外国人労働者の雇用許可制施行に向けての基盤づくり

カテゴリー:外国人労働者

韓国の記事一覧

  • 国別労働トピック:2004年7月

韓国政府は2004年3月25日、第1回外国人労働力政策委員会を開いて、外国人労働力の送出し国、受入れ枠、対象業種などを盛り込んだ「2004年の外国人労働力需給計画」を決定したと発表した。今回の計画には、「2003年8月16日に公布された“外国人労働者の雇用平等等に関する法律”に基づいて、2004年8月から外国人単純労働者の雇用に初めて門戸を開く」という歴史的な試みへの慎重な構えがみられる。つまり、中小企業の労働力需要への配慮もさることながら、「不法滞在者の急増と人権侵害の多発」という悪循環を断ち切るべく、外国人単純労働者の雇用管理体制を着実に整えるところに重点がおかれているのである。

以下、外国人労働者をめぐる制度を中心に政府の取り組みを詳しく追ってみよう。

外国人産業研修生制度の限界

外国人労働者をめぐる悪循環は元を辿れば、外国人産業研修生制度の変則的な利用やその場しのぎ的な対応(研修2年後1年就業方式の導入、韓国系外国人向け就業管理制度の新設など)によるところが大きい。1993年に中小企業における慢性的な労働力不足状況を政策的に解消するための苦肉の策として外国人産業研修生制度(本来の趣旨は海外法人社員の国内研修)が変則的に利用されるようになったが、それを機に外国人労働者は急増し、通貨危機後の一時的な減少を除いては増加の一途を辿っている。

それと共に、同制度は外国人単純労働者を研修生の名目で実際に雇用することを合法的に認めるようなものと位置付けられ、事業主側は労働関係法や社会保険関連法などの規制を受けることなく、外国人単純労働者を雇用することができた。つまり、同制度はどちらかというと、外国人研修生の権益より中小企業の事業主の利益を優先するあまり、研修生の企業間異動を認めず、しかもその賃金及び労働条件を(不法滞在者のそれよりも)かなり低く抑えることを許したのである。そのため、研修生の間では受入れ先企業から無断で離脱し、不法滞在になってしまう者が後を絶たず、それにからんで事業主側の人権侵害行為はさらにエスカレートするなど、悪循環に陥ってしまったのである。

結局、1990年代以来、中小企業における慢性的な労働力不足状況は一向に解消されないなかで、不法滞在者の急増と人権侵害の多発という悪循環に象徴されるように、外国人産業研修生制度の弊害が表面化して久しくなった。にもかかわらず、労働部が根本的な解決策として推し進める外国人労働者雇用許可の法制化は経済関係省庁や中小企業などの反対に遭い、幾度も先送りを余儀なくされた。2003年7月にようやく政府は外国人労働者雇用許可の法制化にこぎ着けたが、その際にも同法制化に伴う人件費負担増や労働争議などを危惧する中小企業側の声が強く反映され、最終的には政治的妥協の産物として既存の外国人産業研修生制度はそのまま温存されたのである。

不法滞在者に対する合法化特例措置

ここで外国人労働者数とそのうちの不法滞在者数の推移をみてみよう。1997年に24万5000人のうち14万8000人に上った後、通貨危機後の1998年には15万6000人のうち、10万人へと急減したが、翌年のV字型景気回復と共に再び増加に転じ、2003年の8月に外国人労働者関連法が公布された時点でその数は39万1000人のうち、30万9000人へと大幅に膨らんでいた。しかし、後述するような不法滞在者に対する合法化特例措置により、2004年2月末現在の不法滞在者数は40万6000人のうち14万人へと急減している。

政府は外国人雇用許可の法制化に合わせて不法滞在者の一斉強制退去に踏み切ることにしたが、その際に中小企業の現場に大きな混乱が生じないように、2003年9月から11月にかけて不法滞在者に対する合法化特例措置(外国人労働者の雇用等に関する法律の付則第2条)をとった。例えば、2003年3月末基準で不法滞在期間が3年未満の者、3年以上4年未満の者、4年以上の者に分けて、自主申告・帰国に応じれば、それぞれの条件に合わせて新たに就労資格を与える一方で、この措置に応じず、自主申告または帰国しない者に対しては取締りを強化し、強制退去措置をとった。

