スーパーマーケットスト、終結

カテゴリー:労使関係労働条件・就業環境

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  • 国別労働トピック:2004年4月

昨年10月11日から5ヶ月近く続いていた南カリフォルニアの大手スーパーマーケット・チェーン3社のストライキが、2月29日にようやく終結した。852店舗、59000人の労働者による141日間のストライキは、アメリカスーパーマーケット業界史上、最も長期に及ぶものとなった。今回労使で合意された3年間の新しい労働協約は、労働組合側が大幅に譲歩した内容となっており、3社で働く約7万人の労働者が適用を受けることになる。この協約は、今後各地で行われる労使交渉で協約のたたき台となる可能性が高く、アメリカの労働運動に与える影響は大きい。

ストライキの経緯

今回のストライキは、全米最大手のスーパーマーケット・チェーン、ウォルマートに対抗して業界の生き残りをかける経営者が、増え続ける保険料の企業負担分を軽減するために、従業員に保険料の自己負担の引き上げを求め、組合従業員の97%がそれを拒否したことにより始まった。

南カリフォルニアの大手スーパーマーケット・チェーン3社、アルバートソンズ、セーフウエイ(ボンズ、パビリオンズを経営)、クローガー(ラルフズを経営)では、10月11日以来、国際食品商業労組(UFCW)に所属する組合従業員のストライキと、企業側の対抗措置としてロックアウトが続いていた。ストライキの参加者数は、最大時で7万人、店舗数は900店を超えた。当初UFCWは、クリスマス商戦前までの短期解決を見込んでいたが、目論見に反して経営者側は強硬姿勢を崩さず、労使の対立は平行線が続いた。11月24日には、トラック運転手の組合員を中心とした産別労組「チームスターズ」が、ストライキへの協力を申し出て3社の店舗へのトラック集配作業を停止させたり、ナショナルセンターのアメリカ労働総同盟(AFL-CIO)が団体交渉の専門家を現地に送ったりするなどして組織的なストライキ運動を展開したが、結局経営者側の譲歩を引き出せないまま年を越し、膠着状態が続いていた。このストライキ期間中の合計売上げ損失額は、15~25億ドル(注1)にのぼると見積もられている。

その後、連邦調停和解機関の仲裁もあり、最終的には2月に入って16日間に及ぶ集中的な労使交渉が行われた結果、当初の経営側の要求がほぼ盛り込まれた暫定協約がまとまった。UFCWが2月26~27日の2日間にわたって組合投票を行った結果、86%の組合員が暫定協約を承認し、ストライキはようやく終結にいたった。

今回組合が大幅に譲歩する結果となった要因としては、UFCWが当初短期的解決を見込んで地域限定の集中ストライキ戦略を取ったことにより、思わぬ長期化で組合員の疲弊がすすみ運動の勢いが低下しつつあったこと、闘争資金の減少によりストライキの継続が困難になりつつあったこと、地域住民の不満の声が高まっていたことなどが挙げられる。

新労働協約の内容

新しい協約は、主に医療保険と年金の切り下げという経営者側の要求が大きく反映されたものとなっている。締結の内容は、2段階になっている。ひとつは現従業員へ適用され、もうひとつは、10月5日以降に新しく雇用された新規従業員へ適用される。新規従業員の雇用待遇は、現従業員と比較して時間当たりの賃金や休日数が少なく、昇給や医療保険給付を得るまでかなりの時間がかかる不利な条件となっている。UFCWのバーバラ・メイナード報道官によると、UFCWが当初要求していた時給の賃上げは認められなかったものの、その代わり現従業員には、すでに勤務した労働時間に対して1時間当たり30~60セントを加算した額のボーナスが2回支給される予定となっている。また経営側が即時の医療保険自己負担額の引き上げを求めたのに対して、新協約では、2年目までは従来通り保険料を企業が負担し、3年目から個人適用の保険料として1週間当たり5ドル、あるいは家族適用の保険料として最高15ドルを自己負担とする。

この現従業員と新規従業員に2段階の労働条件格差をつけて徐々に人件費を削減しようとする動きは今後広がることが予想され、今夏に相次いで協約期限を迎える北カリフォルニアや他州の労使交渉の動向が注目される。

ウォルマートが労働界に与える影響

今回の大規模ストライキの引き金ともなったウォルマートは、2002年時点で約140万人、4688店舗の規模を誇るアメリカ最大のスーパーマーケット・チェーンである。2002年の総売上額は約2450億ドル(純利益は80億ドル)という巨大企業で、アメリカ家庭の約82%が、1年間のうちウォルマートで何らかの物を購入している。また徹底した人件費のコスト削減を図り、社内に労働組合を作らせない強硬な経営姿勢でも知られている。

UFCWによると、1992年以来、ウォルマートの進出により閉鎖に追い込まれたスーパーマーケットは、13000店を超える。最近の例としては、カリフォルニア州を中心に営業していた大手スーパーマーケット「レイリー」が、ウォルマート進出により地区18店舗全てが閉鎖に追い込まれ、1400人の労働者を解雇せざるを得なくなった。レイリーの従業員の時間当たりの賃金水準が、家族の医療保険と年金保障を含めて時間当たり約15ドルであるのに対し、ウォルマートは約9ドルである。人件費の差がそのまま商品価格と顧客の獲得数に影響を及ぼしており、地元スーパー経営者の脅威となっている。

実際アメリカでは、サービス産業を中心に、ウォルマートのように時給従業員を多数雇い、医療保険や年金を基本的に負担しようとしない企業が増えつつあり、勢力を伸ばしている。今年1月に行われたアメリカ労使関係研究学会(IRRA)の年次総会でも「ウォルマートは、小売業界の経営形態を変えつつあり、他の産業や労使関係にも大きな影響を与えている」という報告がなされている。

高い純利益率と順調な経営成長で経営界の羨望の的となっているウォルマートは、一方で今回のような周辺スーパーマーケットの労使紛争を引き起こし、また自らも元従業員から不当解雇や不当賃金、男女昇進差別などで訴えられ、多数の訴訟案件を抱えている。各州からも幼年労働法や不法移民労働者雇用などの案件で違反を多数指摘されており、200以上の地区自治体がウォルマート進出を阻止する動きに出るなど、ウォルマートをめぐる労使紛争は増加傾向にある。

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