スペインにおける失業の動向

カテゴリー:雇用・失業問題外国人労働者

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  • 国別労働トピック:2003年11月

1.移民と失業

移民の出身地は、労働者が失業しやすい傾向にあるか否かを知るうえで重要な要因である。EU以外の外国人労働者にとって、スペインの労働市場はバラ色というにはほど遠く、失業率はスペイン人労働者よりもかなり高い。移民アンケートによると、中低所得国出身労働者の失業率は、スペイン人労働者の失業率の11%に対して18%となっている。スペインにおける外国人労働者の失業率は、出身国の平均所得とほぼ完璧な相関関係を見せている。

失業率が最も低いのは米国およびEU諸国出身者で、2001年には11%となっている。特に米国出身者の男性ではほとんどゼロである。スペイン人労働者よりも失業率が高いのは、東欧出身者(14%)、ラテンアメリカ出身者(15%)、アフリカ出身者(20%)で、またいったん失業しても失業手当受給は難しい。貯蓄銀行のラ・カイシャ財団によると、2001年にスペインには国立雇用庁で職業紹介を求める外国人が8万7000人いたが、そのうちなんらかの経済手当を受給していたのは2万3000人のみであった。スペイン人では求職者のほぼ3人に2人が国立雇用庁の手当を受けている。

国籍別・性別に見た失業率(2001年)

図1:国籍別・性別に見た失業率(2001年)

2.失業、部門、失業する前の職業

過去3年間のうちになんらかの形で雇用されていた失業者の12%は農業部門で働いており、16%は工業部門、14%が建設部門の労働者であった。残りは最後に就いていた職業がサービス部門の失業者である。失業者の割合を就業者の部門別割合と比べると、どの部門で失業者が出やすいかが明らかである。

失業者の割合を同部門の就業者の割合で割ってみると、雇用が最も減っているのは農業部門で、同部門の就業者100人に対しかつて農業労働者であった失業者は19人にも上る。同じ部門内で失業者と就業者の割合が10%以上異なる部門として、ホテル・レストラン業、家事労働サービス、建設業、個人に対するサービスが挙げられる。このような雇用機会の減少が進んでいる部門に対し、採掘業、金融サービス業、エネルギーおよび水産業では、失業者と就業者の割合の差は5%未満である。

職業別に見た失業率は、熟練度と強い相関関係を示している。失業率は民間企業および行政部門の高度管理職では低く2%弱で、失業者数は3000人未満である。いずれの部門でも熟練労働者の失業率は10%未満であり、逆に未熟練労働者ではそろって2桁の失業率である。

(表)職業別に見た失業率(2002年)
企業・行政における管理職 2.1
科学技術部門専門職・知的専門職 3.6
技術専門職補佐 5.9
事務職 8.0
レストラン業職員・個人に対するサービス・小売業労働者 10.8
農業・水産業における熟練労働者 3.6
製造業熟練労働者及び手工業者・建設業労働者・鉱業労働者 7.1
機械設置工・オペレーター 6.4
未熟練労働者 17.5

出典:国立統計庁「労働力調査」に基づき独自に作成

3.失業の回転

失業者のうち、女性では失業する直前の活動が家事手伝い・家族の世話である者が10%を超えるが、男性ではゼロである。しかし、この点を除けば失業状態に陥る前の活動は性別によってほとんど違いがない。1980年代以来、失業者全体に占める元就業者の割合は増える一方で、雇用の不安定さを物語っている。過去15年間にわたり、失業者のうち非労働力人口であった者の割合は漸減している。

失業前の状態別に見た失業者数(1987~2002年、%)

図2:失業前の状態別に見た失業者数(1987~2002年、%)

出所:国立統計庁「労働力調査」に基づき独自に作成

失業する直前まで働いていた失業者のうち、最も多いのは有期雇用労働者で雇用契約の更新をされなかった者である(失業者4人に3人)。なんらかの理由で解雇されたため失業した者は10%で、その他は退職等の理由により失業した者である。解雇による失業者が減る一方、有期雇用契約が更新されなかった失業者の増加が目立つ。

失業した理由別に見た失業者(1987~2002年、%)

図3:失業した理由別に見た失業者(1987~2002年、%)

出所:国立統計庁「労働力調査」に基づき独自に作成

1980年代末には、失業する直前まで働いていた失業者の50%強が有期雇用労働者であり、解雇されたため失業した労働者は失業者の30%近くに上った。有期雇用が一般化するにつれ、労働市場においては雇用の流動性が増してきた。

