未申告労働

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  • 国別労働トピック:2005年10月

未申告労働の摘発

デンマークの税務省は、今春大々的に実施されたキオスク及び飲食店における未申告労働の一斉取り締まりの成果を踏まえ、9月19日から10月上旬にかけて今回は全国のパン屋を対象に未申告労働の摘発キャンペーンを行うと発表した。

ブラック・レイバー

デンマークにおいては所得を申告しない労働は、「ブラック・レイバー:Det sorte arbejde」(注1)と呼ばれている。ブラック・レイバーは、それ自体は合法的な賃金労働だが、所得を税務署に申告しないため、税金が徴収されない労働と定義されており、麻薬売買をはじめとしたブラックマーケット取引等の犯罪行為とは区別されている。

未申告労働の実態

未申告労働は、この種の労働の性格上、その実態を正確に把握することは極めて困難だが、1998年に民間の研究機関であるロックウール財団研究機構(注2)がデンマークの勤労者を対象に行った匿名アンケート調査によると、過去数年間に未申告労働により賃金を得た人は4人に1人、また未申告の労働時間数は週平均2時間であることが分かった。

さらに、2005年9月、同研究所が公表した追跡調査によると、未申告労働は毎年徐々に増加の傾向にあると同時に、未申告労働が最も顕著な分野は、土木・建築業界を筆頭に(全未申告労働の48%)、農林業・漁業(同15%)、ホテル・外食業界であることが明らかになった。(表1)

表1 分野別未申告労働の割合(対業界内総労働比:%)
分野 1998年 2001年
土木・建築 16 25
農業、漁業、林業 13 15
ホテル、レストラン 6 10

未申告労働は、具体的には(1)大工、レンガ工、配管工、電気工事士等の職人が低賃金で一般家庭の増改築・改装工事の請け負い、(2)農林業や漁業分野、もしくはホテル・レストラン業界において、失業保険・生活保護の受給者もしくは労働許可証を持たない外国人(留学生)等を低賃金で不正に雇用する(注3)といった形態で展開されるのが典型的なケースだ。また、同追跡調査によると、2001年における未申告労働時間数は週平均5.12時間(男性:5.36時間、女性:3.24時間)で、1998年の2時間を大幅に上回っていることも分かった。

未申告労働と雇用及び税収

ロックウール財団研究所の試算によると、未申告労働がフォーマルな形態で実施され消費税、所得税が課されたとすると、国及び地方自治体の税収(注4)は270億クローネ余りにのぼるとされる。また、これらの未申告労働は7万8000件のフルタイム雇用に相当するとも指摘している。

しかし、例えば大工で隣人のA氏にB氏のガレージ補修工事をしてもらう代わりに、ペンキ屋のB氏がA氏宅の部屋の壁のペンキを塗るといった近所同士の「助け合い」に対しても、労働市場のルールを適用することは妥当ではないと主張する専門家もいて、未申告労働を公平に判断・定義することはなかなか容易なことではないようだ。

未申告労働とEU

他のEU諸国においてもインフォーマル雇用(未申告労働)の是非やフォーマル経済への移行の促進が唱えられている。EUが2004年7月に発表した「加盟国における未申告労働の状況に関するプレスリリース」によると、旧東欧諸国等の新規加盟国における未申告労働は対GNP比で10%を超えている一方、デンマークをはじめとする従来の加盟国の未申告労働は、いずれも6.5%以下となっている。ただし、イタリア(16‐17%)、ギリシャ(20%)を除く。(表2)

表2:EU加盟国の未申告労働(抜粋)(対GNP比:%)
デンマーク スウェーデン フランス ドイツ ハンガリー ポーランド リトアニア チェコ
5.5% 3% 4-6.5% 6% 18% 14% 15-19% 10%

出所

  • 当機構委託調査員レポート

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