台湾のタイ人出稼ぎ労働者、労働環境などを理由に暴動

カテゴリー:外国人労働者労使関係労働条件・就業環境

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  • 国別労働トピック:2005年10月

8月21日未明、台湾南部の高雄市において、出稼ぎ労働者として滞在していたタイ人労働者約300人が、労働条件と生活水準への不満から暴動を起こした。

台湾は人気渡航先

タイから台湾への出稼ぎは1980年代頃から始まった。現在海外で働くタイ人は登録済み労働者で約55万人、不法就労者を含めると約100万人程度とみられている。海外出稼ぎが始まった当初の1980年代は中東のサウジアラビアへの渡航者が多く見られたが、1991年の湾岸戦争以後は、中東を忌避した労働者にとって台湾が人気渡航国となっていた。現在台湾で働く外国人労働者は約30万人、そのうちタイ人労働者は3分1を占める約10万人とされている。当地ではこれまで外国人労働者に関しての大きな事件がなかったため、現地住民およびタイ・台湾の労働関係者はこの事態を深刻に受け止めている。

給与の支払い方法などに不満

暴動が起こったのは高雄市内にある高雄高速交通社。21日深夜にタイ人労働者が飲酒、騒音を立てながら賭け事を行っていたことに対して、同社の警備員が注意をしたところ、労働者が警備員に襲い掛かったことをきっかけに暴動が起き、社内設備約100億バーツが破損したと伝えられている。

この事件で現地警察および消防署が出動、さらにタイ貿易経済局(TTEO)のマノチャイ副局長、台北と高雄のタイ労働局の担当者が駆けつけ、経営者と労働者の仲介を行った。この結果、22日の昼には混乱は収まったという。タイ人労働者らは、経営者側が定めた規則―特に飲酒・喫煙・賭け事・携帯電話の禁止に対して強い不満を持っていた。給与の支払い方式に関しても、経営側が給与の半額現金支給、残りはクーポンでの支給をしていたことに改善を求めていた。

今回の交渉によって経営側は、労働者から没収していた携帯電話の返却と、給与の全額現金支給、住宅から現場までのシャトルバスの運行などを約束したという。同社には現在タイ人労働者が2025名勤務しており、主に台湾南部の地下鉄建設工事に従事していた。

出稼ぎ非熟練労働者に警告

タクシン首相はこの暴動に関連して、海外出稼ぎ非熟練労働者に対するコメントを発表した。首相は、海外出稼ぎに伴う経営者側の不当な条件や、労働者の脆弱性を指摘、出稼ぎブローカーが謳う高い給与は、高い技能を持ったものに限られていると警告している。一方、タイ経済が好調なことを背景に、国内の労働需要も増加しており、特に東部工業地域(イースタン・シーボード)では3万人以上の求人があることから、「非熟練労働者は国内で就業した方が有利」と述べた。

一方ソムサック労働大臣は、今回の暴動を、台湾における労働者の権利剥奪の氷山の1角と見ており、台湾国内の労働者の労働環境への調査をさらに進めるとともに、他国でも同様の調査を実施することを明らかにした。台湾での調査には、国内の3社に調査および労働者の保護問題の解決を委託した。台湾におけるタイ人労働者の調査を長年実施してきたアジア労働移動研究センターのサマーン研究員によると、経営者が賃金と人権に関してタイ人労働者との雇用契約を違反しているケースが多いという。

台湾側が謝罪

台湾のルー副大統領は24日、TTEOに対して、今回の騒動に関して経営者側がタイ人労働者に対して不当な扱いをしていたことに謝罪の意を表した。ルー副大統領は、現地を視察し、多くの労働者が不適切に狭い部屋に押し込められ、トイレや衛生設備などが極端に不足している状況や、労働者が時折、現場監督から電気バトンで虐待を受けていたという報告を受けたという。同様に、高雄市市長も今回の事件に対して、謝罪するとともに、市長の任期中に外国人労働者の待遇の改善を全力で取り組むと述べている。

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