フォルクスワーゲンとオペルの労使交渉

カテゴリー:雇用・失業問題労使関係労働条件・就業環境

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  • 国別労働トピック:2004年12月

フォルクスワーゲンの労働協約

VW(フォルクスワーゲン)社では9月中旬に始まった労働協約改定交渉が緊迫し、組合側によるストライキの実施も日程に上っていたが、11月3日、会社側が2011年末まで10万3000人にのぼる国内従業員の雇用を保障することを主な内容とする労使合意に至り、決着した。新しい労働協約の期間である28カ月間(10月~2007年1月)賃上げは実施されず、従業員は来年3月に一律1000ユーロの一時金を受け取る。

VWでは通常の金属産業労働協約が適用されず、50年以上にわたり、IGメタル(金属産業労組)が会社側と「社内労働協約」を結んでいる。組合側は今回の交渉で、当初長期間の雇用保障と4%の賃上げを要求。一方、経営サイドは今年4月、2011年までに30%の労働コスト削減を行うと発表。今回の協約改定交渉では、会社側はゼロ賃上げを主張するとともに、3万人に及ぶ人員整理の可能性に言及するなど、労使対立が鮮明になっていた。交渉では、10月中旬に会社側が初めて雇用保障の可能性に言及。これを受けてIGメタルも賃上げ要求を2%に切り下げ、雇用保障の獲得を最優先にする姿勢を見せた。組合側が警告ストを重ねる中で、労使は10月末までに5ラウンドの交渉を終え、11月初頭に行われた第6ラウンドの交渉で決着にこぎつけた。

結果は、従業員側が長期の雇用保障を得る一方、賃金面で妥協するトレードオフに終わった。VW社の社内協約は、従来から金属産業労働協約の賃金水準を上回っており、従業員には雇用優先の思いが強かった。ただし、今後新規採用される従業員と仕事を継続する実習生については、従来の社内協約レベルの水準から、一般の労働協約の水準へと賃金が引き下げられる。IGメタルは、ニーダーザクセン州内の6拠点における投資と生産計画について会社側に確認し、雇用保障の裏付けとしている。一方会社側は、今回の協約により10億ユーロの労働コスト削減を見込んでいる。

オペルの人員削減計画と生産拠点の選択をめぐる問題

自動車会社のオペル(ドイツ国内従業員数3万2000人)で、親会社の米GM(ゼネラルモータース)が1万人の雇用削減を打ち出し労使紛争が生じている。GMは、ヨーロッパのグループ(オペルおよびスウェーデンのサーブ、英国ヴォクスホールの各社)全体で年間5億ユーロのコストを削減し、現在の従業員およそ6万2000人のうち1万2000人の雇用を減らす計画。このうち1万人がドイツに集中し、とくに主力拠点のリュッセルスハイムおよびボッフムで、それぞれ4000人規模を削減する予定だと報道されている。GM本社の計画に従業員側は激しく反発。10月中旬には、1週間にわたり計画的に職場放棄を行った(正式な手続きを経ない、いわゆる「山猫スト」)。

GMは、オペルのベクトラ、サーブの9.3という2リッタークラスの兄弟車を統合し、ドイツあるいはスウェーデンの何れかで、次期モデルを2008年から生産する予定だ。11月末現在、同社はどちらを生産拠点にするか検討中で、「クリスマス前には決定」の観測がメディアに流れている。ベクトラを製造するリュッセルスハイム工場が次期モデルの生産拠点として選ばれるかどうかで、ドイツ国内の雇用削減数が大きく変わる。

企業業績の低迷などから、GMの戦略について経営責任を問う声は、マスコミや経済界にも強い。同時に、ドイツの高い労働コストなどの条件が生産拠点としてふさわしいかどうかを問題にする、従前からの産業立地(Standort)論争も主要テーマとなっている。しかし、現実に立ちはだかる生産拠点の選択問題を前に、従業員側も、事業所委員会が週労働時間を現行の「32時間から38.5時間」の間で設定する取り決め(労働時間回廊、Arbeitszeitkorridor)を、「週30時間から40時間」に拡大することを提起している。この提起は、賃金が35時間分支払われるため、週40時間勤務の場合5時間分の労働が超過時間手当なしになることを意味しており、労働側の譲歩のサインと受け取られている。ドイツ政府も、雇用維持を目指す点では一致して、インフラストラクチャーの整備などをアピールしている。

雇用問題が労使間の最重要テーマに

VWとオペルというドイツ自動車産業の主要企業で雇用が労使間の最重要テーマとして浮上したことは、今後の労使関係や産業別労使交渉の行方に強い影響を与えそうだ。多国籍企業のオペルでは、先進国同士ではあるが二つの生産拠点が天秤にかけられ、ドイツ資本のVWでも、経営陣が人員整理の可能性に言及した背景には、コスト削減が達成できなければ生産拠点の国外移転も辞さないという圧力がにじんでいる。

もちろん、ドイツの内需低迷にあって、乗用車市場では高級車とコンパクトカーに人気が二分され、中・小型を主力とする両社の業績がともに低迷していることは、とくにオペルの事例において問題視されている。しかし、ドイツの自動車産業全体の行方が論じられる際に、常に「高い労働コストと短い労働時間」がテーマとなることをみても、雇用と生産拠点をめぐる労使間の論議は長期にわたって続くことになりそうだ。

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