「スーパー労組」創設をめぐる動き

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  • 国別労働トピック:2005年11月

2005年10月、英国の三大労組、Amicus(アミカス、組合員数約110万)(注1)、GMB(全国都市一般労組、約70万人)、T&G(輸送一般労組、約80万)は2007年1月までの統合を目指し、合併案を発表した。260万人の組合員を擁する「スーパー労組」の出現がいよいよ現実味を帯びてきた。

合併のメリット

合併の推進役はT&Gのトニー・ウッドリー書記長とアミカスのデレク・シンプソン書記長の二人。合併によって、長年にわたる労組間の組合員獲得競争に終止符を打ち、競争に費してきた年間約2000万ポンドの資金を組織化資金に充当できると強調する。

ウッドリー書記長は、T&Gの組織化戦略の成功を引き合いに、合併後の新労組であれば年間1000万ポンドの経費節減効果が得られ、少なくとも400名の地方オルガナイザーを現場に投入することが可能になるとして合併によるスケールメリットを強調した。さらに、すそ野が広く経済の様々な分野で活動するスーパー労組なら、労働者は転職しても組合員資格を維持することができるとして、加入率と残留率両方の押し上げにより年間10万人の新規組合員を加えることができると予測している。

また合併がもたらす国際的な影響についてウッドリー書記長とシンプソン書記長は、「合併は今後さらに国際的な広がりを持つだろう」と予想している。この考えの底流には、欧州全土、米国、あるいはさらに世界全体にまたがる労組が創設されるという確信があるようだ。そうなれば、一つの組合で世界中の特定産業―自動車メーカーや鉄鋼メーカーなど―に属するすべての雇用主に対処することができるようになる。ウッドリー書記長はすでに米国のSEIU(全米サービス従業員労組)と密に接触し、組合員を増やすためにSEIUの積極的な組織化手法を取り入れようとしていると言われる。

合併に対する不安

しかし、すべての人が合併を支持しているわけではない。関係労組以外の労組リーダーたちは、スーパー労組が強大すぎる権力を持つことに懸念を抱いている。TUC(労働組合会議)に関して言えば、スーパー労組がTUCの全組合員の40パーセントを占める。公務部門労組であるユニゾンと併せれば、2労組で議決票の約60パーセントを保有することになり、それ以上の議論は必要でなくなることを意味している。

これらの懸念に対してシンプソン書記長は、三労組は政策問題ではすでに協調関係にあり、政府や経営者との折衝を有利に進めることで労働運動に成果をもたらすと強調している。また、ウッドリー書記長は、スーパー労組が労働党の議決に対して及ぼす影響が肥大化するのではという批判に対して四大労組を含むすべての関係労組をあわせても、党の大会で過半数票を有しておらず、そもそも労組が支持した党の決定も、最近は政府に無視されることが多いと反論する。さらに、組合が新規組合員の募集に成功すれば、労働党に対してより多くの関心を生む可能性があるとも付け加えている。

組合員拡大効果に疑問の声も

スーパー労組は、労働組合員組織化の長期的な衰退を覆すことには成功しないだろうと見る向きもある。TUCのブレンダン・バーバー書記長は年次総会でドイツの例を挙げ「2001年に公共サービス労組(ver.di)が設立され、約300万人の組合員を擁するドイツ最大の労組となったが、その4年後、組合員数は250万人程度に減少した」と述べたほか、合併の協議は、定款、規則や複雑な内部構造の調整が避けられず行き詰ることが多いことを指摘し、慎重な姿勢を見せた。

この発言に対してウッドリー書記長は、「労組が拡大すれば効率改善を通じて、製造業などの斜陽産業で失った組合員の代わりとなる新規組合員を募集するための資金が得られる」と反論。加えて、「費用のかかる中央集権的な執行部が、地方のニーズの変化について行けない。これが若い組合員に魅力をなくし、労組離れを加速させている原因」と硬直的な執行部の姿勢を批判した。

合併にいたるハードル

小規模労組からは、多種多様な労組の声や権利には関心が向けられなくなるのではという別の不満が聞こえてくる。これに対してシンプソン書記長は、過去において大型労組の影響力は、自身の目的を推進するためだけに行使されてきたわけではなく、小規模な通信労組だけでは勝ち取れるはずのなかった英国郵政非民営化など、小規模労組の主張を守るためにこそ影響力を発揮してきたのだと反論している。

しかしこれまでのところ合意されているのは、新労組がTUCの傘下に入り、選挙で選ばれた組合員によって指導されるという基本原則のみで、交渉はまだ緒についたばかり。三労組の内部構造や財務上の規則は複雑に異なっており、合併を実現するために克服すべきハードルはまだ数多く残っている。とりわけ3名の書記長の内の誰が新労組の書記長になるかが重要な問題としてその行方が注目されている。

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