農村労働力と経済発展

カテゴリー:労働条件・就業環境

中国の記事一覧

  • 国別労働トピック:2004年5月

農村での余剰労働力は、中国の経済発展のための貴重な労働力として考えられている。政府は、2003年に「2003年-2010年全国農民技工訓練計画」を発表し、この7年間に6千万人の農民に職業技能訓練を実施し、都市労働者に転換させるための政策を開始している。以下では、農村と農民をめぐる社会経済環境について労働分野の内容を中心に簡単に紹介したい。

1.農業と農村経済の実情

現在、農村余剰労働者を取り巻く農業と農村経済の実情をまとめると、次の6つの大きな傾向が見られる。

  1. 農村余剰労働力の就業構造の変化
    3分の1以上の農村余剰労働力は、居住地域を越えて移動し、都市労働に従事するようになった。これは、重要な就業環境の変化である。
  2. 農民の収入源の変化
    収入の約半分が、非農産業によるものとなった。農民の収入は主として農業によるものから農業と非農業によるものに変わり、農民収入の増加は、「生産高の増加と価格の引き上げによるもの」から「効率の向上と就業機会の拡大」によるものに変わりつつある。
  3. 農村の都市経済へ依存率の上昇
    農業と農村経済は、都市のマクロ経済的変化の影響を受けるようになり、市場経済体制の発展により、都市と農村を分割する経済構造が打破され、生産活動が流動化し、工業と農業、都市と農村が互いに連携・補完しあうようになった。
  4. 農産物の需給関係の変化
    中国の農産物需給状況は、慢性的不足状態から均衡状態へ、さらに豊作による買い方市場へと変化しつつある。
  5. WTO加入の影響
    WTOへの加入は、中国の農業の発展にチャンスをもたらし、農産物の輸出を拡大する機会を提供したが、他方国際市場、外国製品との厳しい競争に立ち向かわなければならなくなった。
  6. 小康社会の到来と生活習慣の変化
    小康社会の到来により、農村の人々は生活の質的向上、生活環境や社会的環境の整備を要求し始めた。農業と農村の発展には、生産量の増加だけでなく、農村の構造改革、生活の質の向上、社会的諸制度の整備に注意を払わなければならない段階になった。

2.国務院の2004年第1号文書と農村

2004年2月8日に、国務院の2004年第1号文書として「農民の収入増加・促進に関する中共中央・国務院の若干政策的意見」が発布され、その主な内容は次の通りである。

  • 農村の第二次産業・第三次産業を発展させ、農民の収入を多様化させる。
  • 農民の都市への就業環境を改善し、出稼ぎ農民の収入を増加させる。
  • 食糧生産を主とする地区の産業の発展に対する支援を強化する。
  • 食糧生産に従事する農民の収入増加を促進する。
  • 農業の構造改革を引き続き推進し、農業収入を増加させ農村の潜在力を引き出す。
  • 市場メカニズムの作用を生かした農産物の流通を促進する。
  • 農村のインフラ建設を強化し、産業を育成する上での経済的条件を整備する。
  • 農村の改革を深化させ、農民の収入を増加させ、各種負担金を軽減する体制改革を実施する。
  • 貧困者や災害時の被害者に対する生産活動と生活面の援助を強化する。

同意見は、今日まで中国共産党の指導のもと、農業の構造改革・農村改革の推進を着実に実現し、農村社会の安定を保ってきたと強調しているが、他方現在農業と農村には数々の矛盾と問題が存在し、特に農民の収入が都市住民に比較し低いことを問題視している。

この問題について、同意見の中で、農民の低収入状況が続くと、農民の生活水準の向上に悪影響を及ぼすだけでなく、労働意欲の低下により、生産量と農産物の都市への供給量にも悪影響を及ぼし、農村経済の発展を制約するだけでなく国民経済全体の成長を制約し、農村社会の進歩にかかわるだけでなく小康社会の全面的建設の実現を困難にすると指摘し、「重要な経済問題」であるだけでなく、「重要な政治問題」であるとし、この問題の解決の重要性を強調している。

その上で、同意見は、各級の党委員会と政府は第十六回共産党大会の精神を貫徹し、農民に対し「与えるものを多くし、取り立てるものを少なくし、諸方策を効果的なものにする」方針を堅持し、農民の他の産業への就業機会を拡大し、企業の技術進歩を促進し、農村の改革を深化させ、農業に対する補助と保護を強化し、農民の増収を促進し都市と農村の労働者の収入格差の拡大傾向を抑制することによる解決方策を指示している。

3.発展地域の実例

農民が高収入を得ている例として浙江省をあげる。

現在、浙江省では約60%の農民が第一次産業から第二次、第三次産業に移り、農民収入のうち第二次、第三次産業による収入は80%以上を占め、多数の農民が「産業労働者」となった。

この結果、浙江省農民の1人当りの純収入は2003年に5400元(前年比8ポイント増加)に達し、全国の平均水準より4ポイント高く、全国各省・自治区のなかでは18年このかた連続首位を保っている。

関連情報