有名企業への雇用差別をめぐる集団訴訟相次ぐ

カテゴリー:労働法・働くルール労使関係労働条件・就業環境

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  • 国別労働トピック:2004年10月

米国の有名企業に対し、賃金及び昇進に関する人種・性差別に関する訴えが相次いでいる。6月には、小売業界最大手のウォルマート社での性差別について、カリフォルニア州連邦地裁が、女性従業員約160万人を原告とする集団訴訟を認定。ウォルマート社側は同認定を不服として控訴しているものの、全米史上最大の性差別集団訴訟ケースとして注目を集めた。これを引き金に、7月には、モルガン・スタンレー社及びボーイング社の女性従業員が、賃金・昇進差別をめぐる訴訟を提起。それぞれ5400万ドル、7250万ドルの和解金支払いで決着した。イーストマン・コダック社では、黒人従業員が、組織的かつ意図的な人種差別を理由に訴訟を起こしたほか、南部の電話会社ベルサウスでも、人種差別的雇用慣行を理由とする訴訟で聴聞が開かれたばかりだ。さらに8月には、全米で78000人の従業員を擁する小売大手コスコでも、650人の女性従業員に対する昇進差別が、集団訴訟に至っている。従業員の半数が女性であるにもかかわらず、管理職への登用率が6分の1に過ぎない実情を訴えている。

雇用差別をめぐる訴訟件数は、1991年公民権法改正により増加の一途をたどっている。1991年改正により、意図的に差別を行った雇用者に対する懲罰的あるいは補償的損害賠償の請求や陪審裁判が可能となったためだ。以後、原告側弁護士は、雇用差別をめぐる訴訟を「儲かる訴訟」として着目。専門家を起用して雇用差別に関する統計分析や新しい法的理論を展開し、原告側を勝訴へと導いている。

全米各地で提起されている雇用差別に関する訴訟の内容は多岐に及ぶが、最近急増しているのは、従来の頻繁に争点となった採用に関するものよりもむしろ、賃金、昇進、ハラスメント、産休といった職場に密着したケースだ。こうした訴訟案件の変化の要因としては、1)職場の多様性が増大したこと、2)賃金や昇進に関する差別は、統計的な数値比較が容易であること、3)採用については、使用者側が経験則により採用平等に向けて配慮するケースが多く、全体的な訴訟件数が減っていること――等があげられる。これに加えて、裁判所側の意向も影響している。裁判所は、採用差別に関するケースでは、性別、人種の採用枠の設定についての判断を差し控える傾向が強く、従来からも原告側の勝訴が容易ではなかった。一方、既に一企業に就労する従業員間の賃金や昇進機会の比較にターゲットを当てたケースについては、裁判所が判断を下しやすい。

集団訴訟の提起による株価下落をおそれる企業側では、訴訟に至らないよう自発的な改善を図る動きが広まりつつある。また、訴訟に至った場合でも、可能な限り和解による決着を好む傾向が強い。

参考資料

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