英政府、従業員・若者向けに新たな訓練スキームを導入

カテゴリー:若年者雇用人材育成・職業能力開発

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  • 国別労働トピック:2005年2月

英国にはいわゆる読み書き計算などの基礎学力を持たない者が700万人存在すると言われる。国際競争力の阻害要因となる技能格差の拡大に対し、政府は人材開発における施策を次々と打ち出している。生産性の向上には技能が不可欠であるとして2002年に事業主訓練パイロットスキーム(ETP:Employer Training Pilot Scheme)を6地域に限定して導入、経過が優良であることから全国で実施することになった。

また若年層に対する技能向上の試みも進んでいる。2005年からは、現行のapprenticeshipをさらに低い年齢層にまで拡大するYoung Apprenticeship Scheme が規模を拡大して実施される。

企業向け訓練パイロットスキーム(ETP:Employer Training Pilot Scheme)

ETPは50人未満の小規模企業を主対象としたスキーム。2002年9月に6地域限定で運用が開始され、これまでに10万人以上が参加した。運用実績が良好なことから2006年7月まで全国に拡大して実施されることになった。従業員は基礎学力をつける訓練の機会が与えられ、企業には従業員の訓練受講による労働損失分が補償される。

実施の際には各地域の教育訓練委員会(LSC:Learning and Skills Council)と地域のビジネスリンク、大学等が連携して、地域特性や個々の企業に適した訓練計が提供される。 ETP(注1)の最終目標は全国職業資格(NVQ:National Vocational Qualifications)レベル2の資格取得(表1参照)。

ゴードン・ブラウン蔵相は、「英国はEU主要国のなかでも非熟練労働者の比率が最も高い国のひとつ。全従業員の3割にあたる労働者が極めて低い技術水準であることが英国のアキレス腱である」としてETPの全国展開による能力向上に期待を寄せた。また英国産業連盟雇用者団体のディグビー・ジョーンズ会長は、技術革新のための投資を惜しんでいる間に英国は労働コストの安いインドや中国といった新興経済国に追い越されると述べETPを高く評価した。

若年養成工スキーム(Young Apprenticeship Scheme)

現在政府は「14歳から19歳」という年齢層レンジを対象とした教育訓練分野の施策に特に力を注いでいる。これは英国に未だ根強く残る社会階級の影響もあって、中等教育進路決定に際して「学業」あるいは「職業」いずれに進むかを決定せねばならず、あまりにも早い段階でコースを選択させるとされてきた。

このため義務教育が修了する16歳からのアプローチが極めて重要と考えられており、教育技能省(注2)では”14-19ゲートウェイ(入口)” 戦略を打ち出している。 2004年5月に導入が開始された若年養成工スキーム(Young Apprenticeship Scheme)はその一環。従来の養成工スキーム(Apprenticeship Scheme)は16歳から24歳を対象としているが、同スキームはより若い14歳から16歳を対象とする2年間のプログラム。週に一度、実務的な技術を学ぶ機会を与えられ、修了すると職業訓練科目対象中等教育証書 (GCSEs:General Certificate of Secondary Education)を獲得することができる。GCSEsの取得はその後の職業関連資格取得機会の拡大につながるほか、A-レベルのプログラムに移行して大学教育の道を選ぶこともできるという同スキームの柔軟性によって「学業」と「職業」に分断されていた進路を結びつけることが可能となった。アイバン・ルイス教育・技能相は、2005年9月からは研修の場を現在の1000から2000に拡大すると発表している。また雇用者技能委員会(ESC)の多くの委員が、「養成工制度は全国展開すべきである」との意見に賛成していることから同スキームは今後も拡大されていくものと考えられる。


参考

  • 英国の学校制度と職業教育については、当ウェブサイト国際比較(2004年6月)を参照されたい。

参考文献

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