海外に出稼ぎするインドネシア人労働者への保護政策、改善されず

カテゴリー:外国人労働者労働条件・就業環境

インドネシアの記事一覧

  • 国別労働トピック:2003年11月

深刻な経済不況と高い失業率から、海外に出稼ぎするインドネシア人は数百万人規模と言われている。最大の出稼ぎ先である隣国マレーシアでは、2002年1月にインドネシア人労働者が暴動を起こし、国際問題にまで発展した(詳細は『海外労働時報』2002年45月号)。

次いで人気の出稼ぎ先として、中東方面や香港・シンガポールなどがある。男性は主に建設業や工場労働者、庭師、運転手など、女性は家政婦や工場労働者、看護士などに従事することが多い。海外出稼ぎの歴史が長い同国であるが、いまだ出稼ぎ先の労働者保護の政策は十分とはいえない状況である。

サウジアラビアで働く家政婦250名が国外追放に

現在サウジアラビアに滞在しているインドネシア人の家政婦は約25万人(正式な労働就労登録をしている労働者数)と言われている。家政婦は個人の世帯に派遣され、就労状態が第3者の目に触れることが少ないため、雇い主とのトラブルが多い職業である。インドネシア人家政婦も例外ではなく、在サウジアラビアのインドネシア大使館へは、1日およそ10件ほどの相談や苦情が寄せられているという。相談窓口の担当者によると、それらの苦情の90%がセクシュアル・ハラスメントに関することで、60%が賃金未払い、12%は言葉による暴力、2%が無給残業の強制ということであった(相談内容は複数に亘る場合があるため、合計値は100%を超える)。

そのようななか、8月31日付けの中東地域の大手英字紙ArabNewsによると、インドネシア人家政婦250名以上が強制送還の措置を待っている状態で、そのうち68名はインドネシア大使館内の避難所で生活をしているという。不法就労者はもちろんのこと、雇い主からの虐待や嫌がらせのため、就労契約期間内でも大使館に避難し、帰国を希望する女性があとを絶たないということだ。

サウジアラビアはインドネシア人労働者に出稼ぎ先として人気のある国ではあるが、2003年に入ってから、サウジアラビアにインドネシア人の出稼ぎを斡旋している民間会社が、一斉に就労斡旋料を2800サウジ・リアル(SR:1米ドル=約3.5SR)から3500サウジ・リアルに値上げしたため、サウジアラビアの使用者側は、インドネシア人以外の家政婦を雇う傾向が見られるという。そのため、関係者らはインドネシア人に対する出稼ぎ需要が減少するのではないかと危機感を持っているということだ。

海外出稼ぎ労働者の保護に関心が薄い政府

2003年9月11日、7大臣(経済調整省、労働・移住省、外務省、内務省、法務・人権省、社会省、保健省の各大臣)による海外移民労働者に関する閣僚会議が開催された。この会議において、主にマレーシアに就労するインドネシア人労働者の具体的な保護政策をどのように実施していくかを協議した模様。しかし最終的な具体案がどのように決定したかは公表されていない。

2000年1月にマレーシアの繊維工場におけるインドネシア出稼ぎ労働者の暴動により、インドネシア人労働者の一斉取締り及び新規の雇用契約廃止により、約60万人の出稼ぎ労働者が強制帰国させられた。強制帰国させられた労働者らは、強制送還後も故郷に帰れず、マレーシア国境近くの東カリマンタンに滞留して、食料もままならない悲惨な生活を余儀なくされていたため、NGOや人権団体からもインドネシア政府への批判が挙がっていた(詳細は『海外労働時報』2000年4月号,5月号参照)。

海外出稼ぎ労働者の保護を活動目的とするインドネシア移民労働者連盟(KOPBUMI)のワユ代表は、インドネシア政府の問題に対する関心の低さを批判している。同氏によると、政府は海外出稼ぎ労働者の海外での死亡者数を正確に捉えていないが、連盟の調査によると2003年1~6月の間、90名のインドネシア人の出稼ぎ労働者が死亡しているという。ワユ代表は、政府はこの深刻な事態を把握し、早急な対策をしてほしい、とコメントしている。

出稼ぎ労働者保護という点では関心が薄い一方で、インドネシア国内の失業率は深刻さを増している。8月14日付けの現地新聞KOMPASによると、労働・移住省は、4000万人にも達する国内失業者数を抑える目的で、2004年中に65万人を海外出稼ぎ労働者として送り出す目標値を打ち出した。

2003年11月 インドネシアの記事一覧

関連情報