上院雇用職場関係教育関連委員会が技能形成システムに関する調査報告書を公表

カテゴリー:人材育成・職業能力開発

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  • 国別労働トピック:2004年3月

上院の雇用職場関係教育関連委員会は、2003年11月に技能形成システムに関する調査報告書を公表した。同報告書は、1980年代以降改革が続けられてきた職業訓練制度を一貫して批判しているが、この背景には今後適切な行動をとらないかぎり高齢化などを背景にオーストラリアが深刻な技能労働者不足に陥るとの危機感がある。

報告書の背景

改革が着手された1980年代以降、オーストラリアの社会経済情勢は劇的に変化した。すなわち、通貨変動、金融の規制緩和、民営化、労働市場の流動化を促進するための労使関係改革等が断行された。こうした現象は世界に共通するものであったが、オーストラリアは一種独特な問題に直面した。まず第1に、連邦憲法は教育訓練に関するほとんどの権限を州政府に与えているため、改革者にとってこの枠内で全国的な技能認定制度を策定し、労働力の流動化を促進することが大きな課題となっている。第2に、以前のオーストラリアでは中央集権的な強制仲裁制度により平準化された労働条件が保たれていた。こうした高水準の労働条件を維持するために、大きな力を持っていた労働組合が技能形成に深くかかわり、それをコントロールしていた。ところが1980年代の改革のなかで労組はそのコントロールを失い、技能形成や教育訓練には市場原理が強調されるようになった。現在の自由党政権は、教育訓練にかかわる規制を完全に労使関係システムから排除し、それを契約関係をベースとした個人の領域に置こうとしている。こうした改革の成果は政策立案者の大きな関心を呼んでおり、そのため上院委員会が調査を行うこととなったのである。

報告書の概要

上院委員会は2002年10月に調査に着手し、どのような分野で技能労働者不足が起きているのか、そして政府や産業がとっている政策の有効性等を調査した。

報告書のタイトルは“Bridging the Skills Divide”というもので、その序文に示されているようにタイトルには大きなメッセージが込められている。つまり、オーストラリアは現在深刻な技能労働者不足に直面しており、適切な手を打たないかぎり今後も悪化し続けるというのである。労働力の高齢化とともに技能労働者不足は深刻化しており、退職する技能労働者に取って代わる技術水準を持つよう訓練を受けている者はあまりにも少ない。これが“Skills Divide”である。技能労働者不足を招いた要因の1つは、技能形成に十分な投資を行わなかったことである。同時に上院委員会は、不適切な政策が実施されてきたとし、技能形成に関する新たな政策を策定すべきであると主張している。

今回の報告書が特に強調しているのは、労働力の高齢化により技能労働者予備要員は激減し、それが補充されていないという点である。そして不十分な教育訓練制度と相まって労働市場への参入者が減ることで、技能形成・能力開発の水準が低レベルのものとなってしまう。加えて、現在の職場再編は、「ムダ」の排除による生産性向上を強調しているため、技能形成は軽視されている。こうした傾向は、教育訓練の大部分を担ってきた公共事業体の民営化と並行している。

技能労働者不足が深刻なのは、例えば航空機械技師で、技師の平均年齢は55歳だが、技師の養成には7年を要し、それまでに多くの熟練労働者が引退してしまうという。同様の問題に直面しているのは、トラック運転手、看護師、教員、溶接工など多数である。

報告書で示されたもう1つの懸念は、こうした技能労働者不足や将来の技能形成に対応する全国的な枠組みがないことである。6州と2特別区にまたがる全国的な枠組みを作るよう努力が続けられてきたが、連邦憲法の制約もあって十分に達成されていない。このことが、他州で取得した資格が別の州で認定されないといった一貫性のない資格認定制度の寄せ集めという状況をもたらしている。

ただし、今回の報告書も教育訓練制度の明確なビジョンを示せていないため、改革にはさらなる年月が必要とされよう。

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