4.長期失業者

失業期間の長さは経済情勢および労働市場の状況と強い関係を示している。2002年には2年以上失業している失業者が23.7%、1~2年失業している者が16.5%となっている。つまり、失業者の40%程が長期失業者と見なされる。過去数年にわたる好景気により、長期失業者は大きく減少した。1994年には失業者の60%近くが1年以上にわたって失業しており、80年代半ばには70%近くに達していた。逆に、解雇に対する厳しい制限が存在し、失業が少なかった1970年代の労働市場では、長期失業者の割合は極めて低率(10人に2人未満)であった。

平均失業期間(1978~2003年、カ月)

図4:平均失業期間(1978~2003年、カ月)

出所:国立統計庁および国立雇用庁のデータに基づき独自に作成

グラフにして比較すると、平均失業期間と失業者全体に占める長期失業者の割合はほぼ平行した動きを見せている。1970年代末には、平均失業期間は10カ月にも満たなかったが、失業者数が増加し、労働市場の条件が悪化し、何よりも失業手当額が大きくなり、また手当受給が簡単になるにつれ、平均失業期間は倍増している。

1980年代末には平均失業期間は20カ月であったが、以来雇用条件の改善により90年代初頭まで短縮を続け、その後91~94年の不況で再び長期化している。失業手当改革によって手当の減額・アクセスの困難化が実現した1994年以来、平均失業期間は少しずつ短くなっている。

現在、平均失業期間は12カ月強となっている。長期失業は特に女性労働者に多く見られ、女性失業者のほぼ半分は1年以上失業している(男性失業者では3分の1)。また、一見矛盾しているように見えるが、教育水準が高くなるほど長期失業の割合も増えている(ただしそれほど大きな差はない)。これは、教育水準が高い層では雇用においても特別な条件が要求されるため、労働市場への参入が遅れることと関係しているようにも見られる。農業部門での失業者は長期失業者の割合が低く、20%のみである。これは建設部門の失業者についても言え、ともにサービス部門における長期失業者の割合よりかなり少ない。

5.雇用探し

労働市場へのアクセスに際して、スペインの失業者はどのような条件を重視するか?

労働時間については、失業者の45%は特に希望なしとしているが、30%が可能ならば終日労働を希望、そして16%が終日労働でないパートタイム労働は断るとしている。最初からパートタイム労働を希望する失業者は、わずか4.4%である。

失業者はどんな雇用でも構わないというわけではない。職業の変更には絶対に応じないとする失業者は8%、またより低い職業カテゴリーを拒否する失業者は14%となっている。このように、スペインでは職業間での流動性に対する心理的な拒否感が非常に強いといえる。

また、居住地の変更も大きな問題である。スペインでは失業者のほぼ半数が、就職するための条件として転居するつもりは全くないとしている。もっとも年齢による差はあり、25歳未満では転居を難とする失業者は10人に4人程度であるが、35歳以上では60%が転居を拒否している。1980年代末には失業者の40%が就職のために転居を受け入れるとしていたが、2002年には転居を拒否する失業者が50%近くに達している。また、この傾向は好況・不況にかかわらずに見られる現象である。

このように、居住地の変更や職業の変更に対する拒否感が大きくなっている。ただし、15年前と比べ、就職の条件として職業を変えることを受け入れられないとする失業者は減っている。一方、収入については、より低い収入を受け入れられないとする者の割合は18%となっており、居住地や職業の変更に比べれば妥協可能性が大きい案件といえる。

以下の各条件を受け容れられないとする失業者の割合(88年、94年、及び2002年)
  1988 1994 2002
転居 42.9 44.1 49.2
職種変え 9.8 9.0 7.8
収入が希望額よりも少ない 17.4 14.2 17.9
職業カテゴリーが希望よりも低い 12.8 11.2 13.5

出典:国立統計庁「労働力調査」に基づき、独自に作成

失業者が仕事を探す方法は極めて限られたものである。83%は公的職業紹介所に登録して、そこで提供される仕事から就職先を決めている。民間の職業紹介所を利用する失業者は、わずか2%のみである。家族・親類を通して、あるいは経営者に直接コンタクトをとって就職活動を行うのは5~10%、その他の方法はごくわずかしか用いられない。

雇用の探し方別に見た失業者の割合(2002年)

図5:雇用の探し方別に見た失業者の割合(2002年)

出所:国立統計庁「労働力調査」に基づき、独自に作成

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