社会協同組合を通じた障害者雇用策

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  • 国別労働トピック:2003年12月

1.序―障害者雇用に社会協同組合を利用する試み

労働市場に障害者を組み込む措置には、次の2つの特徴がある。

  1. 使用者が、ハンディキャップを持つ労働者を一定割合採用すべき義務が課されるという意味での規制的性質
  2. 対象者の労働能力を有効活用し、市場における価値を高めるというサービス色の強い非規制的性質

これまでの法的措置の多くが、a)に基づいて実施されたのと対照的に、2003年7月31日に閣議により承認された2003年2月14日法律30号(いわゆるビアジ法)の実施令14条は、b)の側面を特に重視し、新たな積極策による障害者雇用を試みている。

実施令14条は、社会協同組合の強化や発展を保証するため、官民の委託の利用を促進することを実験的に推進している。同令は、義務的採用制度に代わる効果的な障害者雇用策として、社会協同組合の利用を考えているわけである。

2.1999年法律68号

1999年3月12日法律68号〔障害者に対する労働の権利に関する規定〕は、68年4月2日法律482号が定めていた義務的採用制度を大幅に改正していた。この改正は、憲法2条および38条に整合的に、かつ、憲法4条の解釈「勤労権(労働権)とは、自己の能力および素質に準じて、労働を選択する自由を持つことに対する権利である」に則して、障害者の勤労権(労働権)を承認した。同法の第1の目的は、障害者の職業能力の有効活用だったといえる。

さらに1999年の改正では、「義務的採用のための事務所」、すなわち、障害者雇用策を地域の社会・保健・教育・訓練サービスに関連させて計画、実施および評価する組織(97年12月23日委任立法469号4条に基づき、州が定める)も始動した。1999年法律68号によると、義務的採用のための事務所には、職業訓練、名簿の作成、義務的採用の免除や相殺に関する許可、協定の締結および対象となる採用の実施も含まれている。

1999年法律68号12条は、使用者(特に社会協同組合)について、障害者を社会協同組合に臨時的に組み込むとの内容の協定を締結しうると定めている。こうした協定を結んだ使用者には、一定の労働委託を協同組合にゆだねる義務が生ずる。

しかし、このような規定にもかかわらず、1999年法律68号は、目的に応じた管理運営のためには一定の規制を置かざるをえないという考え方を放棄していない。特に、障害者の勤労権(労働権)は、促進ではなく保護という観念、そして、機会ではなく義務の仕組みに基づいて保障するという点は変更されなかった。

1999年法律68号が、運営設備を著しく改善し、また、障害者雇用を優遇するというように、従来に比べて負担を小さくし、弾力性を高めるという方法をとっていることは評価できるが、就業促進という点で目的を十分に達成できそうにないことも事実である。要するに、一定の努力が見られるものの、実際の就業効果は、潜在的権利保有者のうち、極めて限られた人々にしか表れていないのである。

2003年法律30号の立法者の意図は、その実施令案14条が定めているように、社会協同組合のために新たなシステムを構築することにある。ここでは社会協同組合が、障害者の勤労権(労働権)を実現するための方策の1つと考えられているのである。14条は、労使と協力のうえ措置を実施し、企業にインセンティブを与えるというモデルを実験的に採用している。こうした枠組みのなかから、障害者雇用措置を具体化するために地域レベルの枠組協定が生まれることになろう。

特に、地域社会の利益を追求する社会協同組合は、社会的弱者を労働に組み入れることで住民の社会性を高め、また、住民を社会的に統合することに寄与している。また、障害を負った労働者が経済的なイニシアチブをとる積極的な主体となりうるよう専念している。これらの労働者も、適切な政策により支援を受けられれば、社会扶助に頼らずとも、徐々に市場で自律しうるのである。

さらに、社会協同組合は、社会的統合計画において特別な役割を果たす。つまり、事業主としての実体と、積極的労働政策の具体化に協力する主体としての役割とを同時に持っている。社会協同組合が、新たな経済領域および積極的雇用政策の発展にとって極めて重要なものと位置づけられ、また、経済、社会および労働市場の変化により生ずる新たな社会的需要にこたえることができるのは、まさにこうした2面性のためである。

3.障害者雇用に関するいくつかの問題

イタリアでは、社会協同組合は、社会サービスの計画および運営の主たるアクターである。協同組合による支援は、適切な労働政策を通じて正しく実施されれば、市民が直接の主役となる手段となりうる。また、地方自治体の支援があれば、一定の地域および集団の需要に応じて、適切な措置を実施し、最適な人材を育てることも可能になろう。

先に述べたように、1999年の強制的採用制度の改革が実施されたにもかかわらず、障害者雇用をめぐる問題は今日でも様々な領域で生じている。

家族や機関による扶助といった考え方のような文化的素地以外に、障害者に関する労働市場(求職は専用のリストに登録された者が行い、求人は採用義務に基づき労働ポストを確保すべき使用者が行う)の不均衡状態が足かせとなっている。つまり、利用できる労働ポストが多く、障害者の数が少ない地域があるという地域的な不均衡がある一方で、市場の第3次産業化にもかかわらず、障害者を引き受ける第3次産業が限られているという産業部門の不均衡もある。実際、求人の多くは工業部門および公的部門からのものである。一方障害者は、公的部門のほか、銀行および第3次産業一般における労働を好む伝統的な傾向があるために、求人と求職との間に齟齬が生じている。つまり、障害を持つ労働者は工業部門での就職にあまり関心を示さず、業務内容によっては完全に拒否する場合もある。

