台湾の外国人労働者への処遇と管理
―タイ人労働者の暴動から学ぶもの

カテゴリー:外国人労働者

台湾の記事一覧

  • 国別労働トピック:2005年10月

8月21日、台南にある台湾第二の都市高雄に近い岡山で夜を徹した暴動が起き、何百人もの激怒したタイ人労働者が建物、自動車、施設に火をつけ、宿舎の外で機動隊と衝突した。今回暴動を起こしたのは、地下鉄プロジェクトの1728人のタイ人労働者で、管理を担うために高雄捷運(KRTC)が権限を与えた経営コンサルティング会社から非人道的扱いをされたと主張して抗議した。暴動の翌朝、この外国人労働者たちの内数百人が本国に送り返されるという噂に抗議するため、ストライキに入った。

地元メディアによると、事件は土曜の夜、何人かのタイ人労働者が禁止されている酒とタバコを宿舎に持ち帰ったことに端を発している。この労働者たちが宿舎に入るのを阻止されると、長い間にわたり厳しく不当な扱いうけてきたことを不服に思った国人労働者が、怒って家を燃やし、ガラスを割り、幹部に石を投げつけて怒りを発散させた。幹部の中には散々殴られた者もいた。

暴動が起きている間、管理を任されていた経営コンサルティング会社、KRTC、外国人労働者が12時間ほど交渉し、経営コンサルティング会社とKRTCが、労働者の16の要求の内14に同意することで危機は収まった。同意項目の中には、労働者の生活環境の改善、携帯電話の使用許可、タイのテレビ番組を見ること、宿舎でアルコールを飲むこと、労働者に実際の超過勤務時間分の支払いをすること、労働者に休日出勤を強制しないこと、規律を守らせるため労働者に暴力を振るわないことが含まれていた。今回の暴動の後のストライキを終結させるため、労工委員会(CLA)は発表されていた「移転計画」の撤回に労働者との交渉の末同意した。

暴動をきっかけに政府は外国人労働者介受入れ組織の管理強化を示唆

台湾で起きた外国人労働者が絡んだものとしてはこれまでで最も激しい暴動に直面し、労工委員会職業訓練局(BEVT、EVTA改め)は、外国人労働者が公安を危険に曝さないようにするため、台湾で法を犯した者には再び台湾に働きに来ることを禁じ、雇用者を罰するためにKRTCが求めているさらに900人の外国人労働者を導入する計画をしばらく見合わせると述べた。

その一方で、 CLA は、タイ人労働者の暴動のような出来事が再び繰り返されないようにするため、台湾に約700社ある外国人労働者を100人以上雇用する企業に対する監督を強化すると発表した。また、 CLAは、学者、専門家、台湾に駐在するタイの公館の役人、人権擁護団体の代表者にこの事件を調査する特別委員会を設置するように促した。その上、CLAは、外国人労働者に経営陣から提供される食事、宿泊所、その他のケアを含む外国人労働者の生活環境を確かめるため、100人以上の外国人労働者を雇用する会社を抜打ちチェックする特別チームを設ける。

外国人受入れのための心得を国民へ呼びかける

謝長廷行政院長は、「外国人労働者ははるばる祖国を遠く離れ台湾に仕事のためにやってきているのであり、大半の人々は重要な仕事をしていると述べ、悲劇が起こらないよう台湾人は彼らの気持ちを理解しようとするべきであり、雇用者は時々彼らの感情に注意を払わなくてはならない」とコメントを発表した。さらに、総統府人権諮問小委員会も招集している呂秀蓮副総統は、暴動の2日後に労働者の宿舎を訪れた外国人労働者に謝罪し、政府に対し調査を迅速に進めるように促した。副総裁は、外国人労働者が台湾でより良い待遇を受けるために暴力に訴えなければならなかった事実を遺憾とし、民間部門と公共部門の関連機関は公務の怠慢を再検討しなければならないことを強調した。さらに、暴動の4日後、与党と野党の議員が検察官に対し、外国人労働者に対して責任を負う経営コンサルティング会社からリベートを受け取っている疑いのある役人を捜査し、不正行為で有罪と判明した公務員を罰するように強く求めた。暴動の3日後に外国人労働者の管理と監督の不行き届きを謝罪したCLAの陳楚委員長は政治責任を負って辞任すべきだと強硬に考える議員さえいた。さらに暴動の5日には、陳水扁総統も「外国人労働者は台湾のインフラ建設に多大な貢献をしてきた。私は主任検察官事務所にこの事件を徹底的に調べるように求めた。我々は役人をかばって隠蔽したりしない」と語ったと地元紙は伝えている。

