EU委員会の「仕事の質の向上」に関する報告

カテゴリー:非正規雇用労働条件・就業環境

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  • 国別労働トピック:2004年2月

欧州委員会が2003年11月に発表した「雇用の質の向上」に関する報告によると、生産性や雇用率の向上などの指標に改善が見られるものの、高齢者の雇用率、仕事に対する満足度、雇用率の男女比較、訓練機会と仕事の質的向上などの観点で見ると、課題を残している現状が浮き彫りになっている。EUは2000年に策定した社会・経済政策である「リスボン戦略」を基本に、毎年春に開かれる欧州理事会で雇用政策のフォローアップを行っており、今回の報告もこの流れに沿ったものである。

最新の欧州雇用政策指針は、2003年3月にEU委員会が提起し、6月の欧州理事会で承認された。2003年から2005年の3年間をカバーする政策として、

  1. 雇用戦略をリスボン戦略の中心的課題として認識する
  2. 雇用率を引き上げつつ、完全雇用の達成、仕事の質と生産性、相互支援的で相関のある一体的かつ包含的な労働市場を目標とする
  3. 総括経済政策指針との適合性を確保する―などを確認。

このほか、「欧州雇用タスクフォース」(少数の専門家で構成)を設け、2004年春の欧州理事会に向けて雇用報告書をまとめることを決めた。

今回の報告のテーマである「仕事における質と生産性の向上」は、この「新欧州雇用政策指針」の主要課題の1つであり、雇用率の向上、失業(特に長期失業)の低下、男女平等など、雇用に関する多くのファクターとつながりを持つとされる。本報告が具体的に指標として挙げているのは、

  1. 本来の仕事の「質」
  2. スキル、生涯学習とキャリア形成
  3. 男女平等
  4. 仕事における安全と健康
  5. 柔軟性と安定性
  6. 労働市場へのアクセスと包含
  7. 職場組織とワーク・ライフ・バランス
  8. 社会的対話と労働者の参加
  9. 多様性と非差別
  10. 総合的な仕事の「パフォーマンス」

―の10項目だ。

このなかでの注目すべき点として、女性の雇用率が挙げられる。EUの「リスボン戦略」は、女性の雇用率を2005年までに57%、2010年までに60%に引き上げることを目標とし、さらに量のみならず仕事の質の面も重視するとした。報告では、雇用率の男女差は減少しているが、まだ不十分であると指摘。依然、男女の雇用率(%単位)のギャップは17ポイント存在すると述べている。

また、パートタイム労働について、オランダ、英国、ドイツ、デンマークなどでその比率が高いとし、オランダでは4分の3のパート労働者がフルタイム労働を望んでいないこと、ドイツや英国ではパート労働者の約半数が子供や家族のケアのためにパートを選択していることを紹介。一方、6歳までの子供を持つ20~50歳の女性の雇用率(%単位)は子供を持っていない同年代の女性と比較して12.7ポイント低いとし、仕事の柔軟な形態や職場の見直し、育児休業システムなどを通じた職業と生活の両立を訴えている。

報告には、これら10項目の評価に加え、「仕事の質」と雇用、生産性、社会的統合と統一性のそれぞれに関しての考察が含まれている。雇用との関係については、訓練機会に乏しい質の低い仕事から失業へ至るケースが見られるとする一方、質の低い仕事でも安定した雇用へのステップとなる場合も存在すると指摘している。高齢者の場合は、仕事の質が低いと労働市場から退出する割合が高い(質が高い場合と比べ4倍に上る)という。

生産性については、仕事の質との関連が強いとし、被雇用者に占める職業訓練を受けた者の比率を1%上げると、その事業所の生産性が0.3%上昇すると述べつつ、「半数を超える欧州の被雇用者」が訓練機会を得ていないと主張。さらに、社会的統合が進み雇用率が高く、しかも高いスキルを持つ労働者が多い国ほど、1人当たりGDP(国内総生産)が高いと指摘している。

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