の女性労働者に集中している」など、グローバル化の負の影響が広範囲に拡大している現実に、より一層危機感を強めている。

他方、ICFTUは、労働組合運動の国内レベルと国際レベルの断絶が深刻であり、その活動がもっぱら国内レベルに集中しているため、グローバル化に影響力を行使することが困難となっていると総括している。そして国内の活動と国際的な活動の落差を埋めるためには、国内のニーズと優先課題を国際的な労働運動に直接取り込み、推進力を強化することが重要であると強調している。

ICFTUは、各国政府に対しても、「世界銀行、IMF、WTOなどの重要な国際機関に対する政治的統治の責任をしばしば放棄してきた」「グローバル化を支持する強力な政治勢力の機嫌を損ねるのではないかとの懸念が、政治的麻痺状態をもたらしている」と批判している。

2.グローバル・ユニオン運動の構築

ICFTUは、2000年の第17回ダーバン世界大会において、新世紀を機に、グローバル化に対抗するための国際労働運動の優先課題、戦略を全面的に見直す「ミレニアム・レビュー」の討議開始を決定した。これに基づき特別委員会による検討が進められ、その結果が2001年11月の執行委員会で報告された。執行委員会は、ICFTU、国際産業別組織(GUF)(注1)、OECD労働組合諮問会議(OECD-TUAC)(注2)の3組織が、「グローバル・ユニオン」の旗印の下に結集し、相互に協力して国際労働運動の強化を目指す方針を採択した。また、女性・青年労働者の世界的な組織化キャンペーンの実施、多国籍企業の国際労働基準遵守に向けた取組み、国際労働運動におけるデジタル・ディバイドの回避と教育訓練の実施、国際労連(WCL)などグローバル・ユニオンに加盟していない労働組合との対話促進――などの方針を決定した。

第18回宮崎大会のテーマ文書は、「真に効果的な労働組合の国際主義を構築することは、労働運動の未来にとって中心的な重要性をもつ」「グローバル経済のあり方を根本的に変えなければ、労働者の利益を守ることはできない」「グローバル化とは、労働組合の国内の課題と国際的課題が一体化することを意味する」――などの基本的考え方に立ち、グローバル化のもとで組織を拡大し、国際労働運動を強化するための新たなビジョンを提起している。

その一つとして、グローバル・ユニオンとの協力関係を強化し、真に効果的なものに発展させるため、「グローバル・ユニオン評議会」を創設し、定期的な会合を行うことを打ち出した。これは各組織の方針を調整し、重要課題(労働組合権、雇用と労働基準、多国籍企業、組織化、平等)でのパートナーシップ強化を目指すものである。

また、組織運営と活動方式の効率性を高めるため、現在数多く存在する常設委員会を女性、青年、東欧調整、中東調整、人権・労働組合権など、必要性の高いものに限定し、その他は個別課題が発生した都度チームを立ち上げ、それが終わったら解散する方式に変更することとした。

情報技術を活用した「貿易及び国際労働基準」「国際金融機関」「労働者基金」「労働安全衛生・環境」などの電子情報ネットワークの構築は有効性が証明されており、他の重要な活動分野への拡大を進めていくこととした。

ICFTUには、アフリカ(AFRO、ナイロビ)、アジア太平洋(APRO、シンガポール)、汎米州(ORIT、カラカス)の3つの地域組織があり、規約上、地域組織はICFTUの組織の一部であると規定されている。しかしながら、本部は、地域との関係について、これまで世界方針の地域での具体化や資金配分の点で運動の世界的な一体化に結びついていない側面があったと総括し、連結報告書の作成、地域大会・総会の廃止、地域書記長・執行委員選出方法の変更、本部書記局管理チームと地域書記長が参加する合同企画会議の開催など、効果的な統治と意思決定を確立する方針を提案した。

これに対し地域の重要性や独自性を重視する地域組織から、地域大会・総会の廃止や地域書記長の選出を本部執行委員会の承認とする点を中心に、本部方針案への強い反対意見が提起された。その背景には、グローバル・ユニオンを構成するICFTU、GUF、OECD-TUACの12組織の書記長すべてが欧州出身者で占められている現実がある。アジア、アフリカ、南米の労組は、グローバル・ユニオンの判断基準が欧州労働運動の歴史と経験にのみ依拠したものとなり、自分らの宗教、文化、歴史が軽視されることを強く危惧している。

連合は、APROを通じて、地域組織の役割の重要性を強調し、世界大会では地域組織に関する原則のみを決め、具体的事項は大会後の検討項目とするよう、方針案の抜本的修正を提起した。これを受けて執行委員会は、地域大会・総会の開催や執行委員の選出方法は現行どおりとするよう方針案の修正を行い、大会において修正内容を盛り込んだ決議が採択された。

