EU労働時間指令修正案を巡る反応

カテゴリー:労働法・働くルール労働条件・就業環境

イギリスの記事一覧

  • 国別労働トピック:2004年11月

英国は、EU労働時間指令に対するオプト・アウトを認めている数少ない国のひとつであり、週の労働時間が48時間を超える労働者の比率はEU加盟国の中で最も高い(注1)。 2004年9月、EU委員会は、週労働時間の上限を48時間とするEU指令に関し、英国企業による濫用を防止する内容を含む修正案を発表した。修正案は最大週労働時間を65時間とする等、労働者保護が強化された内容となっている。また、週48時間を超える平均週労働時間を求める要求に対する労働組合の拒否権等が新たに盛り込まれたことに対し、使用者側は激しく反発、労働組合側も不支持の姿勢を示した。

英国産業連盟(CBI)は、労働市場の弾力性を損なうことになるとの理由で即座に修正案反対のロビー活動を開始した。CBIの調査によれば、使用者側のほぼ4分の3がオプト・アウトの取り消しによって経営状況が悪化すると答えている。また、英国エンジニアリング事業者連盟(EEF)は、労働時間をより厳密に管理することによるコストの増加や信頼関係の悪化によって労使関係に新たな問題が生じる恐れがあると主張している。イギリス労働組合会議(TUC)も、今回の修正案がオプト・アウトの直接の廃止をうたっているものではないため、修正案に対する不満を表明した。

オプト・アウトを巡る論争は、EUが策定した2010年までに、世界で最も革新的で高い生産性と成長率を備えた経済を構築するという方針(リスボン雇用戦略)に対する試金石であると見る向きが多い。確実に経済力を高めつつあるアジア諸国と競争する上で、英国企業の弾力性確保のためにオプト・アウトは必要と考えるアナリストもいる。

一方、英国のフルタイム労働者の週当たり実労働時間は、ドイツの37.9時間、フランスの35.6時間と比較して、39.6時間と長時間に及んでいる(数字はいずれも2003年)にも関わらず、労働生産性はG7諸国の平均を下回っている。労働関係のシンクタンクであるThe Work Foundationのアレクサンドラ・ジョーンズ氏は、企業は長時間労働によって競争力の向上を追求するのではなく、労働・職務の設計改善を図るなど、より賢明な労働慣行を模索すべきであると主張している。

表1:生産性の国際比較
(労働者1人当たりのGDP)
フランス ドイツ 日本 英国 米国 G7 G7
英国除く
1990 130.0 - 105.1 100.0 136.9 - -
1991 130.2 111.4 105.8 100.0 136.7 122.0 124.1
1992 129.8 112.7 103.2 100.0 137.1 121.7 123.7
1993 125.7 108.9 99.6 100.0 133.9 118.9 120.7
1994 123.6 108.2 97.1 100.0 131.5 117.3 118.8
1995 122.3 108.2 97.1 100.0 130.4 116.9 118.4
1996 120.9 107.6 97.7 100.0 130.2 116.7 118.2
1997 120.3 105.2 95.3 100.0 128.7 115.0 116.4
1998 120.0 103.4 92.9 100.0 129.2 114.6 115.9
1999 119.6 104.4 93.0 100.0 131.9 116.0 117.4
2000 117.2 103.1 93.8 100.0 130.6 115.3 116.7
2001 115.9 100.5 92.4 100.0 128.0 113.2 114.4
2002 113.9 98.8 90.6 100.0 127.2 111.7 112.8
2003 112.9 98.6 91.9 100.0 128.5 112.3 113.4

(出所)イギリス国家統計局(ONS)

関連情報