2004年春欧州理事会:「リスボン雇用戦略」の進捗フォーローアップ

カテゴリー:雇用・失業問題高齢者雇用労働条件・就業環境

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  • 国別労働トピック:2004年6月

春の欧州定例理事会が3月25、26の両日にブリュッセルで開催され、2000年に策定された「リスボン雇用戦略」(注1)の進捗状況に関するフォローアップが行われた。リスボン雇用戦略は、経済・社会政策に関するEUの包括的な方向を示した10ヵ年戦略目標で、毎春の欧州理事会は、その成果について議論する場となっている。理事会は、実施4年を経て一定の進展はあるとし、雇用戦略に掲げられた目標及び方向性については再確認するかたちで一致。しかし、拡大EUの影響も踏まえたうえでの、2010年を向けての目標達成には、各加盟国レベルでかなりのペースアップが必要だとの状況認識を示した。また、EU拡大がEU経済発展にポジティブな効果をもたらすとし、リスボン戦略が新規加盟国にも適用されることを確認。さらに、目標の実現のためには、各加盟国が各々のコミットメントを実施する一層の努力が必要であるとし、合意された方針を着実に国内法制化することを求めた。

EU域内の就業率の伸びをみると、64.3%と停滞気味で、2005年の中間数値目標67%の実現にはほど遠く、2010年に数値目標70%の達成も危ぶまれる。リスボンターゲットを達成するには、EU15カ国で1500万人、拡大EU25カ国では2000万人の雇用の創出が新たに必要だという。このため、理事会では、「持続可能な発展」及び「雇用の拡大と仕事の質の向上」の2点を、最優先課題として討議した。

持続可能な発展

理事会は、域内の「持続可能な発展」に向けて、以下の4分野について、各加盟国による一層のコミットメントを求めた。

  1. 健全なマクロ経済政策:加盟国の安定成長協定に沿った健全な財政維持と物価安定を基盤とした域内財政規律の整理、財政赤字の削減、雇用・保健・年金改革の強化等による財政の長期的持続可能性の拡大、「欧州成長イニシアチブ」及び「クイック・スタート・プログラム」(注2)に対する継続的支援と監視の強化
  2. 競争力と技術革新
    1. 域内市場の完成:情報通信・サービス部門での競争力の強化、金融サービスの統一市場化、コーポレート・ガバナンスの強化、共同体特許や有害税制への取り組みへの努力
    2. より良い規制:EU及び各加盟国レベルでのより良い規制の推進による競争力及び生産性の向上、各加盟国での国内法改正実施のペースアップ
    3. 研究・開発(R&D)目標の達成(「ヨーロッパ知識圏」の創設):研究・開発部門における民間投資の強化とそのための加盟国の条件整備、科学研究の強化、教育・訓練、基本技能の確保、研究者の流動性の促進
    4. 欧州理事会の対応:競争力委員会(2002年バルセロナ欧州理事会により設置)による、競争力強化に向けた一層の努力
  3. 社会的連帯:年金、医療保険制度の近代化、男女機会均等政策等による社会的疎外や貧困撲滅の抜本的解決に向けた配慮
  4. 環境に配慮した持続的成長:エネルギー効率の改善、京都議定書の目標達成、クリーン環境技術の促進

雇用の拡大と質の向上

第2の優先課題である「雇用の拡大と仕事の質の向上」は、全体的に高い失業率に悩むEUにおける緊急課題といってよい。理事会は、具体的課題として、1)労働者・企業のアダプタビリティ(適応可能性)の向上、2)女性・高齢者を含むより多くの人々の労働市場への参入、3)雇用の質の向上、4)人的資本投資の増大、を挙げ、各加盟国による積極的なコミットメントの重要性を強調。特に理事会は、各加盟国が、「包括的経済政策ガイドライン」及び「欧州雇戦略」の枠組みの中で、「欧州雇用タスクフォース」による勧告を実施するため、具体的なフォーローアップを行うことが重要であると指摘した。

労働者の自由移動の促進

これら優先課題に加え欧州理事会は、EU発展には労働者の自由な移動が不可欠であることを強調、流動性の促進を各加盟国に呼びかけた。例えば、2004年6月にスタートする欧州健康保険カードの発行や、6月に政治的合意を目指す「職業資格の相互認証制度」と「ユーロパス」、さらに、EU域内で移動する労働者の社会保障権を定めた規則1408/71の簡素化及び現代化の動きは、域内単一労働市場に向けた重要な一歩であると評価した。この規則も、今欧州議会会期中には最終化される見通しだ。

2005年のリスボン雇用戦略中間評価

来年にさし迫るリスボン雇用戦略中間評価では、2000年~2005年の目標達成状況と、EU拡大の影響も踏まえた目標達成の見通しが、議論の対象となる。理事会はこの中間評価のため、欧州委員会に対し、ハイレベル・グループを設置し、独立した評価を行うこと求めた。その報告は、リスボンターゲット実現のための域内経済統一の戦略形成に必要な方針も明らかにする予定。報告書は2004年11月1日までにたたき台として公開され、EU委員会及び各加盟国はこれをもとに、2005年春の理事会に向けて準備を行う。中間評価の対象となる具体的な項目は、

  1. 分野別目標の進捗状況、各加盟国の達成度・ダイナミズムを評価するための構造的指標やベンチマークの範囲
  2. グローバルな観点からのEU全体の実績評価
  3. EU拡大という新たな経済的、地政学的な環境の中で、目標達成のために必要な措置
  4. 各加盟国及びEU全体が共有できるガバナンス、政策手段及び措置、発展や競争力、雇用を拡大する外的・内的要因
  5. リスボン戦略の目標や各加盟国における好事例を加盟国間のみならず消費者、市民や主要関係者に伝えてくメカニズム
  6. 手法改善の可能性

欧州理事会の結果を受けて、欧州委員会は4月7日、「包括的経済政策ガイドライン」を初めて改定し、その中身が拡大EUの新規加盟国にも同様に適用されることを明らかにしている。欧州委員会はまた、今年3月の理事会で合意した政策ラインと欧州雇用タスクフォースの調査結果を踏まえ、2003年に改定された「欧州雇用戦略」及び「欧州雇用ガイドライン」の枠組みを基本的に維持するかたちで、2004年の雇用に関する勧告を行った。

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