2003年下半期の労使関係の動向と外資系企業における労使紛争の特徴

カテゴリー:雇用・失業問題労使関係労働条件・就業環境

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  • 国別労働トピック:2004年2月

2003年の労使関係をパラダイム転換のための生みの苦しみとして締めくくるかのように、労使紛争が長期化していた事業所の間で、11月中旬から12月初旬にかけて相次いで労使合意が成立した。この1年間を振り返ってみると、盧武鉉政権は「対話と妥協による合意」と「法と原則の順守」という理念軸(本来両立するものなのに、現実には相反してしまう)の間で揺れながら、労使関係に時には深く介入し、労使紛争の解決に乗り出す場面が目立った。そして労働法制改革をめぐっては労使双方の反対を押し切って法制化を断固として推進した(例えば週休2日制を柱とする労基法改正)かと思えば、労使双方からの反発に遭い、先送りを余儀なくされるケースも少なくなかった。これに対して、経済界からは労働側寄りに偏りすぎて、経済への配慮が足りないという声、そして労働界からは政策方針に一貫性がなく、空手形に終わってしまうことが多いという声が高まった。盧武鉉政権の勇み足、労働側の期待感、経営側の警戒心などが絡み合って、労使関係の新たな方向性を模索するプロセスに大きな影を落としたといえる。

特に、労働問題の専門家を自認する盧武鉉政権と労働側寄りの労働法制改革に向けての政治的決断を迫る民主労総は政権初期の蜜月関係から一転して、それぞれの統治能力と団結力を競い合うかのように対決姿勢を強めたため、労使関係はその行方に大きく翻弄されてしまう局面がだんだん目立つようになった。例えば、民主労総傘下労組執行部の間で、不法ストの責任を問う損害賠償および資産仮差押訴訟や非正規労働者に対する差別などの不当性を訴え、自殺を図るケースが相次いだため、民主労総は政府に緊急対策を迫るため対政府連帯闘争態勢を一段と強めた。それに産別労組体制への転換が進んでいることも、上部団体の団結力に期待を寄せる事業所労組の間では上部団体主導の連帯闘争に参加する傾向が強く、事業所別労使関係は上部団体の政治闘争に巻き込まれてしまう場面も増えてきたのである。

もう1つ、労使関係の新たな動向として注目されるのは、外資系企業の間で労使紛争への対策としてロックアウトに踏み切るケースや、労使紛争の終結に当たって「スト期間中のノーワーク・ノーペイ原則の順守」に合意するケースが増えていることである。

以下、労使紛争が長期化していた事業所を中心に労使関係の新たな動向を詳しく追ってみよう。

損害賠償および資産仮差押訴訟をめぐる労使紛争の終結

まず、労働部によると、11月11日現在争議調停申請件数は802件で2002年同期の939件より14.3%減ったが、争議の発生件数は305件で、2002年同期の286件より6.6%増えた。争議による労働損失日数は124万3128日で、2002年同期の150万293日より17.1%減ったのに対して、争議への参加人数は13万1563人で2002年同期の9万1500人より43.8%増えた。全般的に労使関係がこじれるケースは減少傾向にある反面、上部団体主導の連帯闘争(その期間は短く、規模は大きい)は増加傾向にあることが窺える。

そして2003年の労使関係において主な争点の1つであった損害賠償および資産仮差押訴訟をめぐっては新たな展開が見られた。その対策を話し合っていた労使政委員会は12月17日に合意に達したと発表したが、その中身を見ると、「労働側は争議行為などで法律を順守し、経営側は過度な損害賠償および資産仮差押訴訟を自制し、政府は労使双方が不法行為に走ることがないように関連法制を整備するとともに、政労使は対話を通じて新たな労使関係を築くのに最善を尽くす」という宣言めいたものにとどまった。労使政委員会委員長は「今回の合意は政労使間の社会的合意方式による社会協約づくりの糸口を与えるものである」とその意義を評価しながらも、「それには強制力はなく、単なる勧告に近い」ことも認めた。

これに対して、民主労総(損害賠償および資産仮差押訴訟を起こされたすべての事業所労組の上部団体でありながら、今回の話し合いには参加していない)は、「何の解決策や再発防止策も盛り込まれていない空虚な合意にすぎない」として、その実効性に疑問を呈し、実質的な解決のためには「まず政府にその意志さえあれば実現可能な公共部門でとりあえず損害賠償および資産仮差押訴訟を取り下げ、次にそれに基づいて民間企業での取り下げを誘導するとともに、同訴訟の濫用防止のための労働関係法改正に取り組むことが急がれる」という旨の声明を出した。そして全国経済人連合会(今回の話し合いには参加していない)はこの民主労総とは正反対の立場から、「労使関係上問題になっているのは過度な損害賠償および資産仮差押訴訟ではなく、むしろ争議権の濫用である」と、今回の合意の前提に反駁を加え、「前者を制限するための関連法制の改正よりは後者への有効な対応措置が優先されるべきである」と主張した。

