新政権、労使との「社会協定」にサイン
「対話と合意」をモットーに掲げて発足した社労党(PSOE)現政権。労働市場政策においても、労使との対話路線の確立を課題としてきた。こうしたなか、6月8日、サパテロ首相、二大労組である労働者総同盟(UGT)と労働者委員会(CC.OO.)、使用者団体のスペイン経団連(CEOE)及び中小企業連合(Cepyme)の各代表が会し、政・労・使三者間の「社会協定」に署名。これをもって、三者間における「社会対話」が正式に開始した。保守派国民党政権発足直後(1996年)にも、首相と労使双方の代表が首相官邸に会する場面はあったが、今回は単なる口頭での意志表示にとどまらず、協定文書への署名であった点が大きく異なる。
社労党(PSOE)が、社会経済政策上の公約として掲げるのは「有期雇用の削減、競争力と生産性の向上」。今回の協定の主たる目標にもなっている。これに対し労組側は、欧州で最も高いとされる有期雇用率への対策と同時に、社会保護政策全般の改善を求めている。他方、使用者側が求めているのは、社会保険料負担の軽減と解雇システムの見直しである。
政・労・使ともに、スペイン労働市場における問題の所在については共通の認識を有しているものの、対処方法となると一致した意見を見出すことは容易ではない。事実、今回の協定にこぎつけるまでの道のりは決して平坦なものではなかった。最終的に、全当事者の要求を取り入れ、また全ての点に関する話し合いを約束することで合意している。
サパテロ首相は早速、協定の具体的内容の展開を目指して夏休み明けにも作業を開始したいとしているが、これは次期総選挙が行われる2008年までの全政権期間を要する作業となることが予想される。
協定でとりあげられているテーマは、以下の13点。
- 有期雇用
1997年に当時の国民党政権と労使との間で結ばれた安定雇用促進に向けた協定を、更に深化させつつ有期雇用の濫用を防ぐ。
- 若年者、女性等の社会的弱者
若年者、女性、高齢者、障害者の雇用促進を図る。
- 移民労働者
外国人法適用規則について協議する。
- 職業訓練
各自治州政府の参加を得ながら、現行のモデルの適応を図る。
- 国家雇用庁(INEM)の改革
職業紹介と失業手当支給を主な業務とするINEMの業務効率化のため、必要な改革を行う。
- 労働監査の強化
労働監査の機能向上のため、人材・財源を増やす。
- 工業政策
環境保護及び京都議定書遵守を考慮しつつ、高い技術水準獲得に向けた投資促進政策を進める。
- 最低賃金
将来の最低賃金額改訂方法について検討する。
- 労働者の参加
企業の決定に際しての労働者側代表の参加形態につき検討する。
- 労働災害
労災の原因追及と防止のために積極的な政策を展開する。
- 集団交渉
労使間で集団交渉のあり方や内容について検討し、企業や生産部門からの要請や、生産性向上の目標に適した方法を探る。
- 労使の役割
労組及び使用者団体の機能を強化する。
- 年金
公的年金制度の中長期的維持に関する「トレド協定」(注1)の枠組みにおいて、様々な年金問題(年金保険料と年金額の関係、雇用創出への影響、etc.)の解決を目指す。
注
- スペインでは1995年に、国会の全政党が公的年金制度の将来及びその資金繰りをめぐって協定を結び、一連の政策勧告を行った。これを「トレド協定」と呼ぶ。期限は2000年で終了したが、国会下院トレド協定委員会が3年間にわたる専門家・関係者らへの諮問を経て作成した報告書を受けて、2003年10月に同協定の更新が下院で承認された。(海外労働情報2004年1月を参照)
関連情報
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