「労働保障監察条例」が施行される

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  • 国別労働トピック:2005年1月

労働保障監察条例(全文)(日本語訳)

労働法が施行されて今年で10年目を迎える中国では、労働者の権益の保護、県級の労働保障行政の徹底、労働社会保障法体系の完成、経済社会の発展のための良好な労働関係の構築と促進を目的として、2004年12月1日から「労働保障監察条例」を施行されている。

この条例が制定されたことは、労働保障監察の領域で全国的に統一された法律の根拠法が誕生したことを意味しており、立法上の意義は大きいと国内の労使各界から評価されている。

中国では、「労働法」制定以来、労働と社会保障に関する法律は、絶えず改正され、改善されてきた。Man-Hour単位制度や職業訓練、社会保険など法律が相次いで実施されてきた中、この10年間、労働法を確実に遵守するための労働監察に関する法律の規定がなく、空白の状態が続いていたわけである。それが、今回本条例が制定されたことで、労働社会保障分野における法律が依拠する体制が一応の体系を整えたことになる。

さらに、先日、国務院は、法治体制の強化のため「法治行政全面的推進実施要綱」を公布し、「行政の法執行体制を調整、整理し、行政手続の確立を加速し、行政の法執行行為を規範化する」要求を提出している。

今後は、制度として全国の県級に普及され、効果を発揮することが期待されている。

労働社会保障部によると、この条例は、実際の事例や経験を基礎に検討され、策定されたものであると説明されている。「条例」は具体的には、第5章31条から構成され、概要は以下のとおり。

第1章 総則

  1. 労働監察業務の規範化を目的とし、労働者の権益を保護するため労働法と関係法律に従い本条例を制定する。
  2. 企業と個人経営者ほか、職業斡旋機構、職業技能訓練機構、職業技能鑑定機構への労働監察は本条例に依拠して行われる。
  3. 国務院労働保障行政部門が全国の労働保障監察業務を管轄する。県級以上の地方各級人民政府労働保障行政部門はその行政区画内の労働保障監察業務を所轄する。市級人民政府の労働保障行政部門は監察法律を実施する条件に符号した組織に労働保障監察の実施を委託することができる。労働保障監察員は審査、試験によって採用される。労働保障監察証明書は、国務院労働保障行政部門の監督下で発行される。
  4. 事業主は、労働保障法律法規を遵守し、労働保障監察に協力的でなければいけない。
  5. 各級工会(労働組合)は、法により、労働者の合法権益を保護し、事業主の労働保障法律の遵守状況を監督しなければならない。労働保障監察業務では、行政部門は、工会の意見と建議の聴取に努めなければならない。
  6. 公正、公開、効率、庶民の利益を重んじる原則をまもること、教育と処罰を前提とした社会監督をうける必要がある。
  7. 法律違反に対しては、個人も組織も通報する権利を有する。特に労働者は事業主の違反行為に対して提訴する権利を有する。労働社会保障行政は通報者の秘密を保持する義務を負う。

第2章 労働保障監察の職責

  1. 労働社会保障の職責の範囲:法律法規の広報、事業主への徹底、事業主の十種状況の検査、違反行為の検挙と提訴、違反行為の是正と取り締まり。
  2. 監察の範囲:事業所内社会保障規則の制定状況、労働契約の状況、児童労働の禁止規則、女子労働、未成年者の特殊労働への保護の遵守状況、労働時間と休憩時間、賃金の支給と最低賃金基準の実施状況、社会保険の加入と納付状況、職業訓練、職業紹介、技能審査等に関する国の規定の遵守状況等。
  3. 労働保障観察員の公平、勤勉清廉性、秘密保持の規定。

