欧州労使関係研究所賃金調査:依然として高い男女賃金格差

カテゴリー:労働条件・就業環境統計

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  • 国別労働トピック:2004年8月

4月にEIRO(欧州労使関係研究所)が発表した2003年版賃金調査によると、EU旧加盟15カ国及びノルウェー平均で、男女賃金格差は18.6%(2002年時点)。前年調査の19.2%(2001年時点)より改善がみられるものの、EUはこれを、依然として高い数値であると位置づけている。このうち、最も乖離が大きいのがオーストリア(32%)。ドイツ、スペイン、ポルトガルも比較的ギャップが大きい。逆に、最も格差が少ないのがルクセンブルグ(11%)で、フランス、アイルランド、ノルウェー、デンマークも格差は小さいグループに属する。一方、新規加盟・加盟候補国10カ国(注1)における格差平均は17.7%で、最も大きいのがスロヴァキア(28.3%)。最も少ないがスロヴェニア(9.6%)であった(図1)。

  • 注1:*2000年、**2003年、***1998年、****2001年を除き、数値は2002年時点。比較は、平均時間給で算出したもの。
  • 注2:全体平均は調査対象26カ国平均。EU及びノルウェーはEU旧加盟国15カ国及びノルウェー平均。新規加盟・加盟候補国は10カ国平均。
  • 出所:EIRO(欧州労使関係研究所)

ここ数年のEUの女性雇用率は順調な伸びをみせ、2002年にはEU旧加盟15カ国平均で55.6%に上昇。拡大EU25カ国平均でも55.6%だ。欧州雇用戦略の中間目標とする雇用率57%(2005年時点)の達成は目前であるばかりか、2010年のターゲットである60%も、到達には遠くない。デンマーク、オランダ、オーストリア、ポルトガル、フィンランド、スウェーデン、イギリスでは、現時点で既に60%を上回っているほどだ(図2)。2002年には、男女雇用格差は、17.2%ポイント上昇している。しかし、EU委員会は、「高齢者雇用率の伸びが低調なのに比べ、女性の雇用率は目標達成にむけて着実に上昇しているが、その背後に横たわる男女賃金格差の是正については、見落とされがちだ」としている。

出所:Eurostat

だが、欧州雇用戦略は、雇用率にあらわれる仕事の量のみならず、賃金平等を含む仕事の質の向上を重視しており、女性の労働市場参加を、格差是正と平行して行うもの、と位置付けている。このため、ストックホルム欧州理事会(2001年)では、加盟国に、賃金格差是正を目的としたターゲット設定を求め、バルセロナ欧州理事会(2002年)では、育児施設拡充について、2010年までに、3歳から就学年齢までの児童の90%、3歳以下児童の33%に育児施設を提供する目標設定をしている。また、さきに発表された2004年雇用勧告でも、男女賃金格差と育児施設拡充が、大半の加盟国の優先課題としてあがった。

男女賃金格差の背景には、女性のパートタイム労働の高いシェア、あるいは性別職務分類、税制上のディスインセンティブ、仕事と家庭の両立困難-等、様々な要因がある。例えば、雇用率アップの背後で、性別職務分断が広がっている加盟国(スペイン、アイルランド、ルクセンブルグ、オーストリア)があることに注意する必要がある。また、EU全体の就業形態をみると、男性がパートタイム労働に従事する割合が5%以下であるのに比して、女性のシェアは約3分の1に及んでおり、その3分の1は、育児その他の介護を理由に、パートタイム労働に従事しているという。このため、多くの加盟国は賃金格差是正と性別職務分離をリンクし、優先的な政策課題としているほか、主に仕事と家庭の調和を図る諸政策を通じて、女性の労働市場参加を促している。

しかし、こうしたジェンダー主流化(注2)のアプローチが体系的でなく、既存制度や新政策のジェンダー面での効果に対する評価が欠如しているため、具体的な成果は明らかではない。例えば、育児支援を重要項目に位置付けているものの、育児施設そのものの質やコスト、便宜性にはあまり注意を払っていない加盟国は多い。均等待遇に関する法制度の整備のみならず、目標設定、評価制度、格差分析等を取り入れるなど、より積極的な取り組みが求められる。

女性の潜在的な労働力の活用とそのための社会的環境整備は、深刻な労働力不足を迎えるEUに不可欠だ。EU25カ国で現在3億3千万人の労働力人口が、2030年には、2億8千万人に減少し、2010年のEU全体の目標雇用率70%を達成したとしても、雇用規模が大きく減少する。EU15カ国では、就業年齢の女性のうち640万人が未就業、女性の失業者数は660万人に及ぶ。女性の積極活用は、若年者、高齢者、移民の参加と同様に、極めて重要だ。女性雇用をさらに引き上げるためには、社会パートナーとの連携のもと、税制・賃金制度の整備、適切で財政負担可能な育児施設の拡充、パートタイム労働の充実、女性の就職、再就職支援-等による男女格差の是正をいかに進めていくかが鍵となりそうだ。

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