このような中央レベルでの政労使の話し合いや駆け引きとは別途に、事業所別労使交渉では損害賠償および資産仮差押訴訟の取り下げに合意するケースが相次いでいる。まず、韓進重工業では11月14日、経営側の大幅な譲歩で賃上げおよび労働協約改訂交渉が妥結し、116日に及んだ労使紛争はようやく終結を迎えた。その背景には、労組委員長の自殺を機に、外注先・協力会社の操業まで中断され、売り上げの被害額が急速に膨らんだうえ、外国の顧客会社から契約解除の可能性を警告する最後通知が相次ぐなど経営危機を招きかねないところまで事態が急速に悪化してしまったという事情がある。最悪の事態を避けるために経営側は早期に操業を再開するしかなく、結局労組側の要求を概ね受け入れざるをえなくなったのである。今回の合意の主な内容は次のとおりである。

  1. 労組および同執行部に対する損害賠償および資産仮差押訴訟(7億4000万ウォン)を取り下げ、労組および組合員に対する民事・刑事上の責任は問わない。
  2. 基本給10万ウォンの引き上げのほかに、生産奨励金名目で100万ウォン、成果給1カ月分を支給する。
  3. 解雇された組合員15人を2003年12月1日から2006年1月まで3段階に分けて復職させる。
  4. 最近2年間組合活動と関連して行われていた解雇および懲戒処分をすべて撤回する。
  5. 今回の交渉に当たった経営側代表の責任を問う形で専務取締役2人を解任する。
  6. 労組の自由な組合活動を保障し、いかなる理由からも組合活動を妨害してはならない。ほかに、組合活動を妨害する目的で損害賠償および資産仮差押訴訟を起こしてはならないことなども盛り込まれた。

韓進重工業のほかに、労組支部長が損害賠償および資産仮差押訴訟の不当性を訴え、自殺を図るなど労使紛争が長引いていた自動車部品メーカーのセウォンテクや、能力・成果主義賃金制度の導入をめぐって労使関係がこじれていた大宇自動車販売などでも相次いで損害賠償および資産仮差押訴訟を取り下げることで妥結の糸口を見出す動きが見られた。

そしてもう1つの主な争点であった非正規労働者の処遇改善をめぐって、労組幹部が自殺を図り、労使紛争が長引いていた勤労福祉公団でも12月6日に労使合意が成立し、41日ぶりに労使紛争は終結した。主な合意内容は次のとおりである。

  1. 非正規職を段階的に正規職に置き換え、正規社員を採用する際に採用予定人員の5割を在職中の非正規社員から選抜することで、非正規社員数を減らしていく。
  2. 労組の組合活動を保障し、争議行為に関連する民事・刑事上の責任は問わない。
  3. 賃金総額の3%引き上げ、非正規職の処遇改善名目で月3万ウォン支給、日雇い職の超過勤務手当支給など。

外資系企業における労使紛争の特徴

外資系企業の間では労使紛争の増加傾向とともに、ロックアウトに踏み切るケースが目立った(2003年9月末現在30件のうち8件)。その一方で労使交渉が妥結するなかで、「スト期間中のノーワーク・ノーペイ原則の順守」に合意するケースも相次ぎ、外資系企業の間でも従来の不合理な慣行を是正する動きが広がりを見せている。

まず、スイス系の韓国ネスレのケースから見てみよう。同社では、4月25日から始まった賃上げ交渉で労組側が11.7%の賃上げのほかに「雇用安定のために組合員の異動・配転および外注化の際に労組との合意を義務づけること」も求めたが、経営側は「労働協約関連案件は2003年の賃上げ交渉の対象ではない」ことを理由に労組側の要求には応じず、代理店販売方式の外注化とともに、営業職社員44人の市場需要調査業務部(新設)への配転を断行した。これに対して労組側は「営業職社員の配転は労組との協議を経ておらず、労働協約の関連規定を違反した措置である」と反発し、7月7日にストに突入した。これに対抗するために、経営側は8月25日と9月4日にソウル事務所と工場を対象にロックアウトに踏み切った。

