中国「労働法」公布から10年間の成果と課題

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  • 国別労働トピック:2004年10月

1994年7月5日、新中国が創立されてから労働者の権益を保障する第一部の基本的法律としての「労動法」は、第8期の全国人民代表大会常務委員会第8次会議の審議を通じて、中華人民共和国主席命令の第28号として公表された。

「労働法」が公布されてから現在までの10年間で、各級の人民代表大会は、労働法の執行と監督を強化し、各級政府と労働部門は法に基づいて労働の行政管理を実施してきた。

各級の司法機関は、法律に基づいて労働争議を審判し、工会組織(労働組合)は積極的に労働者権益の保護活動を展開し、明らかな成果を得てきた。

この10年間に、国務院は「労働法」の関連行政法規を積極的に修正し、公布してきた。その中で主に「国務院が従業員勤務時間に関する規定」(修正)、「社会保険料の徴収に関する暫行条例」、「失業保険条例」、「未成年工の雇用を禁止する条例」(修正)、「労働災害に関する保険条例」などを代表としてあげることができる。

労働社会保障部が労働力市場の管理、集団労働契約、給料支払、社会保険料申告と納付、労働保障の監察などの関連事項に対して一連の執行規則を制定し、各地も「労動法」に基づき、地方性の法規、規則を公布し、「労動法」を根拠法として、労働保障法律法規の法制度システムを形成している。

中国労働社会保障部によると、この10年間で、各級政府と労働部門が「労動法」に依拠して、労働に関する就職と再就職、労働者の合法権益の保護、社会保障システムの確立などの三大任務をめぐって、10項目の基本的な労働保障制度を作り上げた。

労働法施行10年の具体的成果

  1. 積極的な就職政策を実施し、職業訓練を強化、労働者の就業と再就業を促進した。

    第一には、積極的な就業政策を実施したこと、すなわち「労働者が自主的に就業すること、市場による調整に基づく就業、政府による就業促進」という就業方針を採用した。現在、全国の大中都市と条件を備えている一部小都市で、公共職業案内機関が市、区両級政府で設立され、大中都市において居民委員会の基層就業サービスネットワークも形成されている。公共職業案内機関は毎年延べ約2000万労働者の就業に対して、サービスを提供し、延べ1000万人の就業が実現された。特にこれまで農民出稼ぎ労働者に対する差別、制限に対する就業政策が廃止され、農村からの出稼ぎ労働者の就業サービスも提供されるようになった。現在、中国の都市では、就労した農民工はすでに9800万人になり、これを郷鎮企業に勤めている1.3億の農民工と加えると、農民工はすでに産業労働者の中で大きなシェアを占めるようになっている。

    第二は、職業の育成訓練制度と職業資格制度の整備である。「労動法」にしたがって、中国政府は職業の分類や職業の標準を確定し、積極的に職業育成訓練制度を促進、職業技能を鑑定する仕組みを設定して学歴と職業資格ともに重視される制度を実行した。

    10年間で、各級労働部門が都市の新増労働力、下崗労働者(レイオフ)と失業者、農村出稼ぎ労働者と在職従業員を対象とする就職前、在職、再就職の多種類の職業育成訓練制度及び初級、中級、高級の職業資格の等級体系が基本的に整備された。1998年以降、2800万人の下崗労働者と失業者が再就業の育成訓練に参加し、育成訓練の後で1730万の労働者が再就業を実現し、再就業比率は61.7%に達している。この制度の実行によって、2003年末まで、全国で累計4500万人が職業資格を得て、労働者の素質の向上、就業能力と職務能力の強化に大きな役割を果たした。

  2. 労働関係の調停と労働監察などの強化によって、労働者の合法的権益を守ることである。

    第一には、協調的な労働関係が維持された。10年の発展を通して、労働契約制度はすでにあらゆる分野において実行し、国有企業、集団所有制企業、外資企業における労働契約の締結率は95%以上に達している。就業管理制度は、国家の計画配置から市場の需給による配置へと根本的な制度転換を実現した。労働関係も行政管理から法律に基いて調整するという根本的な転換を実現し、就職には労働者と雇用者の双方による選択、協議により双方の権利、義務を確定するという労務管理メカニズムと観念がすでに形成された。

