企業の生産拠点の海外移転抑止を目的に、「競争力強化重点地区」を創設

カテゴリー:雇用・失業問題

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  • 国別労働トピック:2004年11月

政府は9月14日の国土整備関係省連絡委員会(CIADT)において、2004年から2007年にかけ、国内約20カ所に「競争力強化重点地区(poles de competitivite)」を創設することを決定した。同地区で活動する企業には、法人税免除などの優遇措置がとられるほか、国からも補助金を給付する。安い労働力を求める企業の海外移転を抑制することが目的。

衣料品や自動車産業のみならず、情報技術などの最先端分野でも、企業が生産拠点を海外へ移転する傾向が続いているフランス。企業の主な移転先は、東ヨーロッパやアジア、マグレブ諸国(フランスの旧植民地:モロッコ・アルジェリア・チュニジア)で、安い人件費と緩やかな労働法規制がその理由だ。最近では、コンピュータ製造会社のユニカ(UNIKA)が、チェコへの移転を念頭に、パリ郊外の工場の一部の閉鎖を決定。従業員の一部に解雇の意向を伝えた(10月22日『パリジャン』誌)。

国民の間にも、こうした産業の「空洞化」が国内雇用に及ぼす影響への懸念が広がり始めている。経済誌『ラ・トリビューヌ』は、「どのような政策を政府は実行すべきか」を問う世論調査を実施。その結果(9月22日発表)によると、42%の人が海外移転抑制政策を「優先すべき政策項目」として挙げている。

フランス企業の生産拠点の海外移転は、1960年代終わりにさかのぼり、新しい現象というわけではない。しかし、この問題に対する国民の関心の高まりは、EU拡大による東欧への投資増加、ユーロ高による国際競争力の低下、失業率上昇(2001年6月:8.6%、2004年6月:9.9%)といった、最近の経済情勢が背景にある。

こうしたなか政府は、国際競争力の強化に重点を置いた「海外移転抑制策」を発表。全国20箇所に「競争力重点地区」を設定し、企業及び教育訓練機関、研究機関などを集め、 連携を高めることで効率良く研究開発や企業発展を図るのが狙いである。同地区では、法人税の免除や社会保険料・雇用主負担の軽減、あるいは様々な公的な補助金を受けることが可能となるが、企業は「海外移転をしない」と誓約することが義務付けられる。

この海外移転抑制策について、社会党(野党)は、強い反発を示している。法人税や社会保険料の軽減措置という企業に対する支援措置に、雇用義務を伴っていないというのがその理由だ。また、競争力強化重点地区の設定は同地区以外での雇用を不安定にさせ、「地方の破壊」を促進させるという懸念も示している。

経営者団体のフランス企業運動(MEDEF)のセリエール会長は、この政策に対して歓迎の意を表明。しかし、企業のより効率的な活動を実現させるためには、海外移転抑止策を競争力強化重点地区だけに限定するのではなく、フランス全土で実施すべきであると主張している。

労働組合のひとつ、労働総同盟・労働者の力派(CGT-FO)は、競争力強化重点地区の設置に対しては、反対の意を唱えていない。しかし、企業に対する税制上の優遇措置については、海外移転抑制が目的ではなく、政府のリベラルな政策によるものとみている。また、この政策は、社会保障制度や労働者の権利の見直しにつながりかねないと警戒している。競争力強化重点地区における社会保険料の雇用主負担の軽減が、同地区以外にも拡大かつ恒久化すれば、社会保障関連財政が悪化し、それを理由に政府が社会保障給付費を削減しようとするのではないかとの懸念を示している。

ラファラン首相は、このプロジェクトの関連費用として、企業に対する国の補助金を約3億6000万ユーロと予想しており、2005年度予算(国の一般会計)に計上する予定。補助金以外は、約3億7000万ユーロに達すると見込んでおり、関連省庁の予算や中小企業開発銀行など様々な公的機関から調達される予定である。このプロジェクトの第1次募集は、今秋から開始。国土整備委員会が、地方自治体などによる提案を審査することとなっており、審査結果は2005年春頃発表される。

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