2004年に入って、政府はこのような特例措置で就労資格を取得した外国人単純労働者に対する「就業及び雇用管理指針」を設け、2004年8月からの関連法施行を前に、外国人単純労働者の雇用に向けての基盤づくりに動き出した。同指針には1.外国人労働者の法的地位(最長2年間就労、労働関係法の適用、雇用保険・健康保険の任意適用)、2.事業主の義務事項(雇用変動の申告、労災保険加入、健康診断)、3.企業間異動の正当な事由及び手続き、4.苦情相談・処理体制の確立及び企業に対する指導・点検などが盛り込まれている。

そのうち、「企業間異動の正当な事由及び手続き」については、外国人労働者の不法滞在及び人権侵害の悪循環を引き起こす要因になっているとの声が根強いこともあって、今回の指針には次のような条件が明記されている。つまり、「事業主側が正当な事由で雇用契約を打ち切る場合や、企業の休廃業・労働基準法の違反・賃金未払いなどにより雇用契約の継続が難しくなったと認められる場合は企業間の異動を認めるが、その他により高い賃金を求めての異動は厳しく制限する。異動回数は延3回に制限するが、非自発的な異動が3回続いた場合はもう1回の異動を認める」というものである。

2004年の外国人労働力需給計画

以上のような特例措置や関連指針などに続いて、3月25日にようやく関連法施行の基本骨格となる「2004年の外国人労働者需給計画」がその姿を現したのである。同計画は次のような基本方針に基づいて、送出し国や受入れ枠などを以前よりかなり絞っているところに大きな特徴がある。

第1に、外国人労働者の雇用許可は、国内労働者の雇用機会を奪い、賃金及び労働条件の引き下げを誘発する恐れがあるので、それを防ぐために「あくまで国内労働者の雇用ができない」と認められる3K業種などに限って補完的に活用する。第2に、産業の構造調整及び競争力を阻害する恐れがあるので、それを避けるために外国人労働力の受入れ業種及び規模を最小限に抑える。第3に、送出し及び受入れの際に民間企業の介入による不正行為や人権侵害などが発生するのを未然に防ぐために、政府の管轄下で外国人労働者の選定及び受入れ手続きの透明性を高める。第4に、不法滞在者の増加に歯止めをかけ、根本的な解決を図る。

次に、同計画の主な内容は以下の通りである。第1に、送出し国の選定にあたっては、外国人産業研修生制度の経験(1993年から延17カ国)を踏まえ、「事業主の需要、受入れ先企業からの無断離脱率、送出しプロセスの透明性、契約満了に伴う帰国の担保、外交及び経済的影響力など」を基準に国別評価を行う。そのうえで、「送出しから受入れ、帰国までの一連のプロセスにかかるコストの削減や効率的な管理を容易に進めるために、8カ国(フィリピン、タイ、モンゴル、中国、カザフスタン、スリランカ、ベトナム、インドネシア)に絞り、各国政府と送出し了解覚書を結ぶ。

第2に、受入れ枠については、産業別労働力需給状況や国内労働者の代替可能性などを考慮し、国内労働市場への影響を最小限に抑えることができる適正な規模として2004年には7万9000人を受け入れる。ただし、外国人単純労働者の雇用許可制は2004年の下半期から、しかも既存の産業研修生制度と並行して施行されるため、雇用許可制で2万5000人、産業研修生制度で3万8000人、就業管理制度(韓国系外国人向け、2002年11月からサービス業を対象に最長3年)で1万6000人などのように制度別に受入れ枠を配分する。2005年からは毎年「事業主の需要、受入れ先企業からの無断離脱率、不法滞在になる者の割合など」を評価し、制度別新規受入れ枠を調整する。その他に、各送出し国は同じ人数の外国人求職者名簿を作成し、事業主はその名簿から希望する国の労働者を自由に選択できるようにする。

第3に、対象業種については、既存の産業研修生制度と同様に、製造業(4万人)、建設業(2万6000人)、農畜産業(4000人)、近海水産業(5000人)、サービス業(4000人)などの5業種に制限する。対象業種の追加要求に対しては、労働力不足状況や国内労働者との代替可能性などを考慮し、その正当性が認められる場合に限って応じる。

その他に、全国69ヵ所の雇用安定センター(ハローワーク)を活用し、外国人労働者の雇用管理体制(データベース)を構築すると共に、関連法施行後も不法滞在者を雇用しつづける事業主に対する取締りをさらに強化することも盛り込まれている。

2004年7月 韓国の記事一覧

関連情報