労使対立で混迷のホテル業界/労働協約改定闘争がヤマ場

カテゴリー:労使関係労働条件・就業環境

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  • 国別労働トピック:2004年11月

全米縫製・繊維労組=ホテル・レストラン従業員組合(UNITE=HERE・組合員数約44万人、退職組合員40万人)サンフランシスコ支部の組合員約1400人は、賃上げ、健康保険の適格要件・扶養者分の会社負担、協約期間延長等をめぐるホテル側との協約改定交渉で決裂し、9月30日から10月12日までの2週間、サンフランシスコの主要14ホテルグループのうち4大ホテル(アージェント、クラウン・プラザ・ユニオンスクエア、ヒルトン、インターコンチネンタル)で、ストライキを実施した。スト労働者がホテル前で連日繰り広げるピケッティングに対し、ホテル側は、約2600人の代替労働者を雇い入れ、操業を継続する一方で、スト労働者のロックアウトを実施。スト発生を懸念する4ホテル以外の10ホテルも、機先を制して支部組合員をロックアウト(注1)し、組合側との対決姿勢をあらわにした。今回のストは、サンフランシスコ市内のホテル業界で働く調理師、ウェイター、ウェイトレス、客室整備員、ベルボーイなどのホテル労働者の八割以上を対象とする大規模なものだ。

スト終結後も4ホテル側は、支部組合員4300人の職場復帰を拒否し、ロックアウトを継続。組合側もピケラインを張りつづけ、労使対立は硬直状態に陥った。10月18日時点でも、交渉が再開する見通しは立っていない。

ホテル業界の混迷を懸念するニューサム・サンフランシスコ市長は、スト期間中、双方に和解を求める文書を送った上で、今回のストライキを、全米レベルの問題として位置付けると述べていた。だが、双方の歩みよりは一切見られないまま、ストが終結。終結後のホテル側のロックアウト継続に強く反対したうえで、クーリングオフ期間を設け、交渉の再開を強く求めている。

今年、協約改定を迎えるワシントンDC、ロサンゼルス、サンフランシスコの3支部組合は、これまで数カ月にわたりホテル側との協約改定交渉に臨んできた。ホテル側は、協約改定に際し、1)賃上げ(チップを受ける労働者に対して1年ごとに5セントの時給アップ、チップを受けない労働者に対して1年ごとに20セントの時給アップ2)従業員の月額健康保険負担を現行の10ドルから引き上げ(協約締結初年の負担額を32.53ドルとし、5年目には273.42ドル(注2)まで漸次引き上げ)3)健康保険の被保険者の範囲縮小(現行の月40時間以上勤務の労働者を対象とするものから、週80時間以上勤務の労働者にのみ範囲縮小。組合員1100人が対象外となる)――等を提示した。各支部組合は、賃金引き上げ幅の拡大及び従来の健康保険料の維持を訴え、ホテル側の提示を拒否している。

また、新協約の締結期間についても、労使の主張は対立している。ホテル側は5年を提示しているが、組合側は、2年を要求。組合側は、ニューヨーク、ボストン、トロント、シカゴ、ハワイなどの他の主要都市のホテル労働者の次期協約改定が2006年であるため、全国レベルの協約改定交渉時期の足並みを揃えることで、巨大ホテルチェーンとの闘争力を確保したい考えだ。ホテル業界では、過去20年間に大手ホテルの合併が相次ぎ、統合化が進んでいる。例えば、マリオット、ヒルトン、スターウッド、ハイアットの4大ホテルの総売上高が産業全体の売上に占める割合は、22%にも及ぶ。協約締結時期をめぐる労使の対立は、協約改定闘争を全国レベルでの展開とすることで、全米規模で操業する巨大ホテルとの対等な交渉関係を確保しようとする組合側の意向を色濃く反映したものだ。

今回のストに先立って、サンフランシスコ支部では、18カ月前から、月額10ドルを組合員から徴収し、ストライキに備えてきた。8月14日の協約期間満了後9月6日のレイバー・デーには、サンフランシスコ市内のユニオンスクエアで組合員が抗議活動を実施。約130人が交通妨害などにより逮捕されている。以後ストに至るまで、スト参加者を対象とする組合集会を招集するなど、積極的な闘争を繰り広げてきた。

一方、ロサンゼルス支部は、新協約期間を2年間としない限り交渉に応じない姿勢を堅持しており、ホテル側はこれを不当として全国労働関係委員会(NLRB)に訴えを提起。このため、ロサンゼルス支部組合員の労働者は、6月の協約期間満了後、無契約で仕事に従事している。NLRBは、労使交渉の再開に向けて仲裁に乗り出しているものの、契約期間をめぐる両者の歩み寄りは、現時点では見られない。10月5日には、UNITE=HERE役員、組合員、地域の支援者らが、ハイアット・リージェンシーホテル前の交差点で座り込みによる抗議活動を展開。メディア各社と1000人を超える組合員や支援者らが見守るなか、市民レベルのサポートを得た市民的不服従行動として、注目を集めた。ワシントンDCでも、9月15日の協約期間満了後、労使双方が強固な姿勢を崩さず、新契約の締結に譲歩は見られていない。

サンフランシスコ、ロサンゼルス、ワシントンDCの3支部組合は、9月初旬の時点で、投票によりスト権確保の決議を行っており、いつでもストに入れる態勢を維持している。

UNITE=HERE組合員の多くは移民女性労働者。今回の協約改定闘争は、巨大ホテルチェーンを相手に、低賃金の底辺に固定化されるマイノリティの声が、市民やメディアを巻き込んだ労働運動を通じてどこまで反映されていくかを知る試金石となる。

参考資料

  • 委託調査員報告
  • “Hotels Extend Lockout in San Francisco; Hotel Workers Rally”.
  • “Strike UPDATE: San Francisco Hotels Vote to Continue to Lockout Local 2 Members”.
  • NY Times, “Hotel talks on hold until end of the week, both sides say some events are revised; others go on.” Oct. 19, 2004.
  • San Francisco Chronicle. “Pickets Plan to Walk 2 Weeks.リンク先を新しいウィンドウでひらく” Sep. 30, 2004.
  • NY Times. “Atlantic City Casinos and Patrons Cope on 2nd Day of Strike.リンク先を新しいウィンドウでひらく” Oct. 3, 2004.
  • 中窪裕也(1995)「アメリカ労働法」弘文堂。

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