3.国際労働運動組織の統一

世界労連(WFTU)を脱退した西側諸国の労働組合が1949年にICFTUを結成して以来、国際キリスト教労働組合連盟及びその後継組織の国際労連(WCL)との統一が模索されてきた。しかしながら共同行動と協力以上の関係を望まなかったWCL側の事情により統一は実現しないまま今日に至った。WCLの公表組合員数は、現在、1700万人で、組合費を納入しているのは700万人である。

ICFTUとWCLの欧州組合が加盟する欧州労連(ETUC)の2003年5月の大会において、ガイ・ライダーICFTU書記長は、国際労働運動の統一を強く呼びかけた。その後ICFTUとWCLで統一組織結成の可能性に関する協議が行われ、両書記局による「新しい国際労働組合組織の基本原則」が作成された。これは、新国際組織の基本理念を定めたものであり、両組織の統一のみならず世界のすべての民主的で独立した労働組合ナショナルセンターの結集を希求している。2004年6月のICFTU執行委員会において、この方針が支持された。また、WCL執行部も同年10月の委員会で統一の方針を確認した。

宮崎大会のテーマ文書は、「労働組合にとって重要な課題や挑戦の多くが国際段階で発生している現在、これに対応するために、世界規模で民主的な労働組合の統一を実現することはきわめて重要になっている」と新組織結成の根拠を示している。大会においては、加盟組織から統一の方向性が支持され、「多元主義及び民主主義に基づく新しい労働組合の連合体の創設に真剣に取り組む」「WCLとともに世界レベルの上部組織をもたない独立かつ民主的な労働組合ナショナルセンターに対し、統一の取り組みに参加し、新しい連合体の共同創設者になるよう呼びかける」ことが決議された。

しかしながら、組織統一に関しては、いくつかの課題が残っている。一つはICFTUの3つの地域組織が世界組織の一部であるのに対し、WCLの3つの地域組織は世界組織に対する財政及び方針上の独立性がきわめて高い点であり、もう一つはICFTUの10の国際産業別組織が世界組織から独立しているのに対し、WCLの8つの産業別組織は世界組織の一部となっている点である。統一に当ってはこれらの問題の調整が不可欠となっている。WCLは世界レベルの統一が進んでも国内ナショナルセンターの統一を強制しないよう求めているが、これはICFTUの原則にも合致するものである。

世界レベルの統一が実現した暁には、ICFTUとWCLの欧州組合が加盟する欧州労連(ETUC)の位置づけも変わってくるものと予想される。現在ETUCは、ICFTUとは別個の組織であるが、統一後は新国際組織に結合する可能性がでてくる。その際にはETUCが欧州連合(EU)の中で果たしている独特の役割を踏まえる必要があると指摘されている。

統一にむけた今後の日程は、2005年11月に予定されるWCLの世界大会での統一決議とそれを受けた合同書記局の設置、2006年の新国際組織結成が予定されている。

4.ICFTUの活動方針

ICFTUは、宮崎大会において、今後の活動方針を示した15の決議を採択した(注3)。

グローバル化に対しては、第2決議「グローバリゼーション、ディーセント・ワーク、持続可能な開発」、第6決議「グローバル経済における社会正義実現のためのILO強化」、第7決議「グローバル経済におけるビジネスの社会的責任」で方針を示している。それらの行動プログラムでは、1)貧困の解消に向けた国連「ミレニアム開発目標」の実現、労働者の基本的権利の尊重、先進国と発展途上国の格差縮小、2)ILOの「グローバル化の社会的側面に関する世界委員会」の勧告にある国際的な政策の整合性、効果的な多国間規制とグローバル経済統治のためのILOの役割強化、3)IMF、世界銀行、WTO、OECD、国連システムへの圧力、相互作用、交渉・影響力の強化、4)中核的労働基準の尊重の推進、5)OECD多国籍企業ガイドラインの遵守達成のための方策の促進、6)コーポレートガバナンス、企業の社会的責任(CSR)、グローバルコンパクトなどへの積極的な取り組みの推進――などの施策を打ち出した。

第8決議「組織化」では、ICFTUの活動のすべての分野で、組合員の拡大、労組の承認獲得、労働協約の締結や強化などの組織化活動を重視し、グローバル・ユニオンと協力して、1)国際的な情報交換と組織化の経験学習の推進、2)組織化キャンペーン「女性のための組合、組合のための女性」の推進、3)青年労働者の組織化と永続する雇用の獲得支援、4)輸出加工区など、国際的支援が特に大切な状況下で働く労働者の組織化――などの活動に取り組む方針を示した。

大会後に開催された執行委員会で初の女性会長に選出され、大会では決議委員会委員長を務めたオーストラリア労組評議会(ACTU)のシャラン・バロウ議長は、「今は、グローバル・ユニオン運動にとって非常に重要な時期であり、多国籍企業が労働者の権利を尊重し、サプライ・チェーンが搾取を止めるよう、世界レベルで多国籍企業に対抗していくため、組織化、GUFとの協力を強化していかなければならない」「とりわけインフォーマル経済に従事する労働者や移民など、未組織労働者の組織化が重要である」と述べた。

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