スペインにおける大学生の労働

カテゴリー:若年者雇用

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  • 国別労働トピック:2004年11月

この20年間で、高等教育課程進学者が急増したスペイン。この間、大学生の数は倍増して15万人を超える。大学入学年齢にある若者のほぼ半数が何らかのかたちで高等教育を受けている。これに伴い、労働市場における大卒者の割合も増加。現在、大卒の労働者は500万人で、就業者全体の28.6%となっている。こうしたなか、「働く大学生」も増加しているが、彼らの目的は「独自の収入を得る」ことで、「大学で学ぶ専門性を活かし、卒業後の就職に備える」と考える学生は少ないようだ。

教育科学省が大学生3000人に対して行ったアンケート調査によると、大学での授業期間中に働いていた学生は、全体の34%であった(2002年~2003年)。休暇中も含めて何らかの仕事をしたことがある学生を合わせると、この数字は42%になる。また、これまでに何らかの就労経験がある学生すべてを含めると、68%になる。

学生の労働による収入は、雇用期間の差を考慮せずに平均すると月額202ユーロ(注1)(約27500円)。通信教育課程在籍者も含めると月額417ユーロ(約56700円)となる。この金額は、賃金労働者全体の平均の半分にも満たない。これは、学生の労働が、有期雇用、パートタイム労働、非熟練労働が多く、賃金が安いためである。

通信教育課程で学ぶ高年齢の学生を入れても、学生の労働キャリアはそれほど長続きしない。働く学生の就労期間は1年強(12.7カ月)となっている。男性で、より年齢が高い層、及び短期コースで学ぶ学生の間で、就労期間は長くなっている。また、この期間中に平均で2.2件の就労先を持つことも特徴的で、1件につき平均6カ月未満という短い就労期間となっている。

就労期間が短いため、学生が失業手当を受けられる機会は限られたものとなっている。手当を受給している学生は全体のわずか1.1%で、受給額は月額350ユーロ(約47600円)に満たない。

働く学生のほとんどは他者に雇用される形で働いており、自営で働くものは8%、また家族の経営する事業を手伝う者が5%となっている。職種で見ると、個人に対するサービスが全体の51%を占めるほか、事務職系のサービスが15%となっている。学生の中でも、女性及びより年齢の低い層は熟練度の低い職種で働く傾向にある。

学生の多くは熟練を必要としない職で働くことが多い。彼らは、これから技能訓練を積む必要があるとみなされているためである。働く学生のうち3分の1は、「現在の仕事をする上で訓練を受けた」と答えている。しかし実際には、ごくわずかな例外を除いて一週間足らずの訓練を受けたにすぎない。一方、安定した終日労働の条件で働く学生の間では、比較的しっかりした訓練を受けている。

学生が働く理由は、「経済的に独立する」「小遣いを得る」「経済的に必要だから」といったものがほとんどである。そのため、就労先も賃金条件を基準に選択しており、「自分の専門の職種で働き始めたいから」という理由を挙げたのは、全体の6%にすぎない。学生は、専門的な職業訓練のチャンスよりも収入を求めて働く傾向にあるといえる。

自らの仕事に対する満足度は、10点満点で6.5点。年齢が高く、安定した雇用条件で働く者の間では、評価は更に高くなる。賃金に対する満足度は6.3点、労働時間に対しても、7.1点と非常に高い満足度を示している。「学業と両立しながら独自の収入を得る」という学生の目的にあった働き方が実現できているようだ。

在学中から仕事を経験してきた学生は、大学卒業後、企業にとっては即戦力として迎えられる可能性が高まる。しかし、それが単なる「就業経験」によるだけでなく、「専門性を兼ね備えた」即戦力となるには、学生が収入よりも、自らの専門性を伸ばせるか否かで職種を選択し、かつその職場での専門的な職業訓練をどう充実させるかが、今後の大きな課題となりそうだ。

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