海外出稼ぎ労働者(TKIs)の保護をめぐっての議論・デモ

カテゴリー:外国人労働者労使関係

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  • 国別労働トピック:2004年1月

数百万人規模の労働者を海外に送り出しているインドネシアにおいて、労働者を保護する政策が十分でないとの批判が高まっている。きっかけとなったのは、中東で出稼ぎ就労をしていた6人のインドネシア人女性が、雇用主の虐待や、賃金未払い、精神的苦痛などにより本国に送還され、現在病院で治療中であることが大きく報道されたことにある。

この事態を重く見たヤコブ労相とメガワティ大統領は、緊急に労働者保護に関する機関の設置を行うことで合意した。

海外出稼ぎ労働者(TKIs)たちの保護を求め、労働者らがデモ

数百万人のインドネシア人が出稼ぎ就労しているといわれる中東地域で、インドネシア人女性6人が10月10日に中東から送還され、現在病院で治療を受けている(2003年11月インドネシア労働情報参照)。この問題に対して、海外出稼ぎ労働者保護協会(Kopbumi)と労働活動家たちは、政府の海外出稼ぎ労働者(TKIs)の保護政策の不備によるものだと主張し、政府の同問題に対する関心の低さと対策の貧困さに対して強い不満を述べている。

さらに10月27日には、出稼ぎ労働者を支援する組織であるインドネシア人材法律サービス(LPBH)が中心となり、労働・移住省前にて5000人規模のデモが行われた。また、これから海外出稼ぎのため出国予定の女性労働者約3000人も、政府の支援と国内の失業を緩和する有効な政策を求めて市内を行進した。労働者らは、「海外出稼ぎ労働者(TKIs)が、国の外貨獲得の手段に使われている。国の経済に貢献している労働者に対してなんら保護を行っていないのはおかしい」と訴えている。

労相と大統領、今後も海外出稼ぎの続行で合意

10月27日の労働者らのデモを受け、ヤコブ労相とメガワティ大統領が協議し、海外出稼ぎ労働者の保護システムを構築することを前提に、海外出稼ぎ派遣を継続していくことを明らかにした。

具体的には、インドネシア人出稼ぎ労働者が1万人以上いる海外の都市に保護機関を設置、公務員や労働関係の専門家3~5人程度からなる対策チームを配置する方針であるという。

また、ヤコブ労相は現在クウェートと取り交わした出稼ぎ労働者の斡旋に関する覚書を、今後その他の国とも交わしていくと発表している。インドネシア労働者最大の出稼ぎ先であるマレーシア(同国での出稼ぎ労働問題については海外労働時報2002年45月号参照)に対しても、2カ月以内に覚書に調印するよう要請し、それがかなわない場合は、労働者の派遣を一時中断することを、10月27日に明らかにした。

海外出稼ぎ労働者(TKIs)に対する保護条例の発令

11月1日には、海外出稼ぎ労働者(TKIs)保護に関する条例が緊急に発令されることがヤコブ労相から伝えられた。この条例は、1995年のTKIs関連の条例を廃止し、新規に作成される。当面は、労働移住省、外務省、内務省女性担当局、宗教省内の役人と法律専門家によるチームが結成され、問題の対処に当たる方針だ。また、現在実施されている海外渡航前の訓練も強化される見込みである。

ヤコブ労相の責任を問う声

TKIsに対する行政の施策が後手に回ってしまい遅々として進まないことに対して、国会議員の間からヤコブ労相の責任を問う声があがっている。

国会の副議長、ムハミン・イスカンダル氏は10月22日の閣議後「出稼ぎ労働者問題は、いっこうに改善の兆しが見らず、現在も海外に滞在するインドネシア人労働者が虐待される状況が続いている。もしもこのまま事態が改善されないとしたら、ヤコブ労相は辞任すべきであるし、大統領はもっと有能な人材を労相に抜擢すべきである」と発言した。

ただ、閣僚の任命、罷免は大統領の専権事項であると憲法に規定されている。メガワティ大統領は01年の7月就任以来これまで閣僚の罷免を要求されても受け入れることはなく、実際にヤコブ労相が辞めさせられる可能性は低い。

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