国内失業問題が、国外への出稼ぎ振興政策を後押し

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  • 国別労働トピック:2004年6月

国内失業問題の長期化、深刻化を背景に、これまで実態とは別に黙視され続けてきた、国外への出稼ぎ振興政策が進められようとしている。労働党政権下における雇用政策、社会福祉政策の長期低迷は政権基盤をも危うくしており、こうした政策がはたして支持率低下を食い止める一手となり得るのか。

米州開発銀行の報告書によると、中南米・カリブ地域の諸国から外国へ出ている出稼ぎ者は、2002年に本国へ320億ドル送金したものを、2003年は380億ドルへ増加させた。他方、同地域への外国による直接投資額は、2002年の345億ドルから2003年は235億ドルへ減少しており、出稼ぎによる本国送金は、この地域の諸国にとって、依然重要な外貨獲得手段であると同時に、マクロ経済にとって、大きなインパクトを与えている。米州開銀では、この地域で1800万世帯、5000万人以上が出稼ぎの送金により生活していると分析している。特に米国に近いエル・サルバドール、ジャマイカ、ギアナ、ハイチ、ニカラグア、ドミニカの6カ国では、平均してGDPの10%が出稼ぎ送金となっており、出稼ぎ送金が輸出総額を上回ることは慣例化している。

ブラジルでは、出稼ぎに関する公式調査は行っておらず、送金額に関する公式データも集計しない。ブラジルは長期に亘って移民受け入れ国であったために、1990年前半までブラジルの国外就労を斡旋すると、犯罪者として処罰する法令が存在した。従って出稼ぎは公式には存在してはならず、その統計を取ることも、出来なかったのである。その後、出稼ぎは自由化されたが、政府は出稼ぎに関するデータを計算しない習慣が継続していて、出稼ぎに関する公式データは依然存在しない。しかし、数100万の国民が出稼ぎに出ていることは厳然たる事実であるため、政府はようやくブラジル人の出稼ぎ、あるいは国外移民に対する公式政策を、2004年下半期中に、制定したい意向を明らかにした。

具体的には、国外に職を求める労働者の支援や、国内企業が外国で事業を行う場合に、ブラジル人労働者をより多く使用できるような制度を採用する方針を検討している。出稼ぎ支援は、国内で大量失業が慢性化していることに対応する一方、外貨獲得手段をねらったものでもある。またブラジルと同じくポルトガル語を国語にしているアフリカのアンゴラや、東南アジアのチモールなどの国は、多様な部門の技能者を派遣してくれるよう、ブラジル政府に要請しており、例えば、ブラジルの都市部で過剰供給となっている医師を、これらの国へ派遣するような案も出ている。

一方では、カナダやフィンランドのように、高度な技術を持った労働力を受け入れる国への出稼ぎを振興する案も検討されている。この両国は厳冬の季節が存在するために、熱帯が多いブラジルでは、出稼ぎ先としては敬遠されているが、ブラジル政府はこれらの国に、出稼ぎパイロットプロジェクトを設けて、出稼ぎを振興したい意向を持っている。ブラジル外務省の推定では、約200万人の外国出稼ぎブラジル人が2003年に本国へ70億~80億ドルを送金したと推計している。しかし多数のブラジル人が不法入国によって外国で生活しているため、実際はもっと大きな人数が、出稼ぎに出ているのが事実で、この送金を支援するための金融機関の充実や、制度の設定も課題となっている。同時に外国のブラジル大使館には、出稼ぎ振興部門を設けて、本国送金を支援する事業部を開設する考えである。

政府はまた、国際機関を通じて、先進国へブラジル人の一時的就労を容易にする国際規定を容認してもらうよう働きかける方針である。さらに、ブラジルが国際入札を行う場合は、落札した企業に対し、ブラジル人の使用割合を設けて、ブラジル人を優先雇用する義務を設ける考えである。ブラジル国内では、大量失業が長期化しているために、年間10万人が合法、非合法の手段によって、出稼ぎ、あるいは外国移住を行っており、米国に居住するブラジル人は60万人、日本には27万人と推定されている。反面ブラジルは2003年に外国人1万7000人に永住権を与えた。その大部分は企業の管理職と、高度の先進技術を持った技術者である。ブラジルが移住者受け入れ国から、出稼ぎ送り出し国へ政策を転換しようとしている原因は、失業率の増加を食い止められないことにある。労働党は常に雇用拡大、労働者の生活向上、社会福祉改善を公約してきたが、2003年1月1日にスタートした労働党政権下では、失業増加、労働者の実質収入低下、社会福祉政策悪化が目立っており、これが世論に反映して、政府支持率は世論調査ごとに低下している。

さらに、政府内では、高官による収賄や一部業界との癒着による汚職容疑が表面化しているうえに、2003年のGDPがマイナス0.2%となり、2004年も政府が予想した3.5~4%のGDP成長を達成できる見込みが少くなったことなどで、政府内で経済閣僚に対する風当たりが強くなり、労働党自体が、経済政策変更を政府に要求している。野党は、2004年10月の全国市長選挙を目標にして、労働党の公約不履行を攻撃しはじめた。政府はいかなる手段を講じても、まず失業率を下げる必要に迫られているが、新規雇用を拡大するに足るGDPの短期的成長は望めない状況にある。出稼ぎ支援は、政府の投資を要せずに、短期的に最も効果を上げられる手段であると政府は見ているようである。

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