南カリフォルニア交通機関のスト終結

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  • 国別労働トピック:2004年1月

11月19日に、南カリフォルニア州で医療保険の負担をめぐり、1ヵ月以上続いていたバス、地下鉄、列車を含む大規模な公共交通機関のストライキが終結した。ストライキ期間中、約40万人の通勤、通学に影響が出ていたが、翌日の11月20日には、すべての公共機関が通常どおりの運行を再開した。専門家によると、今回のストライキでは、1日当たり400万ドルの売り上げと賃金の損失があったと見積もられている。

ストライキの原因と終結に至る経緯

全米で3番目に大きい南カリフォルニアの公共交通機関MTA(Metropolitan Transportation Authority)は、組合が運営する従業員と退職者のための医療制度保険基金に対して、毎年約1700万ドル(注1)を支払ってきた。しかし、近年の急騰する医療費負担に対処するために組合側がMTA側へ追加負担を求めたところ、MTA側は、組合の誤った運営によって基金が破産しかかっていると指摘したうえで、外部監査の要求および一時的にMTAが基金を運営する方針を打ち出した。この提案に反発したMTAの整備・保守労働組合(ATU:Amalgamated Transit Union Local 1277)、約2200人が中心となって10月14日にストライキに突入した。これにMTAのバス、地下鉄、列車の運転手や事務職が加盟している労働組合(UTU:United Transportation Union)の約4300人が協力し、約35日近くストライキが続いていた。

MTAの整備・保守労働者は、昨年9月末に労働協約期限が切れて以降、1年以上労働契約を締結していない状態で勤務しており、それも今回のストライキの原因となった。なお、ストライキ前までのMTAの医療保険制度では、従業員は無料、家族の保険適用がある場合は、保険料月6ドルを支払っていた。

11月19日にストライキは終結したものの、今回発端となった医療保険の運営や負担問題については、未解決のままである。 ストライキの解除に当たっては、労使間の交渉を続けた結果、MTA側から今後3年間に整備・保守労働者に遡及分の賃金を含めて7%の賃上げを行うことが提案され、組合大会で組合員の85%がこれを承認した。医療保険問題については、今後労使双方の代表者および調停委員会から選出された仲裁者を含めた調停委員会を設けて話し合ったうえ、数ヵ月以内に結論を出す予定である。

企業の医療保険負担をめぐる労使紛争が増加

なお企業の医療保険の負担をめぐる問題では、同様に西海岸の大手スーパーマーケット3社の従業員、約7万人が10月11日以来ストライキを続けている。使用者側は、従業員への保険料支払いを行っていない全米最大のスーパーマーケットチェーン、ウォルマートとの価格競争に対抗するためには、全従業員の医療保険料の本人負担増は必須として、強硬な姿勢を崩しておらず、未だ解決のめどは立っていない。

国際的経営コンサルタント会社、ヒューイット・アソシエイツの調査によると、全米の医療保険費は、2001年には前年比の10.2%上昇し、2002年は13.7%、2003年は15.4%と上昇し続けている。従業員一人当たりの平均医療保険費も2001年が$4800であったのに対し、2002年は$5460、2003年$6295と負担額が増加し続けている。企業間の競争が過酷になるなかで、医療保険費、特に処方箋薬のコストが高騰しており、今年に入って、主要な企業が相次いで医療費負担の切り下げを実施し、全米各地で労使紛争が起こっている。

2003年に医療保険プランを変更した主な企業
企業名 主な変更事項
キャタピラー社 医療保険および退職者年金などの関連給付金コストが6900万ドルと高額であることが経営を圧迫しているとの判断から、従業員の保険料負担額を、約20%引き上げた。
ゼネラル・エレクトリック(GE)社 10カ月にわたる労使交渉の末の結果として、医療保険費用については、ゼネラル・エレクトリック社側が拠出金の82%、労働者が18%をそれぞれ負担することで妥結。 従来より高い保険料負担を導入(新しい保障プランは、緊急治療室や入院より、処方薬に焦点を当てているため、より高い被保険者負担額となっている)。従業員が負担する保険料は増加するが、これは、賃金と生活費用のパッケージによって相殺され、組合員には1万5272ドルを追加的に払い戻すことが約束された。
ゼネラル・モーターズ(GM)社 ゼネラル・モーターズ株式会社では、従業員および退職者への医療費負担として、2001年には42万ドルを支出していたが、2002年には45万ドルに増加しており、経営を圧迫しているとの判断により従業員の保険負担額が引き上げられた。新たな労働協約では、ブランドの処方薬に対する被保険者負担額が5ドルから10ドルに増加。もしノーブランドの処方薬の使用が可能な場合に、ブランドの処方薬を希望する場合には、追加の支払いが必要(ただし、医学上必要性のある場合を除く)。
メルク社 米製薬大手のメルク社自身も、従業員の保険料負担を引き上げた。主な内容については、独身従業員の月額保険料負担額を6ドル→9ドルへ、配偶者のいる従業員は、15ドル→20ドルへ、家族のいる従業員は20ドル→25ドルへ引き上げた。

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