エストニア:IT人材育成が進む、医療分野では遅れ

カテゴリー:人材育成・職業能力開発労働条件・就業環境

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  • 国別労働トピック:2004年10月

エストニアは世界で6番目に「経済の自由度」が高い国。外国のIT企業が多数進出し、ソフトウェア開発者にとっての「ベスト・カントリー」(ニューズウィーク誌)ともいわれる。しかし一方では医療労働者の不足、西欧諸国への人材流出など、他の東欧諸国と共通の悩みを抱えている。

米国のウォール・ストリート・ジャーナルなどが公表した「2004年経済自由度指数」(Index of Economic Freedom)で、エストニアは世界第6位にランクインしている。この指数は貿易政策、政府の課税・財政負担、賃金と物価など10分野で各国の経済の開放度を評価し、総合得点を順位づけしたもの。チェコは32位、ハンガリーは42位、ポーランドは56位。日本は38位だ。

エストニア政府はこの「小規模で開かれた経済」をアピールし、外国投資の誘致に積極的だ。外国投資家向けの支援機関として国家基金(エンタープライズ・エストニア)を設け、企業設立、拡張から従業員の教育訓練、研究・開発まで、種々のビジネスサポートを提供している。

IT分野で良質な技術者を輩出

すでにITビジネス関連では、多くの外国企業がエストニアに進出している。IT先進国といわれるフィンランドなどの北欧諸国と近いこともあり、エストニアは「中東欧で最も情報通信のインフラが進んだ国」である(エストニア外務省ホームページよりリンク先を新しいウィンドウでひらく)。国民の84%が携帯電話を、52%がインターネットを利用している。国家戦略としてIT教育が重視され、全ての教育機関がインターネットに接続している(タイガー・リープ・プログラム)。ITカレッジなどでの人材育成にも力が注がれている。

こうした土壌を背景に、外国企業は質の高い技術者を西欧よりも安い賃金で雇うことができる。しかもインドと比べて地理的に近いという魅力がある。このためIT技術者は引く手あまたで、若手ソフト開発者は平均月収の数倍を稼ぐといという(注1)。

バイオ研究と医療労働者の不足

エストニアではITビジネスだけではなく、バイオテクノロジーの研究も進んでいる。現在進行中の「エストニア・ゲノム・プロジェクト」は、国民の遺伝子・身体情報に関する集中データベースをつくり、遺伝学や医療の研究に利用するという構想だ。2000年に制定されたヒト遺伝子研究法(the Human Genes Research Act)で、そのデータベースの設置・管理が規定されている。5年間で120百万ユーロを超えると見積もられる予算の一部は国から補助されるが、大半は外部資金に頼るという。

しかし、こうした研究が進む一方では、医療分野の労働者の不足という問題が生じている。その原因とされているのは、これまで医療労働者の育成については優先度が低く、十分な教育訓練を行ってこなかったということだ。加えて、賃金や労働時間などの面でよりよい条件を求める医療労働者が、今後は西欧や北欧のEU(欧州連合)加盟国に流出することも懸念されている。エストニア社会問題省の調査によれば、医療専門職の半数以上が移民の意向を持っている。5%はすでに明確な予定がある。特に賃金が低い医学実習生では、移民を考えている者は9割に上るという(注2)。

エストニア国内では、いかに十分な医療労働力を確保するかが世論の関心を呼んでいる。国による医療労働者の養成教育を増強すること、賃金を上げること、労働条件を改善することなどが議論されている。

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