これまでのところ、 KRTCはこの経営コンサルティング会社との契約を破棄し、タイ人労働者の生活環境の管理に取り組んでいる。生活環境は見たところ以前より改善している。一方、高雄県の検察局は暴動の関連捜査を開始した。

歴史的にみて、台湾が1989年に外国人労働者に門戸を開いて以来、外国人労働者の暴動は今回が初めてではない。しかし、これまでの暴動と比べ、以前は同じ会社で働くさまざまな文化の外国人労働者間の対立であったが、今回の暴動は基本的に宿舎での生活環境に起因して起きた。

今回の暴動は何故起きたのか

大きな問題は、雇用者 KRTC が経営コンサルティング会社に外国人労働者の生活環境を管理する権限を与えたとき、その経営コンサルティング会社には本当に外国人労働者を管理する資格があったかがどう見ても明らかではないことである。管理スタッフは正規の訓練を受けたか、または外国人労働者事業に取り組むための外国語、習慣、文化などの経験があったのだろうか。この管理会社が定めた規則は妥当なものであったか、そしてこの規則は人道的に妥当なものか。管理プロセスと最終アウトプットの管理者は誰か。管理者は、経営コンサルティング会社、雇用者、地方自治体または中央政府のいずれに属するのか。暴力に訴えるのではなく紛争の仲裁を容易にするため、外国人労働者はどんなチャンネルを利用できるのか。こういった問いへの答えがすべて明確なわけではない。

暴動の後BEVTの担当者が言っていたように、これは外国人労働者の管理をめぐる特別なケースに過ぎないのかもしれない。しかし、過去15年にわたり、CLAは台湾に働きに来る多くの外国人労働者に門戸を開いてきた。現在でさえ、タイから9万3625人、フィリピンから9万3572人、ベトナムから9万1862人が働きに来ている。他はマレーシア、インドネシア、モンゴルで、合計約30万0716人が台湾で働いている。それでは、CLAが外国人労働者の生活環境や人事管理を厳格に行ってこなかったのは何故か。考えられる説明は、これまで外国人労働者の仕事は「補助的であるが代替的ではない」仕事であり、補助的仕事のための要員確保が、1989年以来台湾の外国人労働者政策の重要な原則のひとつであったことによる。このような状況の中、長い間いわゆる外国人労働者に関する労働政策は、外国人労働者の総数または割当または比率、および台湾に労働者を輸出する国の特別な考慮事項の方を重要視してきた。その代わりに、相反して就労している外国人労働者のための合理的な管理システムと環境がしばしば蔑ろにされてきた。これが、上記のように暴動が起きた後の、外国人労働者の生活環境または人事管理の現状を改善するというCLAの発表の重要な点である。

現行の補助的な外国人労働者政策の下であっても、CLAが就労している外国人労働者を台湾の社会に関わらせるようにするような新しい戦略をもたらすことが重要と思われる。要するに、 CLA は、異なる文化、慣習、言語、生活背景などに利用できる体系的かつ長期的な外国人労働者管理パッケージを確立しなければならない。また、パッケージがうまく機能するように、計画・活動・評価(Plan-Do-See)の漸進的改善メカニズムを作り上げなければならない。そうなってこそ、おそらく外国人労働者の暴動は台湾で再び起こらないであろうし、完全になくなりさえするであろう。

2005年10月 台湾の記事一覧

関連情報