(香港特別行政区)失業率2期連続低下で8.3%、景気は回復基調

カテゴリー:雇用・失業問題統計

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  • 国別労働トピック:2004年1月

2003年3月半ばから蔓延した重症急性呼吸器症候群(SARS)の影響によって回復基調にあった香港の景気は打撃を受け、4月末の政府の緊急救済経済措置(海外労働時報2003年7月号参照)にもかかわらず労働市場は悪化して、5月には失業率が初めて8%を突破した。そして、2003年5~7月期には最悪記録の8.7%にまで達したが(2003年11月香港労働情報参照)、その後ようやくSARSの影響を脱して景気が本格的な回復基調を示し始め、それとともに労働市場も改善して、失業率は2期連続で低下して7~9月期には8.3%になった。

以下、8月期と9月期の労働市場統計、その背景と評価の概略を紹介する。

(1)労働市場統計

政府発表の雇用統計では、6~8月期の失業率は8.6%で、最悪記録だった7月の8.7%からようやく低下し始め、2002年11月以来の前月比での低下を記録した。失業者数は351万1000人の労働人口中30万9000人だった。不完全失業率は4.2%で前月比で0.2ポイント低下した。このうち特に大きな改善を示したのは、観光業とその関連産業であるホテル、レストラン、ケータリング部門等だった。

同じく、7~9月期は失業率8.3%で前月比で0.3ポイント低下し、失業者数は労働人口349万3000人中29万7000人、不完全雇用率は3.6%だった。前期同様、改善を示したのは、観光業、小売、レストラン部門だが、不動産部門等においても雇用が増加した。

この時期の上記以外の経済・労働市場の動向を示す指標として、香港の社会保障制度である一般的社会保障支援(CSSA)の受給者数の増加が、8月は前年比で0.6%増加したにすぎず(28万7446人)、前月比では0.1%低下し、このうち失業中の受給者数の増加は前月比で0.5%増加で(5万1352人)、2001年以来の過去2年間で最も低く、数字は改善傾向を示している。また、破産管財局に対する破産申立件数が4カ月連続で減少し、8月の1731件に対して9月は1450件で(前月比で16%低下)、2001年10月の1395件以来の低さを記録している。

このような動向と関連して、アジア開発銀行(Asian Development Bank)は9月30日、2003年4月に発表した香港の経済成長予測を上方修正し、2003年度は2%から2.1%(政府予測では2%)に、2004年度は4%から4.8%に修正している。

(2)背景

労働市場改善の背景としては、株式・不動産市場の回復に見られる香港経済自体の改善傾向、なかんずく香港経済の伝統的な雇用の基盤である中小企業の活動の活発化があるが、その他、特に観光・旅行業がSARSの影響を脱してほぼSARS禍による不振以前の状態に回復したことが大きく影響している。

観光・旅行業では、SARSが3月半ばに発生してから、4月から6月にかけて観光客の減少で大きな打撃を受け、特に5月には香港訪問者数が前年同月比で68%減少して、2002年5月の133万人から42万7254人に激減した。だが7月に入って同業界は回復を見せ始め、訪問者数は129万人になり、前年同月比で5.6%の減少となり、さらに8月には訪問者数は164万人で、前年同月比で9.6%の増加となり、3月以来初めて前年同月比での増加を記録した。これに呼応して、ホテルの客室稼働率も最悪だった5月の18%から8月には80%まで回復し、チェプ・ラプ・コク空港の利用旅客数も8月には302万人となり、7月から22.3%増加した。さらに、中国建国記念日の休暇がある10月の第1週には、中国本土から過去最高の約40万人の観光客が訪れた。

このような中国本土からの訪問者の増加は、7月に中国本土広東省の一部の都市からの観光客が、団体だけでなく個人でも訪問できると取り決めた協定の影響が大きく、7月の協定成立から10月半ばまでに、約46万人が個人旅行の許可を申し込み、このうち20万人が香港を訪問している。この協定の適用は9月1日から、北京、上海にも拡大され、広東省では、現在の8都市から2004年5月には同省全土に拡大される。香港では観光業は経済の5%を占め、経済成長・雇用創出にとって極めて重要であり、中国政府との個人旅行に関するこの協定により、今後さらに中国本土からの観光客の増加が観光部門の発展と雇用に寄与することが期待されている。

(3)評価

政府、中国と経済貿易協力強化(CEPA)に合意(海外労働時報2003年9月号参照)に言及して、香港製品に対する中国側の関税撤廃とサービス業に対する中国本土市場の開放の意義を強調した。また、8月に就任したヘンリー・タン財務長官も(2003年11月香港労働情報参照)、労働市場の回復が通常景気の回復に遅れることから、香港の景気は回復軌道に入ったと述べた。しかし9月の段階では、エドワード・チェン・リンナン大学学長も含めて、エコノミストのなかには、CEPAの効果を過大評価すべきではなく、9月の雇用統計の改善で景気が持続的に回復するとみるのは早計だと、慎重な見方をする者もいた。

これに対して10月の統計発表後は、2期連続の失業率の低下を積極的に評価する者が多い。タン財務長官は、中小企業の改善と中国本土からの観光客の増加による観光業の持続的な回復から経済が今後も改善すると、慎重な姿勢を保ちながらも楽観的な見通しを示している。また、イーデン・ウーン香港商工会議所事務局長も、10月の雇用統計の改善は予測を超えたもので、経済は強い回復基調に入り、また、今後CEPAの効果で失業率はさらに低下し、2003年末には7.7~7.8%まで低下するだろうとしている。

ちなみに、香港政府懸案の約700億ドルの財政赤字の解消については、SARSの影響でリョン前財務長官が設定した2006~2007年までの解消(海外労働時報2003年7月号参照)が不可能になったことはタン財務長官も認めたが、これについても一部有力エコノミストは、10月の統計発表を受け、香港経済の好転で財政赤字解消は2年遅れるだけで、2008~2009年の今後5年以内に解消が可能になるとの見通しを示した。そして、タン長官も10月22日、景気・労働市場の回復基調を考慮して、同様の見解を発表した。

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