    集団契約制度は改善され、団体交渉代表の選出、集団協議のプロセス、集団契約の内容などの関連規定が徐々に制度化され、この制度は協調的な労働関係を維持する方にはますます重要な役割が発揮されている。現在、全国においては、集団契約を締結した企業が60数万社(従業員8000数万人)に達した。また、協調的な労働関係を維持するために、労働関係の三者協商メカニズムが初歩的に形成した。国レベルでは、労働社会保障部、総工会、企業連合会は協調的な労働関係を維持する三者協議主義、各地域には5000余りの三者協議機関が設立され、三者共同で労働関係に関する重大な問題を研究し、解決する方法を協議して提出する。

    第二は労働紛争の審議制度の改善である。「労動法」の規定により、「一調一裁両審」(企業内部の調停委員会による調停、政府労働仲裁委員会の仲裁、裁判所による2級審判)という労働紛争を解決する制度が確立された。10年間で、企業内の労働紛争の調停組織、労働行政機関の仲裁委員会と人民法院(裁判所)が共に数百万件の労働紛争事件を結審した。その中で、各級の労働紛争仲裁委員会は提訴した労働紛争の事件の107万件を結審した。労働紛争審議制度が紛争の当事者、特に労働者権益の保護、社会安定の維持に大きな役割が果たされた。

    第三は労働基準制度の整備である。例えば、賃金制度が徐々に制度化され、賃金を支払う項目、レベル、形式、対象、時間などが明確に規定された。全国の30の省(自治区、直轄市)政府が当該地域の最低賃金標準を公布し、最低賃金の保障制度を実施し、低収入労働者の権益を保障する方面に重要な作用を発揮した。

    第四は「労働保障監察制度」の施行である。「労動法」によって、各級労働保障機関において労働保障監察機構を設立し、省、地区、県の3級労働監察ネットワークを組織し、基本的な労働監察の内部管理制度を形成した。すなわち、過去の10年間で、各級労働監察機構が、700万社の企業に対して労働法律法規の実行情況の監査を行い、150万件の違法事件に対して調査・処分を行った。2003年だけで、8.8万社の企業に対して、1148.9万従業員を社会保険に加入させ、14.9万社の企業に対して、従業員の37.2億元の社会保険料を納めることを監督指導している。また、労働監察機関は裁判所などと共同で、農民出稼ぎ労働者の給料の遅滞、未支払い企業に対して監査を行い、計258.39億元が農民工に支払われた。このような労働制度の確立による急激な制度変革の中で、大量の労働紛争の発生を予防し、労働者の合法的権益を守って、安定した労働関係と社会の安定が維持されるよう努力している。

  3. 社会保障制度の健全な発展を推進した。

    第一には統一的な養老保険制度の設立である。1994年末、全国が定年退職費用の社会統籌に参加するのは10573万人で、ほぼ国有企業と部分の集団所有制企業に限られる。社会統籌と個人名義の口座と結合する制度はまだ確立されていない。「労動法」が公布された後の10年間で、社会主義市場経済体制に適応した統一の基本養老保険制度が形成されたが、2004年5月末まで、養老保険への参加人数は15703万人で、1994年に比べて5130万人が増加している。

    第二は失業保険制度の設立と改善である。1993年末、全国が失業保険に加入した従業者数は7924万人にすぎなかった。2003年末まで、全国は失業保険加入者数が10373万人を達成し、年間基金収入は249億元であり、200億元を支出し、741.6万人の失業者に失業保険金を提供した。

    第三は統一的な医療保険制度の形成である。1993年末、全国わずか221の市県(試験地域)の260万従業員が「大病医療保険」を参加したにすぎない。1998年に、これらの試験地域での経験を基に中国の都市部における基本的な医療保険制度が形成された。2003年の年末まで、都市部の医療保険制度の加入者数は10902万人を達成し、年間基金の収入は890億元、支出は654億元であった。加入人員への医療保険は基本的に保障された。

    第四は労働災害保険制度の完備である。「労動法」の規定によって、労動部は1996年に「企業従業員の労働災害保険の暫定方法」を公布し、労働災害の保険制度を全面的に実行し始めた。2003年の末、全国で労働災害保険に加入した従業員数は4575万人で、一年間で労働災害保険が保障された労働者数は33万人に達した。労働災害保険制度を更に改善するため、2003年4月、国務院は「労働災害保険の条例」を公布し、2004年1月1日から施行することを決めた。同条例は労働災害保険の範囲を拡大し、中国国内のすべての企業、個人経営者が労働災害の保険に参加すべきであることを定め、全ての従業員に対して労働災害保険料を納めることを規定した。2004年第1四半期だけで、労働災害保険への加入人数は136万人増加し、2003年の年間増加する人数と同数となっている。

