ILO駐日事務所新刊紹介:「日本における性的搾取を目的とした人身取引」に関する調査報告書

カテゴリー:労働法・働くルール

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  • 国別労働トピック:2005年1月

国際労働機関(ILO)駐日事務所はこのほど、日本における人身取引の現状に関する調査報告書を発表した。人身取引を強制労働の一形態として長年にわたって取り組みを継続してきたILOは、拡大の一途を辿る人身取引に対処するため、2001年に強制労働廃止特別行動計画(SAP-FL)を設置。人身取引を招く需要側のプル要因を明らかにするため、主要目的地国における調査を実施し、実態把握に努めている。これを受けて駐日事務所は、性的搾取を目的とするものに焦点を絞って日本における外国人女性の人身取引の実情に関する調査を実施。今回発行の報告書は、同調査の結果を踏まえ、大使館へのインタビューに基づいた人身取引の各段階における実例、統計、国レベルの政策・法制への取り組み、地方自治体やNGOのイニシアチブ、――などを紹介している。

日本は、東南アジア、南米、東欧からの女性の人身取引の目的地国として世界的に認識されているものの、性的虐待を目的とする人身取引の実態を明らかにする研究は稀少。また、人身売買について日本を先進国で唯一の「監視対象国」(制裁対象の一歩手前)に分類した米国国務省発行の「2004年版人身売買報告書」をはじめ、国際的な組織犯罪の防止に関する国連条約及び補足議定書(パレルモ議定書)の採択など、日本政府に対する人身取引への取り組み強化を求める国際的圧力が増している。こうした問題意識から同報告書では、被害者の属性や体験にも触れ、日本における人身取引の全体像の把握・理解に努めている。

報告書の構成は以下の通り。序章ではまず、調査の目的・手法・必要性などを概観。そのうえで第2章では、在京大使館の調査協力が得られたコロンビア、タイ、フィリピンの3カ国について、インタビューに基づいた実例を紹介。1)募集・採用、2)移送、3)詐欺・勧誘の形態、4)強制・コントロール、5)借金、6)身体的虐待、7)搾取、8)被害者へ影響、9)大使館の対応、10)大使館、NGOシェルターによる救出後の状況及び帰国手続き――などの実態を、人身取引・人身売買の各段階に分けて検証している。第3章では、警察庁、法務省入管管理局、フィリピン海外雇用庁(POEA)などの資料をもとに、組織犯罪グループ、エンターテイメント産業、興行ビザに関する移民動向、不法就労者の賃金などに関する統計情報を紹介。第4章では、1)暴力団員による不当な高位の防止等に関する法律、2)組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制に関する法律、3)売春防止法、4)風俗営業等の規制及び業務適正化等に関する法律、5)児童売春・ポルノ禁止法、6)労働関連法、7)出入国管理及び難民認定法、8)刑法、9)男女参画基本法――など人身取引に関連する各種現行法を概観した上で、人身取引に関する国際条約、議定書批准に向けた日本政府の対応をカバー。人身取引対策行動計画の策定、関係省庁連絡会議の設置、人身売買罪の新設や逮捕・監禁罪の罰則強化を内容とする刑法改正及び人身取引の被害者への特別居住許可の付与や被害者への移民法適用の緩和を盛り込んだ入管法改正などの法制整備、送り出し国への調査団派遣――など最近の動きを網羅している。第5章では、児童売春禁止法の人身売買禁止規定を初適用した兵庫県警の事例、タイ警察と千葉県警との国際協力による人身売買組織解体の成功例を中心に、地方自治体レベルでの取り組みを紹介。第6章では、アジア女性の家HELP、女性の家サーラー、人身売買禁止ネットワークなどの市民団体、NGOのイニシアチブによる取り組みに触れている。最終章の第6章では、人身取引に関する政府の最近の動向を再確認したうえで、1)公務員及び社会全体の人身取引に関する教育・啓蒙強化、2)特に男性への意識改革、3)被害者への各種サービスに対する財源確保、4)被害者権利の向上、5)被害者へのメンタルケアの充実、6)全国レベルでの連携強化――などを今後の課題として提示している。

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