2004年欧州雇用報告

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  • 国別労働トピック:2004年11月

EU委員会は、9月23日、2004年雇用報告(第16版)を発表した。同報告は、拡大EUの最近の労働市場の概観を示し、欧州雇用戦略に係る重要なテーマとして、労働市場制度と就業率の関係、積極的労働市場政策における異なる手段の相互関係などについて分析を行っている。同報告サマリー部分の要約は以下のとおり。

2003年欧州の低経済成長とばらつきのある雇用実績

2003年のEUは、低い経済成長率を反映して雇用の増加も限定的であり、就業率の増加は米国の0.9%よりも低い0.2%であった。雇用情勢は、若年者、低技能労働者、製造業従事者、長期失業者についてさらに悪化した。

2003年のEU25カ国の雇用情勢は、ほぼ半数の加盟国において就業者数が減少する一方、10の加盟国では1%を超える成長を記録し、ばらつきのある状況となった。

経済情勢に改善の兆しが見られるにもかかわらず、2004年及び2005年の雇用情勢は、低調な状況が持続すると予想される。リスボン戦略及び欧州雇用戦略の進捗状況の評価に当っては、この点を考慮する必要がある。

拡大EUとリスボン戦略達成への道

リスボン戦略及び欧州雇用戦略に掲げる2010年の就業率の到達目標(全体70%、女性60%、高齢者50%)に対し、2003年のEU25カ国の就業率は、全体で63%、女性55%、高齢者40%であった。女性、高齢者、低技能労働者の低い就業率や雇用失業の地域的不均衡は、欧州労働市場における構造的問題を表している。2010年の就業率目標の達成は、さらなる労働市場改革実行の成否にかかっている。それはひいては、生産性と労働の質を向上させ、社会的包含力や結合力を促進する。この観点における重要な政策の優先課題は、欧州雇用タスクフォース及び2003~2006年の雇用指針に示されている。すなわち1)労働者及び企業の適応能力の強化2)より多くの人々に就業の機会を与えること3)人材育成へのさらなる効果的な投資4)より効果的な管理手法による改革実行性の強化――である。

今年の報告書は、就業率の決定要因、サービス産業の雇用に関する国別格差、低賃金・不安定雇用からの脱却、外注化・分権化・グロ-バル化の雇用への影響の各章によって構成され、これらの政策優先課題に関する詳しい分析を提示している。

労働市場制度及び積極的労働市場政策の効用:雇用率決定要因の詳細な分析

1997年から2002年における就業率の変化には、パートタイム労働者の増加及び積極的労働市場政策に対する支出の増加が影響している。その他の政策や制度との相互作用を考慮すると、積極的労働市場政策への支出は就業率に好影響を及ぼしたと考えられる。他方、税・社会保険料のくさび(総労働コストに対する個人所得税と社会保険料負担の比率)の変化は、長期的には雇用に影響を与えないものと思われる。積極的労働市場政策及び税・社会保険料のくさびの変化の雇用への影響は、団体交渉が行われるレベルにも左右され、分権化された交渉よりも中央、産業別レベルの交渉のほうが影響が大きい。積極的労働市場政策及び社会保険制度は、労働者の適応能力の向上に資するものでなくてはならない。

最終需要構造が、サービス産業の雇用に関するEU・米国間格差の主要因

サービス産業におけるEUと米国の雇用の格差は縮小しつつあるが、EUのサービス産業には未開拓の雇用分野が存在する。雇用の格差は、比較的高技能・高賃金の産業・職種と低生産性・低賃金の産業・職種の双方に見られる。米国の経験は、EUにおける潜在的な雇用開発分野をさがす上で役に立つが、必ずしも手本となるものではない。EUの中にもスウェーデンやイギリスのように米国に劣らず、高技能、低技能を問わず高い雇用創出率を記録した国がある。雇用構造におけるEUと米国の差異は、主に家計消費パターンと最終需要構造の違いによるものである。EUと米国の雇用構造の違いについて、EUの硬直的な賃金構造や高い生産性が低技能労働者の労働市場への参入を阻んでいるという従来型の認識を裏付ける証拠は見当たらない。さらに一般的には、製造業における雇用のほうがサービス産業の雇用に対する波及効果が高い。サービス産業における真の内部労働市場の育成、女性や高齢者の労働市場参加の促進、教育・健康・福祉サービスへの公的支援の拡充などは、サービス産業の潜在的な雇用の開発を促進するであろう。

教育訓練が低賃金・不安定雇用からの脱却を助ける

雇用形態の多様化による労働市場の柔軟化が非常に重要である。しかしそれには生産性や仕事の質の向上と社会的結束の両者を支援する適切な安全性が担保されていなければならない。欧州労働市場は、臨時的雇用や低賃金の労働者の労働移動が非常にさかんな点に特徴がある。臨時的雇用に従事する労働者のうちおよそ3分の1が1年以内により安定的な仕事に移っているが、失業する危険性もかなり高い。1年以内の労働移動のパターンは、加盟国によって大きな違いがある。

女性、低技能労働者、高齢者は、不安定な労働契約、低賃金等で弱い立場に置かれているだけでなく、転職によりその地位を改善する機会も非常に限られている。失業者に職を与え、不安定で低賃金の労働に従事している人々を失業から守り、その地位を向上させるためには、教育訓練や資格取得がとりわけ効果的である。柔軟性と安全性のバランスの改善は、生産性と仕事の質を向上させるのみでなく社会的統合をも促進する。

グローバル化は害悪か?動態予測における経済統合の費用と便益

社会的統合とグローバル化の進展は、全般的に労働者及び消費者に利益をもたらすものである。EU拡大は、これまでのところ、雇用や賃金に大きな影響を与えてはいない。しかしながら情報通信産業及び関連サービスの重要性の増加は、事業再構築やオフショアリングをさらに加速させるかもしれない。そのような変化が及ぶ地理的範囲の不均衡による影響は、適切な政策手段によって緩和されなければならない。政策手段の立案に当っては、オフショアリングを決断する際の企業戦略を考慮し、国際的な賃金格差ではなく、企業と労働者の適応能力を向上させる政策の実行がより重要である点を理解しなければならない。これらを併せて初めて欧州は、グローバル化の利点を欧州全域で満遍なく享受することができる。

結論:欧州雇用戦略の重要な使命

EU及び加盟国は、柔軟性と安全性の均衡を図りつつ、欧州雇用戦略を有効に活用しながら、人的育成を進め、雇用を増大させていかなければなければならない。

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