技能労働者不足深刻化、職業教育訓練改革が急務に

カテゴリー:外国人労働者人材育成・職業能力開発

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  • 国別労働トピック:2004年11月

製造業の雇用者団体であるオーストラリア産業グループ(AIG)とオーストラリア労働組合協議会(ACTU)が相次いで、技能労働者不足の問題を指摘する報告書を作成した。雇用・職場関係省の公式統計によれば、2003年の技能労働者の求人率は20%も上昇、過去15年間で現在最高水準に達している。技能者移民の受け入れによって労働力不足を解消しようとする政府に対し、各労組は職業教育訓練(VET)の改革を行い、養成工(アプレンティス)(注1)の訓練の拡充や賃金の引上げをすべきと主張している。

AIG、ACTU両報告書の概要

AIG報告書Australia’s Skills Gap: Costly, Wasteful and Widespreadでは、今後5年間深刻な技能者不足が続くとしている。企業の対応策としては、6割が「現社員の再訓練」を挙げ、養成工の受入率は増加のきざしが見えるものの不足の解消にはまだまだ不十分であるとした。AIGは州および連邦政府に対し、産業界のニーズを満たすVETを増加させるよう5億ドルの追加予算および改革を求めている。

ACTU報告書Australia’s looming skills shortageでは、1987年から2001年にかけて製造業等伝統的産業における養成工の割合が15.2%低下したとするウエスタン・シドニー大学の研究者フィル・トーナーの調査内容を引用し、「養成工の減少が経済発展を阻害している」というAIG報告書の主張に賛同している。

代替としての外国人労働者

不足した技能労働者を補う方法のひとつとして考えられているのが、技術者移民の受け入れ枠の拡大である。2004年に入り、移民受入数における熟練労働者の割合が引き上げられたことにより 南アフリカ、カナダ、英国などから労働者の引き抜きを開始している企業が出始めている。(注2) これに対し、電力労組(ETU)は、移民労働者を増やすのではなく、国内の養成工の訓練を徹底すべきだと、電力業界を批判し、電力会社パワーコーに対し、社員4人に対し養成工1人を採用するよう交渉を行っている。また、建設・林野・鉱業・エネルギー労組(CFMEU)は、養成工1年目の時給はわずか6.2ドル(注3)で、ハンバーガー・ショップでの時給(約8.5ドル)を下回るとし賃金引き上げを訴えている。

今後の政策課題

オーストラリアでは、連邦政府ではなく州政府が教育・研修を所管している。このため、国レベルの政策展開には、連邦・州政府両閣僚が合意するVET方針の策定が必要となる。しかし連邦政府(自由国民連合)と州政府(オーストラリア労働党:ALP))の間には政治的緊張および思想の相違があり合意に至ることは極めて困難であると言われている。(注4

VET改革は、2004年10月9日に実施された連邦総選挙においても大きな争点となっており、今回ハワード首相率いる自由国民連合が再選されたことで、VETに関する方針が継続されることになる。連邦政府がリーダーシップを発揮するのは難しい状況は今後も続くと考えられる。

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