2004年経済改革と労使の反応
アタル・ビハリ・バジパイ首相が率いるインド人民党(BJP)主導の国民民主連合(NDA)政府が2004年に入って発表した一連の経済改革は、産業界の支持は得ているものの、労働界および野党からは批判の声があがっている。評価は、4月末の総選挙の結果を待つことになりそうだ。
施策内容は、非居住インド人(NRI)に対するものから対印投資の促進まで多岐にわたっている(下記表1、2、3参照)。同改革案について、インド工業連盟(CII)アナンド・マヒンドラ会長が「改革によってインド経済に新たな活力が吹き込み、成長軌道に乗ることは疑い得ない。」と述べたほか、インド商工会議所連盟(FICCI)Y.K.モディ会長は、「経済改革を新たな段階に押し上げようとする政府の強い姿勢を証明するもの」とコメントする等、財界リーダー達からの期待は大きい。非農産品にかかる最高関税率の引き下げおよび関税に対する特別付加関税の廃止は、自動車メーカーをはじめとする多国籍企業にとっても大きなメリットとなる。
一方、同改革案に対しては、マスコミを中心に「一連の施策は国内外特定の支持層に対する飴にすぎぬ」といった批判も多い。銀行業におけるFDI限度の緩和については、インド最大の行員労働組合である全インド銀行従業員労働組(AIBEA)は、海外の債権者が提供する安い金利と競合し、国内銀行の採算性が悪化する可能性が高いことを理由に、撤回を要求している。
表1
- 非農産品にかかる最高税率の引き下げ
- 投資額が5000万ルピー以上のプラントや機械製品に関わるプロジェクト輸入にかかる関税を10%に引き下げること
- 関税に対する4%の特別付加関税(SAD)を廃止
- 携帯電話、石炭、電力設備にかかる関税の引き下げ
- 航空タービン燃料にかかる物品税の引き下げ
- 15万ルピーまでの給与所得税に対する所得申告の免除
- 給与所得証明書を所得申告書として使用できるようにすること
- ワン・バイ・シックス・スキームの対象から年金生活者を除外すること
- インフラ整備プロジェクトを10(23G)による例外扱いとすること
- 源泉徴収の免除に必要な証明書を一つにすること
- 現物所得税の算定において住宅ローンの利子等を標準的な市場利率に沿って低減すること
- 給与所得者と医師や会計士などの専門職に対してインターネットとデジタル署名を利用して書面が不要なIT申告書を導入すること
- 2004年6月までにコンピュータネットワークを拡大して全ての所得税務署を接続すること
- 源泉徴収税納入の際の支払い書を1種類に統一すること
表2
- 農業
- 農業従事者に対する借り入れ金利を最優遇貸出金利(PLR)から200べーシスポイント減じたものとすること。
- 高齢者
- 60歳以上の市民を対象とする高齢者債を2004年4月1日に導入すること。
- 企業
- インド企業による海外投資に対する一億ドルの制限を廃止すること。
- 農業セクターの事業に対する企業の関与の制限を廃止すること。
- 非居住 インド人(NRI)
- ペルシャ湾岸および東南アジア在住のインド人が教育機関の各部門における15%の定員外枠の内、3分の1の優先枠を受ける権利を得るために子供をインド国内に残さなければならないという規則を撤廃すること。
- ペルシャ湾岸地域のNRIの子供に対してNRI料金を免除すること。
- 学生
- 学生ローン制度を自由化すること(最優遇貸出金利(PLR)から200ベーシスポイント減の利率で銀行が資金を貸し出すことになる)。
- インド食糧公社 (FCI)
- 政府保証債の売り出しによりFCIが資金を調達することを認めること(これは政府が食糧補助金を200億ルピー削減する手助けともなる)。
- 経済
- 小企業開発銀行(SIDBI)が1000億ルピーのSMIファンドを売り出すことにより小企業に対して安価に資金提供すること。
- 電力、港湾、道路、観光、電気通信に関わるプロジェクトへの資金提供のために、5000億ルピーのインフラ整備ファンドを設立すること。
- インド産業開発銀行(IDBI)、インフラ整備金融公社(IDFC)、インド生命公社(LIC)、ICICI銀行、インドステート銀行が共同でインフラ整備ファンドに対する方針と手続きを定めること。
- インド産業金融公社(IFCI)を不良資産を再建公社(ARC)の一つに移管した後に公営銀行と合併すること。
- 対外商業借款(ECB)ガイドラインを自由化すること(重要分野の投資に対する自動的な認可の可能性が開ける)。
- 翌会計年度に農村地区住居取得支援事業(Atal Grameen Griha Yojana)を実施して農村地区の重視を奨励すること。
表3
- 銀行に対する外国直接投資(FDI)を74パーセントまで引き上げること。
- 電気通信セクターが外国資本を74パーセント受け入れること。
- 製油及び石油製品における100パーセントのFDIを自動的に認可すること。
- 天然ガス及びLNG販売業に対して100パーセントのFDIを可能にすること。
- 科学技術雑誌が100パーセントの外国投資を受け入れること。
- インド企業の海外投資の上限を一億ドルとする規制の撤廃。
- それと連動して、インド企業が自己資本と同額までを海外に投資することの許可
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