経済社会環境の変化と労使関係の最近の動き
構造改革の進展やグローバル化の拡大により、近年の中国では、工会(労働組合)をめぐる環境が大きな変化を迎えている。
労使関係の現状
中国の労働組合(以下工会)の機構は、1925年に設立されたナショナルセンターである中華全国総工会を頂点に、省や市等レベル、企業や事業所等レベルでの工会とその工会員で構成される。
中国の工会は、1992年に規定された「工会法」いわゆる労働組合法を根拠法に設置される。この法律の下では、1)労働者が工会を組織し、参加する権利、2)工会の組織、3)工会の権利と義務、4)国有企業や集団企業などにおける基層工会、5)工会の経費と財産などが定められている。また、近年の市場経済化の進展による社会経済の変化、労働者の就業・雇用構造の変化を背景に、2001年には、改正作業が行われ、労働条件の確保、賃金の確実な支払い、労働災害防止など労働者の権利の保護の規定や中小私営企業、外資系企業を含む企業、事業単位の組合を設立できると定めている。(海外労働時報2002年3月参照)
改革開放以降の市場経済化の進展の中では、経営者による工会活動への妨害や制限など、経営者と従業員の利害対立の局面が著しく顕在化するようになっている。特に近年は、賃金の未払いや労働契約を結ばない雇い入れなどトラブルが頻発しており、仲裁制度による2003年の労働争議受理件数は22万件以上に達している。
案件受理内容 | 合計 | 国有企業 | 集団企業 | 外資企業 | 合弁企業 | |
---|---|---|---|---|---|---|
受理件数合計 | 226391 | 48771 | 30218 | 23391 | 23451 | |
事業所単位による訴え件数(件) | 10879 | 3158 | 1357 | 1124 | 884 | |
労働者による訴え件数(件) | 215512 | 45613 | 28861 | 22264 | 22567 | |
集団的労働争議件数(件) | 10823 | 3623 | 1519 | 1121 | 733 | |
労働争議当事者数(人) | 801042 | 309439 | 97501 | 89621 | 63649 | |
集団的労働争議当事者数(人) | 514573 | 294794 | 47796 | 45798 | 18456 | |
<原因>(件数) | ||||||
報酬 | 76774 | 12637 | 10168 | 7775 | 8351 | |
社会保険福利 | 44434 | 11025 | 6903 | 3807 | 4676 | |
労災 | 31747 | 4936 | 3586 | 3425 | 2568 | |
職業訓練 | 1211 | 313 | 213 | 186 | 221 | |
労働契約の変更 | 5494 | 1796 | 684 | 480 | 701 | |
労働契約の取り消し | 40017 | 10702 | 4944 | 5090 | 3561 | |
労働契約の終了 | 12043 | 3671 | 1918 | 1608 | 1217 | |
レイオフ | 1540 | 570 | 438 | 49 | 185 | |
その他 | 13131 | 3121 | 1364 | 971 | 1791 |
出典:中国統計年鑑2004
そういった中で従業員代表としての工会への期待は高まっているが、有識者の指摘によると、工会法は計画経済下で、工会員が共産党委員であり、経営も代表するという企業の組織構造の中で、その制定の当初に違反行為を想定していなかったため、罰則や法的責任追及手続きに関する規定をもっていない。
また、もうひとつの問題に、近年工会員数が減少していることが指摘される。「2004年中国統計年鑑」によると、2002年には、工会数171万3000、工会員数1億3398万人であったところ、1年後の2003年は、工会数90万6000、工会員数1億3398万人に落ち込んでいる。
工会組織数減少の原因としては、国有企業改革によるリストラによる従業員数の減少や私営中小企業と外資系企業の従業員の組織化が十分に進んでいないことーーなどが挙げられる。
工会組織状況
出典:中国統計年鑑2004より作成
外資系企業の組合組織化問題
今年7月、北京にある米国系大手会計監査企業で辞職者が続出した。昇給の評価基準が明確でないこと、深夜におよぶ時間外労働や休日出勤が常態化し、残業手当等も支給されない長時間労働を強いられてきたことがその理由であった。結局、この労働紛争は、経営者が年度賞与を前倒しで支払うことで決着したが、外資系企業におけるこの種の労働紛争は、他の外資や合弁系企業の上級ホワイトカラーの間でも数多く起こっている。
全国人民代表大会常任委員会検査班と中華全国総工会は、近年の外資を含む私営企業の増加とその影響、組合組織率の低下、労働紛争の増加等の実態を把握するため、今年8月から9月にかけて「工会法の執行状況調査概況」調査を行った。
その結果、2001年の改正工会法で、外資系企業も工会の設立が義務付けられたにもかかわらず、米国系ウォールマート、コダック、DELL、ケンタッキー、マクドナルド、韓国系サムソンなど8社の大手外資系企業が工会を設立していない実態が判明した。米国の労働関係NPOの調査によると外資系企業の7割が工会を設立していないという報告もある。
中華全国総工会は、この事態を深刻に受け止め、工会の設立を各社の要請し、工会を設立しない企業についてはブラックリストを作成することを明言している。
そういった中、中国国内17都市に35店舗をもち、1万9000人の従業員を雇用しているウォールマートは、米国でもユニオンフリーマネージメントを行っていることで有名であるが、当初は海外展開各社と同様に中国においても労働組合の設立はしない方針であった。しかし、11月23日に米国本社社長が、工会の設立は従業員の自発的な行為によるという中国工会法の定めに従い、従業員が希望すれば工会を設立する旨のコメントを発表した。今後の動向が注目される。
社会経済の変化と工会の課題
最近、農村で余剰労働力となった出稼ぎ労働者、いわゆる「民工」が多数都市へ流入している。法律で定められた契約を取り交わすこともなく、権益は侵害され、危険な作業環境におかれる「民工」の劣悪な状況下での就業が新聞各紙で指摘されている。
そういった労働者への権利保護のための支援を積極的に行う多数のNPO(非営利団体)の活動も報告されている。
中華全国総工会は、昨年の第14期第3回主席団会議で、「組織化の拡大と労働者の権益の保護」を方針として打ち出した。
めまぐるしく変化する社会経済環境を背景としつつも、各地方総工会は主席団会議での方針を受け、独自に調査を進め、状況の改善のため努力を進めている。
その中でも、江西省総工会、福建省総工会、河南省総工会、遼寧省総工会、江蘇省総工会では、企業やコミュニティ組合(社区)など末端部分の工会の組織化と強化に力を入れている。賃金保障、社会保障や労使関係制度の完成と生活に密着した支援を行うことで、民工の組織化にも成功するなど成果をあげている。
経済成長を続ける中国では、その裏側で、外資や私営企業のホワイトカラー、農村から都市に流入する「民工」など労働者の属性は異なっていても、それぞれ固有の問題を抱え、労働紛争が頻発している。NPOも多数活動する中で、時代ニーズにマッチした役割と貢献を果たそうとする工会の挑戦はまだ始まったばかりだ。
2004年12月 中国の記事一覧
- 経済社会環境の変化と労使関係の最近の動き
- 「出稼ぎ労働者不足に関する調査報告」―民工荒の実態
関連情報
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