第3章 労働保障監察の実施

  1. 事業主の労働保障観察は事業所の所在地の県級、区を設ける市級の労働保障行政部門に管轄される。
  2. 事業主に対する日常の巡視検査、審査は、要求に基づく書類の提出、通報や提訴などの形式で行われる。労働保障行政部門は、通報、提訴のためのメールボックスや電話を設置すべきである。団体案件は、応急予備方案により関係部門で迅速に処理しなければならない。
  3. 労働監察のための調査の実施:事業所の立ち入り調査、関係者の取調べ、検査事項にかかわる書類の提出と説明の要求、取調書の提示、記録・録音・録画・撮影・複製など資料の収集、会計事務所への事業主による賃金支給、社会保険納付状況の審査の委託、等
  4. 違反行為への対応:調査を行う際、立案から60業務日以内に完了しなければならない。労働保障行政部門の責任者の許可を受けた場合、さらに30業務日を延長できる。
  5. 違反行為への罰則:法により行政処分を決定。改正が見られない場合は法により改正の要求と相応の行政処分を行う。軽微な状況と改正があるときは立案を取り消すこともある。労働保障監察事項に属しない違法案件については、即刻関係部門に移送し処理するほか、犯罪容疑のときには、司法機関に移送する。
  6. 違反行為の処罰の前に事業主の陳述、弁明を聴取しなければならない。事業主は行政再議を申請し、行政訴訟を提訴する権利を有することを告知する。
  7. 違反行為で、2年以内に発見されることがなかったものについては追求取り調べを行わない。
  8. 事業主は労働者への違反行為に対して賠償責任を負う。
  9. 労働保障行政は、事業主の遵法と誠実信頼を確立するためファイルを設置しなければならない。重大な違反行為については、社会的に開示される。

第4章 法律責任

  1. 違反行為への罰則:労働保障部門による改正命令のほか、労働者一人あたり1000元から5000元以下の罰金を支払わなければならない。
    禁止された女性の重労働違反、妊娠中の女性の保護労働違反、1歳未満の乳児の育児期間中の女性の重労働や長時間、深夜労働の禁止違反、禁止された未成年者の鉱山労働などの重労働、有害労働違反、未成年者の定期健診未実施などの違反
  2. 事業主への法に基づく労働契約未締結への改正要求
  3. 事業主による違法長時間労働に対する罰金要求
  4. 事業主の最低賃金以下での賃金支給への改正と経済保障の要求
  5. 事業主による社会保険料の未納への罰金
  6. 職業斡旋、技能訓練、技能訓練機構の違反への改正命令と罰金の要求
  7. 事業主の「工会法」違反に対する改正命令:工会の組織、参加への妨害、工会員の不当な職場からの異動や攻撃報復、労働者が工会活動への参加を理由とした労働契約の終了、工会スタッフの合法的活動を理由とした労働契約の終了。
  8. 事業主が、労働保障監察を理由なく拒否した場合、労働保障部門の要求する書類提出を拒否した場合、改正命令に従わない場合、通報人、提訴人に報復した場合、2000元以上2万元以下の罰金を支払わなければならない。
  9. 労働保障監察人の職権乱用、不正、職務情報守秘義務違反を禁止する。違反した場合は刑事罰となる。

第5章付則

  1. 営業免許のないものへの取り締まりの強化と実施。
  2. 国家機関、事業単位、社会団体が労働保障行政監察の対象となる。
  3. 労働安全衛生の監督検査は、衛生部門、安全生産監督管理部門、特殊設備安全監督管理部門が関係法規に基づき行う。

すなわち、企業、商工会議所も労働行政法規の適用対象となることや職業紹介機構、技能訓練機構、職業技能資格検査機構を適用対象とすることなど労働社会保障監察の適用の範囲を明確に定めているほか、労働監察執行主体と観察員の資格制度、労働保障監察の職責と監察事項を規定、「行政処罰法」などを根拠法とした労働保障監察の手続きと調査のあり方についても具体的に示している。さらに、労働時間、女子労働や児童労働、集団契約、賃金支払いなどに関する労働法、行政規定への法律違反行為に対する法的責任の所在等を規定し明らかにしている。このように、「条例」では、法の範囲、原則、主体、内容、手続き、監督機関、監督官の職責や権利義務を明確にすることで法執行行為の規範化を徹底し、各レベルの労働保護行政部門による法治行政の推進が重要視されている。

労働保障監察における使用者と労働者の権利と義務を明確にするため、「条例」は制定されたが、労働社会保障部は、さらに五つの基本原則を掲げ、「条例」が有効に運用されことの意義を説明している。五原則の具体的内容は以下のとおり。

  1. 農村出稼ぎ労働者を含む広範な労働者の権益の保護を重視する原則。
  2. 国民、法人、その他組織の合法権益保護に有益であるよう法執行業務が合法である原則。
  3. 労働保障監察の執行活動の透明性を高め、公衆の知る権利、参与権、監督権を保護し、その表現手段としての社会的に公開する原則。
  4. 公正の原則により事実に基づく労働保障監察を行う原則。
  5. 効率的で市民の立場に立った監察を行う原則。

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