フィリピンIT分野:雇用機会拡大期待されるも人材育成が課題

カテゴリー:雇用・失業問題人材育成・職業能力開発

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  • 国別労働トピック:2003年12月

2001年1月に発足したアロヨ政権は、コールセンター設立や移動体通信設備投資などITサービス産業の成長で工業部門の低迷をカバーし、ITサービス産業の育成を経済政策の最優先課題として様々な優遇政策を採択してきた。フィリピン経済の成長軌道回帰に大きな影響を与えているITサービス産業は、十分な教育と確かな英語力を持つ労働力、そしてその人件費の安さから外資系企業に注目され、特にコールセンター事業は今後さらなる成長が予想されている。

現在フィリピン国内のコールセンターは40カ所以上に上り、2万人以上が働いているとされるが、豪州系シンクタンクのコールセンターズ・ドット・ネットの調査によれば、フィリピン、中国、インドのコールセンター事業は来年急成長し、フィリピンのコールセンター数はおよそ4万席に倍増する見込みだという。こうしたコールセンター事業の成長は、都市部以外への国民の雇用機会の提供につながるとして、ロハス貿易産業相は、外国企業を中心としたIT関連業界にコールセンター事業の地方展開を呼びかけている。

このようにITサービス産業のさらなる成長と雇用機会拡大の期待が高まるものの、人材不足という問題は依然として解消されないままである。今年4月にセブでコールセンター事業を立ち上げる準備を進めていた米国系企業が「アメリカ英語」を操る人材を確保できないなど、その他の米国系企業による開発計画も人材確保の難しさから延期が懸念されるという事態が生じている。こうした状況を受け、投資委員会(BOI)は96時間のオペレーター養成講座の開設による人材育成を計画しているが、1回のプログラムで60人しか修了することができず、需要をカバーするにはほど遠いとされる。

こうしたなか、日本のIT関連企業の需要にこたえる人材の育成計画が進んでいる。フィリピン情報処理技術者試験(JITSE-Phil:the Japanese IT Standards Examination of the Philippines)財団は、9月7日に実施した同試験の合格者は37人で、合格率は前回を上回り8.4%に達したと発表した。JITSE-Phil財団は、日本の経済通産省とフィリピンの貿易産業省が合同で設立した財団であり、特にフィリピンから日本への技術者派遣を目指したもので、テスト版としてマニラとセブで昨年実施された試験では719人が受験し、合格者は38人(合格率5.2%)であった。

JITSE-Phil基金のコラソン・アコル代表は、日比両国での雇用機会拡大へつながると、学生だけでなく国内のIT企業で働く社会人にも参加を募り、受験者数の増加を期待していたが、最終的に受験したのは443人で前回の6割程度にとどまった。しかし合格率では、前回を3.2%上回る8.4%という結果となった。

JITSE-Phil財団のほかにも、ソフトウェア開発などを手掛けるアドテックス・システムズが、今年4月に新卒技術者養成センター「アクション」を設立している。国内の優秀な学生を研修し指導的役割を担える技術者の養成を目指して設立されたセンターだが、同社が昨年の12月から全国各地の新卒学生を対象に募集したところ、600人以上の応募があり、最終的に19人を第1期生として迎えた。今後は年2回のペースで優秀な新卒学生を応募し、IT分野における人材育成の強化を目指すという。

前述のJITSE-Phil試験やアドテックス・システムズの新卒技術者養成センターなどで資格を得た技術者は、日本で働き、さらに高度な技術を習得して、母国の技術・経済の発展に貢献することが期待されている。だが、こうした長期的な視野に立ったIT技術者の育成と並行して、急速に雇用が増加しているコールセンター事業に代表されるようなICT(Information and Communication Technology)分野での人材育成をどうするか。IT技術者の育成よりは比較的短期間の研修で技術を習得できると予想されているが、前述のように雇用増加のスピードに追いついていけないというのが実情である。

ITサービス産業における技術進歩は非常に速く、それを支える人材に求められる能力・質の向上にも終点がない。これまで、フィリピンのIT分野における人材の特徴といえば「安い人件費」「アメリカ英語・アメリカ文化に慣れている」「4年制大学を卒業し高い教育を受けている」といったものが主であったが、今後は、国際的に通用するより高度な技術を習得した上級のIT技術者、そしてその指導者の育成が求められるといえよう。

確かにフィリピンのIT分野の成長には、雇用増加が期待できるであろう。しかし、まずその需要をカバーする人材の確保が大きな課題であり、より高度な技術と専門的な知識を備えた人材を育成する教育システムと、国内外の組織的協力のさらなる充実が必要不可欠であるといえる。

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