政府が仕事の海外輸出に関する調査に着手

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  • 国別労働トピック:2004年3月

政府はインドや世界各国への、コールセンター業務の輸出に関する調査に着手した。この調査は労働組合の怒りの声の高まりを受けて行われたものだが、この分野がどれくらい衰退しつつあるかという新たな議論を呼び起こした。

進む職の海外移転

パトリシア・ヒューイット貿易産業相によれば、調査は英国のコールセンター業界が海外市場に対応する能力を評価するものだという。貿易産業省の担当部署によれば英国には5万5000のコールセンターがあり、その数は欧州一で、40万人弱が雇用されている。この分野は年率約10%で成長している。しかし労働組合Amicusは、今後20万の職が海外で失われると指摘している。これは1980年代における製造業の衰退以来の最大の産業の衰退を意味する。いくつかの企業が業務を海外に移転させていることを最近公表し、またNorwich組合(Aviva)は2万5000以上の職をインドに移転させていることを明らかにした。そのほかにもAbbey、Tesco、British Airways、National Rail Enquiriesを含む企業が業務を海外に移しており、その企業活動の相当部分がインドに移っている。Amicusは5万もの職がすでに海外に移転したとみている。

これまでのところ海外へ移転しているのは主に基礎的な事務管理の仕事であり、「より価値の高い」仕事の多くは英国内に残っている。しかし、多くの者が他の職種にも海外進出の影響がおよびつつあると考えている。例えば、多くのIT企業がインドを基本業務の拠点とし、また相当数の投資銀行が調査部門の業務を海外に移し始めている。インドのソフトウェア・サービス業団体Nasscom代表のキランカーニック氏は、次の波が来れば会計、法務および財務アナリストの職務は、西欧諸国の競争相手の半分以下の給料で働くバンガロールやデリー出身のインド人卒業生で占められるだろうと考えている。ある著名なアナリストによる最近の予測によれば、4大財務機関のうち3社が2年以内に海外に移転するだろうということである。

仕事を外国にアウトソーシングすることは、雇用主にとって、とりわけ賃金面で多大なコスト削減となる。例えばインドにおける5000ポンドの年間所得は、英国における2万3000ポンドの支出に匹敵する結果をもたらす。Avivaの推計によれば、インドでは英国より40%安く企業経営ができる。加えて、インドのコールセンター要員に企業が払う賃金は、インドで毎年誕生する200万人の新社会人にとって魅力的なものだ。

組合は雇用喪失の打撃を懸念

しかし労働組合は、英国におけるコールセンター産業の衰退が、かつて1980年代の製造業の衰退に苦しんだ国内の各地に悪影響を及ぼすことを懸念している。なぜならコールセンター活動の多くは、製造業の職が失われた際、雇用の損失を埋めるために意図的にそれらの地域に設置されたものだからだ。DTIの統計によれば英国北部では4%以上、スコットランドでは3~4%の労働者がコールセンターに雇われている。労働組合指導者たちの懸念は、かつて雇用を奪われた地域でこの新たな労働需要源もまた脅かされている点にある。

これまでのところ、輸出された仕事の多くが新規操業に転じたことから、英国内での職の減少は生じていない。加えて、企業が操業を海外に移転した地域では、コールセンターの人員移動による自然減のおかげで強制的な整理解雇が避けられている。しかし、労働市場は最近回復傾向にある。失業率が上がり始めれば、海外への雇用喪失はより大きなダメージを与えるものとなるだろう。仕事の海外移転により職を失った多くの者にとって、同レベルの賃金や融通性のある職に再び就くことは難しいだろう。

サービス低下の懸念も

また、労働組合は顧客サービスの低下についても懸念を表明している。すでに多くの企業に国外の操業拠点から期待したサービスを受けられないという顧客からの不満が寄せられているという主張もある。米国のDellでは一部の電話を国内のサポートセンターへ転送しているという。顧客のなかには、インド人オペレーターの対応では満足しない者もいるためである。海外移転でかなりの短期的コストを削減できたとしても、サービスベースの企業は、長期的なコア・コンピタンスとして考えるべき顧客サービスをアウトソーシングする価値があるかどうかを検討する必要がある。

しかし、これに異を唱える企業もある。例えばNorwich Unionは、時差がある地域でクレームを処理できることは、顧客がよりよいサービスを安いコストで得られることを意味すると主張する。また別の企業によれば、英国のコールセンターがクレーム管理や技術的アドバイスのようなより複雑なサービスの需要増を満たすためには、単純な仕事を海外に大量に移すことが必須要件であるという。

こうした反論もあるが、組合の指導者たちは英国内の職場を守る必要があると論じるようになっている。銀行労働者の組合であるUnifiは、Lloyds TSBがNewcastle upon Tyneのコールセンターから約1000の職を海外に移転させる計画についてのストライキ投票を宣言した。組合の指導者たちによれば、企業が利用している低い賃金レートの国は団結権、労働条件、環境規制についてもまた低水準にあり、労働者は裏切られた思いであるという。英国の財務分野に17万人以上の組合員を持つ組合Unifiのバーナデット・フィッシャー女史によれば、企業がこうしたやり方で低賃金労働を利用することを許さない労働者の間で、好戦的な機運が確実に高まっているという。

職の輸出の経済効果

一方政府のパトリシア・ヒューイット貿易産業相は、仕事の輸出を防ぐための新法の制定を支持するのではという組合側の期待を退けた。同相はコールセンター分野が経済的に成功していると強調し、またCarphone Warehouseのような企業は未だに英国への進出意向があり、一部の英国銀行が海外への業務の輸出をしないことを決定したと指摘して、コールセンターが致命的な衰退状況にあるという主張に反論した。

ヒューイット氏はまた労働組合の保護貿易を求める声を批判し、英国はすでにインドと2600万億ポンド相当の取引をしていると述べた。もしインドへの職の輸出がインド市場を成長させるなら、それは英国の生産者にとっても有益だろうとする。この主張は経営コンサルタントのMckinseyにより支持されている。同社が最近注目しているのは、海外進出が英国に比べてはるかに進み、インドや中国に輸出される職の規模に関する議論がより過熱している米国市場である。Mckinseyは、米国が海外進出で失うものより得るもののほうが多いと考えている。Mckinseyの推計によれば、海外拠点の労働者に払う賃金1ドルに対して、コスト節約分を成長のために再投資し、海外拠点要員向けの追加的な輸出を行い、コールセンターの労働者を解放してより高所得の職に就かせることで、経済は1.12ドル相当の利益を得るとしている。

この意見は職業紹介会社Adeccoも支持している。Adeccoの推計によれば英国および海外の市場がともに成長し、英国向けのコンタクトセンターの仕事は2008年までにおよそ75万となり、そのうち20万はインドに置かれる。それでも55万の良質な職が英国に残るが、これは現在よりも多い数値である。

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