時短の流れに逆流現象
―無給労働の「連帯の日」問題

カテゴリー:労働法・働くルール労働条件・就業環境

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  • 国別労働トピック:2004年8月

6月17日、労働者が無給で労働力を提供する「連帯の日」を、原則として年に1日設けるとする法律が成立した。7月1日に施行、これに伴い2005年から休日が一日減ることが決定した。労働者は、無償で労働力を提供すると同時に、企業もそこから生じた付加価値について一定の割合で税金を国に納める。この税収を高齢者や身障者に関する政策の財源に充てることが目的だ。理論上は、労使双方が無償で、高齢者と身障者のために1日就業するということから、「連帯の日」と名付けられた。2003年8月の猛暑で多くの高齢者が死亡したことを受け、その対策として政府が同年11月に原案を発表、その後議論が続いていた。

法案の審議では、ジョスパン前政権で時短政策を進めてきた現・野党の社会党(PS)と共産党(PCF)のみならず、中道政党・フランス民主連合(UDF)も、共同戦線を張ってこの法案に反対した。社会党は、「連帯の名のもとで、政府は、勤労者の賃金を抑制しながら労働時間の延長を目指しており、しかも、増税を伴っている」と非難。「不当な改革」と主張した。共産党は「この法案は、大きな失政を隠し、社会が獲得した権利を不当に奪おうとするもの」とし、フランス民主連合は「この政策は、愚策で、時宜をも得ておらず、追加の就業日に同意する労働組合は、皆無だろう」とした。特に2004年3月の統一地方選挙敗退の後には、与党・民衆運動連合(UMP)内からも、制度実施の延期など様々な意見が噴出した。これらの批判を受けて政府は、与党との協議を重ねた結果、施行日は変えないものの、「連帯の日」をいつにするかについては、「労使交渉で自由に決めることができる」と修正案を示し、ようやく決定にこぎつけた。

修正の結果、民間部門では毎年の労使交渉で、公共部門では関係者間の交渉を通じて組織の管理部門が「連帯の日」をいつにするか決定することになった。対象となるのは、これまでに就労していなかった日であり、現行の短縮就業日の就労時間を延長することでそれに充てることはできない。また、国民の休日であるメーデーも対象から除外される。

労働者は、この交渉の際、就業日を1日追加する代わりに、1年間に分散された7時間の労働時間延長(例えば『1年間に7日間の1時間延長』)という方法を選ぶこともできる。

高齢者問題担当のファルコ相によれば、「連帯の日」を設けることにより、来年以降、年間約20億ユーロ(約2600億円)税収拡大が可能であり、それらを財源として老人ホームの看護師や、訪問看護師の増員など、高齢者や身障者の諸施策の充実が図られる。

これに対し労働組合側は、「社会相互扶助の政策と見せかけた労働時間の延長」であるとし、追加就業日に関する交渉の拒否を早くも表明している。一方、経営者団体のフランス企業運動(MEDEF)は当初、この労働時間延長策に好意的であったが、政府が第二弾の施策として「連帯の日」から生じる利益への課税強化案を示したことに反発。一転して不満を示す姿勢に転じた。

法案成立にタイミングを合わせるかのように、7月には、自動車部品メーカーのボッシュ社が一部の工場で、賃金据え置きによる労働時間の1時間延長を決定した。チェコへの移転回避策がその理由。フランスでここ数十年間続いてきた時短の流れは逆流に転じたのか。懸念が広がっている。

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