高齢者の雇用

カテゴリー:高齢者雇用

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  • 国別労働トピック:2004年5月

EUの高齢者雇用率は過去数年で改善がみられるものの、雇用戦略で目標とする就職率50%(2010年時点)にはまだ約10%の乖離がある-EU委員会は3月3日に発表した高齢者雇用に関するレポートで、雇用政策の柱の一つである「活力ある高齢化政策」の重要性を強調した。とくに、欧州でこれまでみられた労働市場からの早期引退に関する施策については「例外的なケース」とし、高齢者が長期的、安定的に雇用を継続できる環境づくりを訴えている。

EUは2000年に開かれたリスボン欧州理事会で雇用戦略の枠組を決め、その後ストックホルム理事会(01年)、バルセロナ理事会(02年)で具体的な目標値を定めている。「リスボン戦略」では2010年までに欧州全体の雇用率を70%に高める基本目標を掲げ、高齢者に関しては、続くストックホルム理事会で、2010年までに55~64歳の世代を対象に雇用率を50%に引き上げるとした。

EU15カ国の高齢者層(55~64歳)の02年時点での雇用率は40.1%(男性50.1%、女性30.5%)で、2010年の到達目標とは約10ポイントの開きがある。1998年時点からは3.5ポイント上昇(男性2.8%、女性4.2%)しており、一定の改善はみられるが、2010年に目標を達成するためには、より上昇率を上げる必要がある。01年からの1年間では、この層の雇用率は1.3%増えている。

このほかバルセロナ理事会では、2010年までに退職平均年齢を現在より5歳引き上げる目標も打ち出している。02年現在の平均退職年齢は、EU15カ国平均で60.8歳(男性61歳、女性60.5歳)。前年(平均60.4歳)と比べると、0.4歳上昇している。

EU委員会は、今後の雇用率アップの具体策として、以下の項目をあげている。

  1. 適切な財政的インセンティブ
  2. 職業教育の継続的な提供
  3. 職場の健康と安全維持
  4. 職場組織の柔軟な構成
  5. 仕事の質の向上

石油危機以降、最近に至るまで失業対策としても用いられてきた早期退職制度(高年齢層に対し、年金の早期支給制度などにより労働市場退出を促し、それによって生じた雇用の場を失業者や若年層などに提供する考え方をもつ)について、EU委員会の報告は、「企業、労働者や労働組合にとって、雇用削減のネガティブな影響を和らげるためには、このモデルは魅力的な解決法だったかも知れない」としつつ、「その結果は早すぎる、そして後戻りできない人的資源と成長力の喪失だった」と指摘。全体の雇用率を上げるという基本戦略に沿って、早期退職政策に否定的な立場を示している。

国によって高齢者層の労働力化の進み具合に差があるように、各国で取られている施策もさまざまだ。高い雇用率を示しているスウェーデンでは、「継続的職業教育のための個人口座の導入を労働協約で取り決めている」とされ、同様に雇用率の高いデンマークでも、地方自治体レベルの政策的な取り決めが「高齢者が適切な継続的職業教育と段階的な労働時間短縮によって職業生活を続ける」ために機能しているという。

また、過去数年で高齢者の雇用率を大幅に引き上げたフィンランドでは、職業能力の向上と職場環境の改善を図ることを柱とするプログラムを政府と労使で実施したとされ、同様に雇用率改善の進んだオランダでも、高齢者の職業能力向上の取り組みを定めた労働協約が全体の35%にのぼるとされる。報告はこのように、政労使の取り組みや、職業教育や職場環境などの面での政策が重要であることをうかがわせている。

欧州各国における高齢者層(55~64歳)の雇用率(単位 %)

図:欧州各国における高齢者層(55~64歳)の雇用率

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