労働監督制度の再編と労働市場改革

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  • 国別労働トピック:2004年10月

1.労働市場改革―実効性の問題

2004年4月23日委任立法124号(2003年2月14日法律30号に基づく社会保障および労働に関する監視活動の合理化)の施行により、ビアジ改革の構想した労働市場の現代化案が具体化した。実際のところは、2003年9月10日委任立法276号(2003年2月14日法律30号にいう就業および労働市場に関する委任の実施)により、労働市場の再編および規制に関する2003年2月14日法律30号1条ないし6条の委任が実現されているのであるが、上記の2004年委任立法124号では、この2003年法律30号の定める労働市場規制の整備に実効性を与えるため、監視事業および監督活動の実施に関する措置が定められた。

ビアジ改革は、1980年代初めにはすでに主張されていた学説の見解を受け入れ、闇経済および非制度的な労働形態の中から、「本来的に病的なものと、逆に、現行法制度上の位置付けを見出すことなく、意図的に非合法に走る労働関係の存在形態の萌芽とは異なるもの」とを区別し、労働市場の真の病理のみを抑圧・厳罰の論理で規制しようとしている。

こうした方針に沿って、監督活動は改革された。具体的には、一方で、合法活動の促進のための機構が整備され、他方で、監督機関の活動を調整するための行政機構の再編という意味を超えて、労働監督官に対しより強力で効果的な権限が与えられた。

2.2004年4月23日委任立法124号の立場および主な改正点

労働監督制度の改革は、行政上の再編を中心としている。2004年委任立法124号の意図しているのは、とくに、監視活動にいっそうの実効性を持たせるために、監督機関の諸活動を調和させることである。このため、まず、労働社会政策省内部に総局を設け、方針や立場に統一性をもたせることを目的として、大臣の指示に基づいて監視活動に関する指針を与え、監視機関の諸活動をまとめる役割を担わせることとした。さらに、こうした活動については、調整中央委員会が設置され、これに労働監督に関連する諸機関が参加することになっている。

2004年委任立法124号で定められた制度は、中央政府に関するもの以外に、州および県に関するものもある。また、調和の達成のために、あらゆる監督機関について共通の統一記録書も導入された。

法律および労働協約の遵守を促進するという観点からすれば、行政上の再編成のほかに、監督機能および監督活動の考え方を現代的なものに改めることも重要な課題であった。
まず、2004年法律124号は、監督機関、とくに、労働社会政策省関連の諸機関に対し、労働法および社会保障法関連の規定の遵守を促進する役割を与えた。この促進活動は、使用者に対し関連規定を解説するという形で実施される(場合によっては、そのための教育コースや研修を設ける)。

別の主たる改正点としては、いわゆる諮問権がある。これは、労働社会政策省に対し、法規の適切な解釈について諮問することができるというもので、税法上の制度に倣ったものである。使用者は、直接に質問を提出できるわけではなく、産業組織や、職業団体、公的機関などを通じて諮問することになる。したがって、問題となる規定の適用を明確にするための委任を行うことが認められたといえよう。こうした諮問に答える義務があるのは、労働社会政策省のもとに設置された前述の総局である。この場合、労働社会政策省関連の諸機関を通じて、総局は諮問を受け取る。これは、労働社会政策省の伝統および組織の整備からすれば、実に重要で革新的な試みである。こうした方法によってこそ、権利の明確性が実質的に確保され(したがって紛争が減少し)、法規、とくに複雑でわかりにくい社会保障法および予防法関係規定に対する信頼を確保することができるといえよう。

また、紛争予防に関する法的枠組みを構築するために、監視活動の開始時または活動中に実施される調停制度が導入された。この制度を利用するには、労働者の権利について争いがあり、調停によって当該紛争を解決する可能性があること、あるいは、使用者側が侵害行為を認めていないことが必要である。同制度の成果は、調停の終了行為に特別の効力を認めたことにもある。その他の重要な特徴としては、調停にかけられた紛争の決定を、単独の調停員が行う可能性を認めたことも挙げられる。

さらに興味深い改正点としては、証書的戒告制度の導入もある。これは、労働者の賃金債権を保護するための行政上の仕組みである。これによって、決定に時間がかかって、その間賃金債権の充足が妨げられていたのを回避することができる。実際、この戒告措置は、執行証書としての効力を持つ技術上の証書の価値を有する。このような制度が採用されたのは、労働者の賃金債権を保護するための適切なシステムがこれまでなかったためである。監督官は、労働者の賃金債権に関わる契約規定の違反を認めたときはいつでも、債務を履行するよう使用者に戒告する。いずれにせよ、使用者は、戒告措置に対応する機会が与えられるし、また、州の労働関係委員会に仲裁措置を申し立てることもできる。

監督官の権限についても、より実効性が高まるように見直しが図られた。とくに改正がなされたのは、警告、戒告および指導の権限である。この点の改正の理由は2点ある。第1は、戒告および指導をする際に生じる困難を克服するためであり、第2は、実際上有効であった警告に関するいくつかの点をより生かすためである。

まず、戒告は、特定ないし不特定の主体に、一定の期限内に一定の行為をとらせるためのものである。この戒告は、実際に行われてはいるが、いまだ矯正可能な侵害行為を正規化するためのものである。当該主体が戒告に従えば、制裁措置は実行されない。戒告の対象は、行政罰の対象となる侵害行為だけである。

これに対し、警告の対象は、刑事法上の違法行為である。警告は、イタリアの法制度の中ですでに存在する制度であったが、労働安全衛生分野に限定されていた。監督官は、違法行為を発見した場合、この不法状態を是正するよう使用者に対し書面で一定の指示を与える。この指示は、できるだけ詳細に定めなければならないとされている。つまり、侵害行為の効果を排除するための方法や期限が明示されていなければならない。警告は、刑事訴訟の対象となる違法行為を是正するための代替的措置である。実際、使用者が、警告に従うか、警告に従うべきとされている期限までは、刑事訴訟の提起は留保される。

最後は、指導である。これは、警告と命令とは前提条件が異なる、つまり、行政上の侵害行為の場合は、監督官は警告制度を利用することになるし、刑事法上の違法行為については、命令制度が使われる。これに対し、法律が監督官にどちらかはっきりしない問題について規制する権限を与えている場合には、この指導の制度が使われるのである。

2004年委任立法124号は、行政上の制裁措置を簡素化し、その成果をより多く得るために、労働関係の存在およびその性格付けに関する特殊な規制も定めている。こうした目的を持つ措置に関しては、各州の労働総局のもとに設けられた州の労働関係委員会が管轄する。同委員会は、州労働総局長、INPS(全国社会保障機関)州局長、そしてINAIL(全国労働災害保険機関)州局長から構成される。

2004年委任立法124号の最終規定にも重要な規定がある。監督官の教育に関する規定である。同規定は、「監督の経験を有益的に共有し、相互理解を深め、調和を徐々に高めるための、様々な監督制度に関する教育・研修プログラム」を定める役割を、総局にゆだねている。これによって、省および種々の機関のもとで活動している監督官の間で異なる法規の解釈が統一されることが期待される。実際、こうした解釈の差異は、監督の対象となる企業にとってコストと遅延になるばかりでなく、法の適用における不明確性の原因ともなるのである。

3.まとめ

2004年委任立法124号により監視事業の強化が図られたことで、ビアジ改革は完成したといえる。

なお、政府は、同法の施行から24カ月以内に、同法の実施段階において生じるであろう適用の問題を解決するために、措置を修正・補完する予定である。

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