CPF拠出率変更を受け、企業年金の導入を検討
中央積立基金(CPF)(注1)の使用者側拠出率が10月から引き下げられるのに伴い、従業員の退職後の資産形成を支援するため、個別に企業年金プランの導入を検討する企業が出始めている。拠出率を変動制にする世界初の試みもある。
CPFの使用者拠出率は55歳以下の従業員について10月から3%ポイント引き下げられ13%になる。従業員拠出率と合わせた全体の拠出率は現行の36%から33%になる。使用者のコスト負担を軽減することで、中国やインドなど低コスト国への資本移動を防ぎ、雇用の維持を図るためだ。
これを受け、一部の企業やコンサルタント会社が、企業年金制度の導入を認めている所得税法第5項の規定に注目している。同規定を利用した企業年金の導入計画はまだ初期段階にあり、いずれの計画も最終的には内国歳入庁(IRAS)の承認が必要である。
検討されている案は2つに大別できる。1つは、拠出率を変動制にする案で、拠出率を企業収益に連動させる。実現すれば世界で初めてとなる。もう1つは、自力で企業年金プランを設立することが困難な小規模事業者(従業員50人未満)が集まり、共同出資基金「マスター・トラスト」を設立する案。基金の管財・管理業務は外部委託される。
引き下げられるCPF3%分の扱いに関して、現行で企業が導入できるプランとしては、
- 拠出率3%の引き下げ分を利益として保持するか株主に還元する、
- 3%分を従業員に現金支給する、
- 3%分をCPF口座に直接振り込む、
- CPFの規定に沿った拠出率を維持しつつ、上記所得税法第5項で認められた年金プランを導入する
――といったオプションがある。
ただし、現金支給については、使用者の支給分は税控除の対象とならず、従業員は課税される。また3%分を口座に振り込む場合も、使用者に税控除は認められず、従業員も課税される。一方、第5項で認められた年金プランの場合は、雇用主の拠出金は税控除の対象となり、従業員は税負担を免れる。
CPFカット分を従業員に還元する企業は2割
引き下げられるCPFの3%分の扱いに関して、人材コンサルタントのヘイ・グループが9月に224社を対象に実施した調査で、従業員に還元する企業は5社のうち1社しかないことが分かった。
調査によると、96%(有効回答214社中193社)が10月からCPF拠出率を法定の13%へ引き下げる。そのうちCPF引き下げに伴う負担減を従業員に還元するのは39社だけで、63%は還元の予定はない。17%は考慮中。
39社が回答した具体的な還元方法には、
- 一時ボーナス(28%)、
- 可変ボーナスの増額(21%)、
- 手当増額(13%)、
- CPF補填(10%)、
- 研修・レクリエーション費用(10%)、
- 月次可変給に転換(8%)
――がある。
注
- 中央積立基金(CPF)は、老後の生活原資を国営基金の個人勘定に積み立てる国立積立基金の一種で、その内実は「強制積立貯蓄制度」である。1955年に被用者の老後の所得保障、死亡・傷害時の生活保障を目的に導入され、以降、住宅保障、財産形成、医療保障の機能を併せ持つ総合的な社会保障システムとして発達してきた。
- 原則として、すべての被用者が加入者となり、その使用者はCPFへの掛金の支払い義務を負う。掛金は年齢と所得に応じて使用者と本人が負担し(現行は使用者=16%、本人=20%)、個人名義のCPF口座に拠出する。口座は用途に合わせて分かれており、掛金は年齢層別に定められた割合で各口座に拠出される。
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