津波後の生活・雇用の復興の取り組み

カテゴリー:雇用・失業問題労働条件・就業環境

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  • 国別労働トピック:2005年11月

昨年12月26日にアジアを襲った大規模な地震と津波は、インドネシアにも甚大な被害を与えた。ILO(注1)によれば、国内の死者11万人、行方不明者1万2000人、住居を失った者70万人に上る(2005年1月14日現在)。ニアス島とならんで最も大きな被害を受けたアチェ州では、60万人が生計の途を失った。被災地の失業率は、災害発生前の6.8%から30%超へと跳ね上がった。新たに職を失ったのは漁業、小規模・プランテーション農業、零細事業の労働者である。

被災後10カ月が経過した現在も、まだ多くの人々が粗末なテントや仮設住居などに暮らしている。被災地の雇用と生活再建のため、国連機関やNGOなどによる復興活動が続いている。

雇用と職業訓練の支援

国連の専門機関として社会・労働問題を担当するILO(International Labour Organization)は、その主な事業の一つである技術協力のノウハウに基づき、次のような事項を柱とする支援活動を展開している。

  • 基盤インフラを整備しながら仕事と収入を生み出す、労働集約型技術の導入
  • 地域経済開発(LED)を通じた地域経済再生支援
  • 労働市場の回復支援をめざした技術訓練の提供、求職者と就職情報を結びつける緊急公共職業紹介所の設置
  • フォーマル経済、インフォーマル経済を問わず、働く人々を対象としたソシアル・セーフティネットや社会保護に関する技術的助言、支援

今年3月時点でのILOのレポート(注2)によれば、アチェ州のバンダアチェ市では「エスペナード(ESPENAD)」と名付けられた緊急公共職業紹介所がインドネシア労働省との連携により設置され、サービスを行っている。2月7日の開所以降1カ月余りの間に9000人が登録し、400人が臨時・有期雇用のあっせんを受けた。登録手続きの過程で就職のために技術や技能が必要とされると認められた場合には、適切な職業訓練を行う。また登録労働者のデータベースを導入し、市内で今後行われる再建工事の際に建設業者などの雇用主が利用できるようにした。その過程で必要な技能の不足を把握した場合にも、適切な訓練を提供するとしている。

これまでに提供されている職業訓練は、建設技能や監督者向けの残骸除去作業の研修に加え、15~17歳の年少者を対象として家具製造、裁縫、刺繍、基礎的なコンピュータ技能等のワークショップが実施されている。また、ILOの技術協力プログラムの一つである「SIYB(Start and improve your business)」による起業の支援も行われており、28歳までの青年層、女性起業家、労働組合員などが参加している。3月時点で50人ほどがプログラムを終了し、様々な機関で指導者として活躍しているという。

復興活動の遅れの要因

ILOはUNDP(国連開発計画)、UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)、 UNICEF(国連児童基金),WFP(国連世界食糧計画)などとともに、国連のカントリー・チームとして活動している。このほか、アメリカ-USAIDなどの外国政府やNGOも援助活動を展開している。しかし、最近のジャカルタ・ポストの報道(注3)からは、復興活動を進めるうえで様々な障害があることが伺われる。

例えば、10月にアチェを訪れた国連の緊急援助調整官イゲランド氏は、復興活動が遅れていると指摘し、その要因として道路、港などのインフラの未整備、アチェの地の利の悪さに加え、様々な援助機関・団体の活動が別々に展開され、相互の協力が不足していることをあげた。一方資金面については、国際社会から40億ドルを超える義援金が寄せられているため、大きな問題はないとした。イゲランド氏は復興を加速させるため、アチェに調整官を駐在させて住宅の建設を含む6カ月の復興計画を担当させることを表明した。また、各援助機関・団体がより緊密に協力するよう求めた。

一方、被災地の復旧・再建機関(BRR)の担当者によれば、復興活動の遅れは技術的・管理的な問題も一因である。例えば、住宅建設のプロジェクトは政府の許可をとる必要があり、しかも住宅を建てるうえで入居者(生存者)と相談する必要があるために時間がかかる。また、外国政府や機関から寄せられた援助資金を利用するためにドナーや政府からプロジェクトの承認を得る必要があるが、それにも時間がかかるというのだ。BRRは資金の利用手続きを簡略化するために、特別の基金(アチェ・ニアス復興信託基金)を設置するとしている。

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