その後、労組側は工場前で座り込みを続け、地方労働委員会に経営側の不当労働行為を提訴するほか、スイスに交渉団を派遣し、国際労働団体の支援を得て本社に抗議するとともに、OECDにも多国籍企業の雇用ガイドライン(第4条7項:多国籍企業は労使交渉に不公正な影響を与えたり、労組の権利を阻害したりする目的で生産設備の全部または一部の移転を脅しに持ち出してはならないという規定)を違反したとして提訴する構えを見せた。

これを受けて、まず、地方労働委員会は特別労働監督官を同社に派遣し、「労組との協議を経ずに、事務職社員を工場に異動させ、営業職社員を新設部署に配置換えし、外注を拡大するなど、労働協約を違反した」として是正命令を出すほか「組合員(490人)あての手紙に“ストの長期化により、韓国からの工場撤退という不幸な事態を招く恐れがある”という文言を盛り込んだのは労働者の団結権を侵害するものとして不当労働行為に当たる」という審判を下した。そのほかに、経営側が10月20日から臨時職や事務管理職社員など非組合員を投入して工場を稼動したことに対しても「大きな事故を起こす恐れがあること」を理由に稼動中止命令を出した。

このような地方労働委員会の判定や命令などに対して、経営側は「政府が労組の無理な要求を受け入れ、会社側に譲歩するよう圧力をかけている」と主張し、政府に不満をぶつける場面も見られた。

そして最終決定権を持つ本社は韓国ネスレに対して「労組の合法的な活動は尊重するが、会社の人事および経営権への労組の介入は認められないというのが本社の基本方針である。労使紛争の長期化で競争力が低下する場合、重大な決定は避けられない」という立場を表明したうえで、「韓国からの工場撤退のシナリオを検討するよう」指示したという。本社としては「工場撤退のシナリオ」が労組への圧力と受け取られ、OECDでの多国籍企業の雇用ガイドラインに抵触することを恐れたのか、一貫して「韓国から撤退する計画はない」ことを明らかにしながらも、「韓国ネスレは全海外子会社と同様に、競争力を持たなければならない。競争力を失えばいつでも他の生産拠点に変えられるというのが本社の立場である」ことを強調したといわれる。つまり、グローバル競争戦略に基づいて海外生産・販売拠点の競争力を比較しながら各拠点の位置づけや役割の調整(統廃合・撤退・事業移転)を続けるという多国籍企業の本質に変わりはないということである。

結局、韓国ネスレの労使は地方労働委員会委員長の調停で11月28日に開かれた26回目の労使交渉でようやく次のような内容に合意し、145日に及んだ労使紛争の幕を閉じた。

  1. 最大の争点であった雇用安定をめぐっては、構造調整で労働条件の変更および人員削減が予想される場合、「労使共同の労働条件および雇用維持委員会」を設置し、関連案件を協議する。
  2. 基本給の3%引き上げ(定期昇給分を含めると5.5%)。
  3. 早期退職者に対して「月平均賃金×勤続年数×1.5」を支給する。

そのほかに、経営側は「スト期間中の賃金に対してノーワーク・ノーペイ原則を順守する」方針を貫いた点を強調した。

次に注目されるのはスウェーデン系の韓国テトラパックのケースである。同社は7月28日にロックアウトに踏み切った。その後、労使双方からそれぞれ交渉権の委任を受けた民主労総と韓国経総は8月27日に「スト期間中の賃金は支給しないというノーワーク・ノーペイ原則を適用するほか、ストの責任者に対する民事・刑事訴訟は取り下げる代わりに社内の人事委員会で懲戒処分を行うことなど」で合意に達した。経営側は、「全海外子会社のなかで今回のストが最も長かった。本社は2003年に1000万ドルを投資する計画であったが、今回のストで投資計画を再検討することにしている」と述べ、労使関係が投資環境の重要な要素になりうることや、多国籍企業にとって投資先選択の幅は広いことをほのめかした。

そのほかに、日系の自動車部品メーカー太平洋バルブ工業でも9月9日にロックアウト措置がとられた。経営側は「6月25日からストが続き、生産の被害額は28億余に上り、赤字規模がさらに膨らむことが予想されるため、ロックアウトに踏み切った」と説明した。同社労組から交渉権の委任を受けた民主労総傘下の金属労組は「労働条件の削減のない週休2日制の導入、非正規労働者の処遇改善、組合活動の保障、基本給12万5141ウォンの引き上げなど」を要求していた。結局、同社でも10月13日に「スト期間中のノーワーク・ノーペイ原則を順守するほか、今後1年間労使紛争などで生産に支障を来たすことはないようにすることなど」で労使合意が成立した。

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