政治経済社会の変化と今後の課題

「労働法」の実施から10年間を経て、中国の労働に関する法制度は徐々に整備され、社会保障制度がさらに改善されたことによって、中国の経済の発展、社会の安定に対して大きな貢献がなされた。

しかし、現段階の中国はまだ市場経済への移行の途中であるため、経済政治社会構造が大きく変容している中で、長期にわたって蓄積された社会問題が未解決のまま、改革の深化によって新しい問題が絶えず出現しており、このように新旧問題が入り交じって、直接的に間接的に労働保障制度に影響をおよぼしている。「労動法」を貫徹実施するためには、いくつか早急に解決しなければならない問題に直面している。

その第一は、労働保障に関する法律制度に違反し、あるいは法律があってもそれに基づかない行為である。現在、労働法規に違反し、従業員の合法的権益を侵害する行為は、深刻な問題で、主に次の三大領域に集中している

  1. 農民工の権益の侵害。一部の都市政府の実行した就業政策の中で、農民工の権益が侵害されている。いくつかの企業、特に建築企業では、農民工と労働契約を締結しないで、理由もなく彼等の給料支払いを遅滞し、強制的に残業させ、基本的な労働安全の条件も提供していない。
  2. 非公有制、中小型の企業での従業員の権益への侵害。これらの企業は法律に基づいて従業員の社会保険料を納めず、一方的に労働契約を解除するなど従業員の権益を侵害する。
  3. 経営体制改革あるいは破産、閉鎖された国有企業における従業員の権益への侵害。企業は従業員との労働関係を解除する際、法律に基いて経済的補償金を支払ず、社会保険料も納めない。またリストラ法案も従業員代表大会を通じて従業員の意見を求めない現象が多く存在している。

第二、「労動法」の一部規定においては、変化している経済社会の情勢にもはや適応しないため、早急に法律を改正する必要がある。「労動法」が制定公布される時には、社会主義市場経済体制の確立が改革の目標として提出されたばかりのため、社会保障システムの建設も初期的段階に置かれている。このような背景の下で、「労動法」の社会保障、就業、労働関係に関する規定は原則的であり、簡略的、単一であり、具体的な執行に対する詳細の規定がない。10年後の今日、中国の社会主義市場経済体制はすでに確立され、労働関係は10年前により複雑になった。また、WTOの加盟によって、中国経済はすでに経済のグローバル化の過程にくみこまれた。このような背景の下で「労働法」の改正は早急になされなければならない。

第三に、厳しい就職情勢と社会保障システムの整備の圧力によって、「労動法」を実施することに大きいな困難が存在している。今日と今後長い時期において、中国の就業情勢は依然として非常に厳しくて、労働市場の労働力の需給のミスマッチと就業構造におけるニーズとのミスマッチが同時に共存している。都市の就業圧力が増大している一方、農村の余剰労働力の都市への転換は加速され、新増労働力の就業と失業者の再就業する問題は互いに織りなして、就業と再就業事業の任務は非常に重い。このような情勢の下で、労働者の権益の保護に大きな問題、困難が存在していることはいうまでもない。

中国労働社会保障部によると、中国政府はすでに「労働法」の改正や関連法制度の整備に力を入れて推進すると言われている。関連法制度の整備については、第10期全国人民代表大会常務委員会はすでに「社会保険法」、「労働契約法」を今期の人民代表大会の法律制定計画に入れており、「就業促進法」も国務院の立法のための前期の調査研究計画に入れられている。労働社会保障部は、関連法律の草案の提出、改正作業を行い、同時に、「労働と社会保障の監察条例」、「職業技能育成訓練の考課条例」、「企業の賃金条例」の制定を早急に行っており、また、全国人民代表大会常務委員会に「労動法」の改正を申請する。

中国は「労働法」公布から10年間を経て、労働に関する法制度の整備はある意味で大きく前進してきた。しかし、市場経済への移行のプロセスにおいて、社会経済政治の構造が大きく変容しており、厳しい就業情勢の中で、社会的弱者である都市の肉体労働者、農民工の権益を保護すること、統一的な社会保障制度を完備すること、工会の労働組合としての役割を発揮することなどが今後中国経済の発展、社会の安定に対して大きな意味を持っていると思われる。

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