このように考えると、十分な労働ポストがあるだけでは、障害者雇用の問題を解決するには不十分であることがわかる。障害者については、就労の機会がなく、就職するのに時間がかかるとはいわれるが、同時に、現実には求人に応じる者が少ないという逆説的な状態も並存しているのである。

さらに1999年の改革では、障害の形態・性質が様々なこともあって、当初設定された目的は十分達成されなかった。すなわち、障害の性質や程度により問題が可変的であるので、障害者は、雇用という観点からすると、全く同じものととらえることはできない。障害の軽い障害者について一定の効果が上がったとはいえ、雇用率(障害者に留保される労働ポストの率)という仕組みをすべての障害者について適用することは、労働能力を著しく制限された人々には適切ではなかったのである。

2003年法律30号14条は、従来よりも柔軟な制度を取り入れる予定である。これまで議論されているところによると、社会協同組合の発展を支援するために、金銭支援のほか、社会協同組合に職業紹介業活動の遂行を認めるような措置も検討されている。

5.EUの指針

EUは、最近、2002年規則2240号で、ハンディキャップを持つ労働者、特に障害を持つ労働者に特別に配慮する必要性を強調した。同規則は、障害者については、「採用だけでなく、労働市場にとどまることを可能にするような恒常的な支援が必要になりうる」と述べている。

さらに、EUが労使と地方レベルとの対話に関してとった立場も非常に重要である。地方自治体は常に市場の需要に接しているからこそ、その要求をよりよく調整できるという考え方に基づいて、EUは、特に地方レベルで実現可能であって、使用者および労働者組織も参加しうる計画に関心を寄せている。実際、EUは様々な地域市場の過去および現状を深く理解し、欠くべからざる対話者となっている労使との関係を極めて重視している。

ビアジ改革で、立法者は、社会協同組合を利用した障害者雇用について新しい規制を定めている。労働ポストを割り当てるだけでなく、目的と措置と結果とが結びついた、就業と利益を創出しうる制度を始動することが必要である。立法者の意図は、こうした制度のなかで、社会協同組合が義務的採用制度に代わる有効な装置として機能することにある。

新制度は1999年法律68号に基づいてはいるが、使用者組織、労働者組織および社会協同組合が地方レベルで締結する枠組協定を発展させることで、現行法の拡大にも寄与するだろう。このような枠組協定によって、使用者組合から社会協同組合への労働委託に関する協力のための基本事項を定める。すなわち、今回採用されたシステムは、社会協同組合制度へ組み込むことで障害者雇用を達成するものなのである。

枠組協定は、社会協同組合と、相対的に最も代表的な使用者組織および労働者組織との間で締結されることになっている。この方法は、1999年法律68号でも定められていた(従来のような「最も代表的な」ではなく「相対的に最も代表的な」という表現を導入した)。つまり、ビアジ改革は、ここ数年の立法の流れを受けたものでもある。

枠組協定において、労使は、社会協同組合および関係協会とともに、同協定への参加方法および採用措置の対象者となる障害者の判別方法を定めるよう求められている。

特に、障害者の判別に関する権限は、州における障害者雇用サービスについて設置された技術委員会にゆだねられている。社会・法医学の専門家により構成されるこの技術委員会には、すでに、1999年法律68号により、障害者に残された労働能力の判定、採用に関する方策および給付の決定並びに無能力状態の継続する期間の確認に関する権限がゆだねられていた。

実施令14条は、さらに同技術委員会に対して、枠組協定が適用されうる障害者の判別権限、および、1999年3月12日法律68号3条にいう雇用率(障害者に留保される労働ポストの率)にこうした障害者を算入しうるかを決める「採用に著しい困難があること」の判断権限をゆだねている。

枠組協定の実施措置として企業に採用される主体を、義務的採用で定められた雇用率に算定しうると定めたことは、「特殊な性質を有し、通常の労働サイクルのなかで採用されることが困難な」主体を引き受ける企業に対するインセンティブである。

枠組協定で定められた労働委託制度を利用する企業が増加するように、間接的なコストや付加的な利益も考慮して、使用者にとって有益な仕組みにより制度を運営することが必要である。立法者自身は、この必要性を意識して、労働委託を法律で定める義務に勘案する可能性を定めている。つまり、技術委員会の判断に基づいて、特殊な性質を有し、通常の労働サイクルのなかで採用されることが困難と判断された障害者を社会協同組合が雇用する際には、採用数に応じて、1999年法律68号3条にいう雇用率を満たしたものと見なされるのである。社会協同組合に採用される労働者の算定の妥当性は、県労働局、同局が奨励する認証団体、または、実施令案13条2項にいう技術運営機関自身が判断する。

現段階ではまだ明記されていないが、使用者に対する便宜として、障害者の採用に際して企業の引き受けるコストの削減や責任の緩和が定められることも予想される。

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