EU拡大とスペイン労働市場改革の新たな試練

カテゴリー:雇用・失業問題労働条件・就業環境

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  • 国別労働トピック:2004年7月

スペイン労働市場は多数の問題を抱えている。例えば、集団交渉システムの改革、年金制度改革、解雇手続の柔軟化、雇用の不安定性への対策等である。さらに、5月に実現したEUの東方拡大は、グローバリゼーションの波を受けて起こりつつある「産業拠点の国外流出」に拍車をかけるのではないかと懸念されている。過去数年間の主な企業流出の例を見ても、中国、マグレブ諸国(モロッコ、チュニジア)と並んで、スロヴァキア、ポーランド、チェコ、ハンガリーといった新規加盟諸国への流出が目立つ。こうした状況を受けて、「対話とコンセンサス」をモットーとする現政権は、いかなる改革も政労使三者間の合意に基づいて行うべきとしており、すでに三者の間で協議が始まっている。

EU新規加盟国10カ国の平均賃金は労働時間1時間当たり4.2ユーロ(注1)(EU平均の18%)で、スペインの14.4ユーロ(EU平均の63%)と比べても3分の1である。スペインにとって、もはや安価な賃金を売り物に競争を続けることは不可能であるのは明らかである。

新規加盟諸国は税制面でも強力な競争力を発揮している。例えば、旧EU15カ国の法人税率は、スペインのように35%に達するケースもあるのに対し、新規加盟諸国では20%にも満たない。独仏両国はEU圏内の税制調和の早期実現を求めているが、欧州委員会では「税制面での自由競争を維持すべき」との観点から、これに応じる気配を見せていない。

今後、EUの平均水準との収斂を目的とした各種助成の大半は、新規加盟諸国に向けられることになる。これを受けて、未だに収斂プロセスの途上にある地中海諸国は更に不利な立場に立たされ、研究開発目的等のより特化された助成の受取りを目指さなければならなくなる。

新政権成立後の政労使三者協議は始まったばかりであるが、労組側はすでに、「競争力の向上は教育制度改革や研究開発投資によってはかるべきである」とし、雇用の不安定さを更に増す解雇の柔軟化や年金額算定の際に考慮する年数の延長には反対の姿勢を見せている。他方使用者側は、解雇の全面自由化を求めるのではないが、「少なくとも現在の硬直した行政手続は改革すべき」としている。いずれにせよ、「労働者の技能訓練を強化し、熟練度の向上をはかることが不可欠である」とする点では、労使間の見解は一致している。

職業訓練を含めた広い意味での教育による労働者の質の向上と研究開発奨励の努力は、長年にわたりスペイン最大の課題となっている。しかし、この方面の様々な政策はことごとく失敗に終わったと言っても過言ではない。また、90年代末年以降の順調な経済成長とその間の失業率の急低下という成果がみられる一方で、生産性の上昇率は低下傾向が続いている。EU拡大を受けて、こうした問題をスペインはどう解決していくのか注目される。

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